現代物短編中編

うりぼう

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こんな親衛隊があったって良いじゃない2

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いつもより早く登校した親衛隊長。
道の途中で大好きな背中を見つけ、尻尾を振らんばかりの勢いで駆け寄る。

「会長!おはようございます!」
「おはよう。早いね」
「目が覚めちゃったんです。でも学校着く前に会長に会えるなんてラッキー!」
「そう?(かわいいなあ)」
「そういえば例の転校生、最近どうですか?」
「ん?ああ、相変わらずだよ」
「……まだ変な言いがかりつけられてますか?」
「言いがかりっていうか、もうあれ妄言だよね。発想が凄すぎて一瞬何言われてるかわかんなくなっちゃったよ」

はははと苦笑い。
二人の言う言いがかり且つ妄言とは。

『オレのこと好きだろ?』
『興味ないふりして本当は嬉しいくせに』
『あ!わかった!オレの気惹きたくてわざとそんな態度とってんだろ!』
『もしかして遠慮してる?オレが人気者だからって気にしなくても良いのに!』
『大丈夫、邪魔者はオレがやっつけてやるから!』
『なんの心配もいらないからな、安心してオレの胸に飛び込んでこいよ!』

頭が痛くて反論する気も起きない程の勘違いっぷりである。
いつ好きだって言った誰が遠慮してる誰がそんなところに飛び込むかと小一時間。

「こないだ作戦会議して更にバリケード強化したのにあんにゃろう……!自信あったのに……!」
「ああ、こないだの集会凄い盛り上がってたもんね」
「そうなんですよ!みんなやる気満々で頑張ったのに!ちくしょう手緩かったか……」
「なんかね、いつの間にか突破してるみたいだよ。凄いよね」
「感心してる場合じゃないです!悔しいなあ、やっぱり今後は作戦Bで行くか」
「何、作戦Bって?」
「内緒です」
「オレに言えない事なの?」
「え、いや」
「隊長には隠し事してほしくないなあ」
「っ、っ……!(ぐあっ、かっわいいなオイ!)」

しゅんと眉を下げる会長に悶える隊長。

「どうしても言えない?」
「あのっ、だから、その……!」
「お願い」
「っっっ、ちょ、ちょっと呼び出して注意するだけです!」
「それだけ?」
「…………ついでにちょーっとだけお仕置きを」
「何するの?」
「それは、その……」
「ねえ、何するの?」
「だから、えーっと」
「……」
「……やっぱり直接のお仕置きはしない方が良いですか?でも、それとなく庇うにも限界があるし、てかこれ以上会長にちょっかい出されたらオレぶち切れそうっつーか」

実はまだ直接的には接触しておらず、何重にも人間トラップを仕掛けていただけだったりする。

「あ!それともやっぱり実は転校生の事心配ですか?」
「え?転校生の心配?そんなの全然してないよ」
「でも」
「心配なのは、きみ達が転校生に何かされるんじゃないかって事」
「あ、それは大丈夫ですよ!なんかされたら倍返しするんで!」
「……何かされた後じゃ遅いんだけどなあ」
「?何か言いました?」
「ううん、何も」
「(うわーっうわーっこの距離でその笑顔は反則だ鼻血噴く……!)」

鼻を押さえ震える隊長。

「あれ、どうかした?気分悪い?」
「な、なんでもないです大丈夫です!」
「なら良いけど」
「……会長?」
「……」
「……あの?」

じっと見つめる会長に鼓動が速まる。

(やべえ会長に見つめられちゃってるよオレすげえみんなごめん)

心の中で隊員に謝りつつにやけが止まらない。
顔に熱も集中してきた。

「……きみ達に任せっきりなオレが言えるセリフじゃないけど」
「はい?」
「あまり無理しちゃダメだよ?怪我もしないようにね?転校生になんかされたらすぐ言うんだよ?」
「ふっ、やだなあ会長心配しすぎですよ!てか転校生に何かされてるのは会長じゃないですか!」
「そうだけど」
「大丈夫です!二度とあんな妄言吐かせないように今度はしっかり調教してやりますから!」
「……ちょう(本当に何するつもり)」
「それにこれはオレらが勝手にやってる事なんだから、会長は余計な事考えないで大人しく守られててください!」
「オレはきみ達に何もしてあげれてないね」
「会長はいるだけでオレらの力になるから良いんです!」
「(かわいい。ほんとかわいいきゅんとする)」
「あ、学校着いちゃった。残念」

もう少し話したかったな、と唇を尖らせる隊長。
でもあまり度が過ぎると隊員に示しがつかないので我慢だ我慢、と自分に言い聞かせる。

「……オレも残念だな」
「え?」

そんな彼を、会長はそっと下駄箱に押し付け両腕で閉じ込め……

「…………………え?」
「ふはっ、かわいい」
「……っ、え?え!?」
「じゃあまた後で。あまり無茶な事したら駄目だからね?」
「―――っ、っ」

ぽふぽふと頭を撫で去っていく会長。

後には、唇に触れた柔らかい感触がなんなのか暫く信じられず、けれども何をされたかはわかってしまった隊長が、顔を真っ赤にして固まっていた。















そして昼休み。
作戦Bを実行に移した親衛隊の面々。
呼び出しの定番校舎裏にて、額の汗を手の甲で拭い、キラキラと輝く満足気な表情の彼らとは対照的に。

「も、もう、迷惑かけませ……っ、ごめ、ごめんなさい……!」

涙ながらに息も絶え絶えひーひーと転がる彼は、親衛隊の作戦Bもとい『問答無用の実力行使!あなたは何分堪えられるかな?レッツくすぐり地獄☆』に、あえなく撃沈。

さて、これで問題は解決したかに思えたが。

「あ、やっぱりここだった」
「っ、か、かいちょ」
「迎えにきたよ。ご飯一緒に食べない?」
「えっ」

今まさに転がってる転校生をさっくりと無視し、隊長へと笑顔を振り撒く会長。
誘われて今朝の事を思い出し一気に恥ずかしくなる。

「あれ、隊長どうしたの顔真っ赤だよ会長待ってるよ?行かなくて良いの?」
「良いなあ隊長、会長から誘われて」
「羨ましー。まあ隊長だもんね、仕方ないか」

転校生相手に、会長に迷惑かけるなとお仕置きした直後に自分が抜け駆けのような真似をしている現実にはっとする隊長。

「っ、っ」
「隊長?」

あんな事があったなんて知らない副隊長と隊員達。
ああ、こんなに信用してくれてこんなオレに付いてきてくれてる隊員たちを、オレは、オレは……!

「……っ、うわああああみんなごめええええん!!!!」

みんなが大好きな会長にキスされてしまった事が申し訳なさすぎていたたまれなくてダッシュで逃げる隊長。

(オレは、オレは最低な裏切り者だうわあああああもうみんなに合わせる顔がない……!)

『走って逃げる』が信条なだけあって見事な逃げっぷりである。

「うえ!?ちょ、隊長!?」
「おおおいなんで逃げてんの!?てか何謝ってんの!?」
「戻ってきてー!会長置いてけぼりになってるからー!」
「ぶっ、くくっ、かっわいい……っ」

隊長の心の内が容易に想像出来て噴き出してしまった。

「……かいちょー、隊長に何したんですかあんた」
「ちょっとね」
「……はー……」

にっこりと笑む会長に、呆れたように溜め息を吐く副隊長及び隊員達がいた。

会長が隊長大好きなのは周知の事実で。
隊長が会長大好きなのもまた然り。
なんだかんだで両想いな彼らを隊員達も実はひっそりと応援しているのだが、隊長だけがまだ知らず。

「ほんとかわいいよね」
「あんまりうちの隊長いじめないでくださいよ」
「だってかわいいんだもん」
「……ちゃんと責任とってくださいね。隊長が親衛隊やめるって言い出したら転校生けしかけますよ」
「ははっ、それは勘弁。でもオレとしてはやめてほしいんだよなあ。変に遠慮しそうだし」
「オレらの癒やし取らないでくださいよ」
「愛されてるねー、うちのこは」
「まだ会長のこじゃないですけど」
「うん。まだ、ね」

会長が意味深な笑みを浮かべた事も、こんな会話がされていた事も、隊長だけが知らない。








終わり
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