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こんな親衛隊があったって良いじゃない
しおりを挟む王道な全寮制の金持ち学校の生徒会室にほどなく近い親衛隊専用の一室。
ずらりと並ぶ隊員達の前にはごくごく普通の生徒が一人。
親衛隊の隊長である。
しん、と静まり返る室内。
たっぷり時間を置いた後に、漸く隊長が口を開いた。
「最近、転校生の魔の手が我らが会長に伸びてるらしい事はみんな知ってるな?」
ざっと見渡しただけだが、その目は皆一様に肯定を示している。
転校生。
季節外れにやってきたそいつは、見目はまあまあ良いのだがそれだけで、初対面だろうが年上だろうが関係なしにタメ口をきき名前は呼び捨て、人の話は聞かない自分の主張はしまくる思い通りにならなければ喚き騒ぎ暴れ、常に自分に注目を集めたがる非常に手に負えない奴だった。
それでもその我が儘っぷりが可愛いと頭沸いた連中がいて、それがまた権力者ばかりだから、そいつらにちやほやされて奴の勘違いは更に拍車をかけるばかり。
副会長に会計に書記に学年の人気者をことごとく嗅ぎ分けちょっかいを出してはその都度敵を作っていたのだが、ついには会長にまで近付いてきた。
予想はしていたから対策も練っていたのに、包囲網を潜り抜け奴はやってきた。
びっくりだ。
当然、親衛隊はおもしろくない。
会長が許容しているのであればこちらも考えがあるのだが、どう見ても会長は迷惑そうだった。
転校生を排除しようとする流れが出来るのは当然の事だった。
「あんな無礼極まりない奴は久しぶりだからな、腕が鳴るな」
「隊長、顔恐いよ人殺せそうだよ」
邪悪に笑む姿は既に普段の一般生徒ではなく親衛隊長としての使命感に捕らわれトリップ中。
そんな彼に戻ってこいと突っ込みを入れられるのは副隊長だけである。
だがしかし、転校生に対する思いは皆同じ。
こんちくしょうクサレ転校生がうちらの大事な会長の手を煩わせやがってふざけんじゃねえぞ、である。
「ふははははっ、よおし、じゃあ気合い入れて行くぞ会長親衛隊隊規ー!」
『はい!』
「会長の言う事はー」
『ぜったーい』
隊長が言い、隊員が声を揃えて答える。
まさに一致団結。
「会長の敵はー」
『オレ達の敵ー!』
「会長に害をなす輩はー」
『鉄拳制裁ー!』
「男ならー」
『平手は使うな拳を使えー!』
「よし!他の役員その他に理不尽な事言われたら、はいそこ!」
「はい!心の中で唾を吐きます!」
「次」
「はい!頭の中でフルボッコします!」
「次」
「はい!ふざけんなクソがと思いながら笑顔を振りまき1ミリたりとも心をこめずに上辺だけで繕います!」
ふいうちの指名にも動じずに答えるあたりが流石である。
「それでもダメならー」
『鉄拳制裁ー!』
「その後は一目散にー」
『走って逃げるー!』
「転校生なんかー」
『しねばいー!』
「会長にべたべたべたべた」
『すんなー!』
「迷惑してんのがー」
『わかんねえのかー!』
「言ってもわかんねえやつはー」
『鉄拳制裁ー!』
「風紀に見つかったらー」
『走って逃げるー!』
「先生に見つかってもー」
『走って逃げるー!』
わー、いえーい、と盛り上がる室内。
これでもかという大声は外まで漏れるどころか生徒会室まで聞こえている。
「……なんかおかしくね?」
「ん?可愛いだろ、うちの親衛隊」
「……(ダメだこいつ)」
ちょうど仕事をしていた書記の突っ込みに、にへらと笑う会長がいた。
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