現代物短編中編

うりぼう

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キイチのくせに

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※幼馴染
※ナルシスト攻め
※普通受け





自分で言うのもなんだがオレはカッコイイ。
背も高いしガタイだってそれなりに良いし何よりそんじょそこらの芸能人に引けをとらないくらい顔が良い。
そんな容姿に見合うだけの努力の結果、勉強も当然全国トップクラス、運動だって何をやってもパーフェクト。

したがってモテる。
非常にモテる。
それはもう右から左からよりどりみどり。
ちょっと笑いかけてやればあとはオレの思うがまま。
まさに順風満帆行く手を阻む者なしと思っていたのだが。

最近どうにも思い通りにならない人物がいる。


「キイチ」
「何」

それが、隣を歩くこの男。
幼なじみのキイチだ。
このオレが見つめて且つ話しかけてるってのに不機嫌そうに寄せられた眉に鬱陶しそうな表情。
昔はオレを守ってやるだのなんだの公言していたくせに、中学を卒業する辺りから段々と態度がよそよそしくなり、今ではすっかり近寄るなオーラを巻き散らかしていやがる。

キイチのくせに生意気な。

最初はオレがあんまりにモテまくったもんだから、それが気にくわなくて避けられているのかとも思ったのだが。

「別にーなんでもなーい」
「うっぜ」

(……こんにゃろう)

本当にうざそうな顔しやがって。

それでも朝一緒に学校へと向かうのは、単に家が隣同士でキイチがうちの母親にオレの事を頼んでいるから。
今でも甘やかしまくりの母親は、男らしく育った息子を見ても未だ誰かに付け狙われて攫われてしまうのではないかと心配している。
わざわざ律儀にオレの母親との約束を守る必要なんてない。
慣わされた護身術のお陰で自分の身くらい余裕で守れる。
というかオレよりも何もないところで躓いてしまうどんくさいキイチの方が心配だ。

(嫌なら断れば良いのに)

ぶすっとした顔で隣に並ばれたって嬉しくもなんともない。
全く可愛くないったらない。

「なあキイチ」
「だから何」

まあ、何だかんだで返事をしてしまうその嫌そうな表情は中々可愛いけど。

「キイチ、お前オレの事嫌いだろ」
「好かれてると思ってたのかよ」
「お前……」

前を向いたまま淡々と即答。
口の端がひくりと引きつる。

「かわいくねー」
「お前が可愛いって思う奴なんかこの世にいるのかよ」

はっ、と鼻で笑われつつ言われる。
さすがに長年一緒にいるだけあってオレの性格を熟知し
ている。

が、いないと思っているのだろうその考えは残念ながらハズレだ。

「いるっつのそれぐらい」
「はいはい、どうせ小さい頃の自分とか言うんだろ」
「違えよバカ」
「バカはお前だ。じゃあ何だよ。犬?猫?」
「なんで動物だよ。ちゃんと普通の人間だっつの」
「え、マジでいんの!?」

本当にいるとは思ってもみなかったのだろう、勢い良くこちらを振り向く。
驚くのと同時に、芸能人ですら散々にこき下ろしているオレが可愛いと思う相手に興味津々。

「え、誰?オレ知ってる奴?」
「……っ」

目をきらきらと輝かせオレを見上げて問い詰めるキイチ。
普段オレに何の興味もないそぶりを見せるくせにこんな時だけ……!

(ちくしょっ、だからそういう顔も可愛いんだっつのなんなんだよほんと、なんでこんなん可愛いとか思ってんだよオレは……!)

特に目が大きいとか髪が艶々とか肌がキレイとかでは全然全く一欠片もそんな事はないのに、何故だか可愛いと感じてしまう。

そんな自分に頭を抱えてうずくまってしまいそう。
そんな姿も絵になるとわかってはいるけれどカッコ悪いから耐える。

「何難しい顔してんだよ。な、な、誰?」
「教えねえ」
「なんだよそれ!今更何もったいぶってんだよ!」
「もったいぶってねえよ!」
「あ!わかった!C組のゆかりちゃんだろ!!確かになあ、可愛いもんなあ」
「あ?」

誰だゆかりって。
素で考え、そういえば入学当初から騒がれている美少女がいたなあとぼんやり思い出す。
ちゃんとした顔は思い出せない。

「なんだよ違うの?じゃあ亜希ちゃん?美雪ちゃん?」
「違う」
「えー?じゃあ佐野先輩?それとも吉野?」
「……」

こいつ一体何人にチェック入れてやがるんだ。
出てくる女の子の名前が半端じゃない事に徐々に眉間に皺が寄る。

何がゆかりちゃんだ亜希ちゃんだ美雪ちゃんだ佐野先輩だ吉野だ。
全く、どの芸能人にも負けないこのオレが一番近くにいるってのに他に目移りしやがって。

「どれも違えの?みんな可愛いコばっかなのに」
「ふん、興味ねえし」
「うっわ、何様だよ!あ、じゃあ安達さん?」
「しつけえ」
「上山さん?藤野さん?」

だからそんな周りの女どもじゃない。

「まさか莉子とか言わねえよな」

お前の妹でもない。

「んー、あと誰いたっけなあ。あ、向かいの林さんちの姉ちゃんも可愛いよなあ」
「ちっげえよバカきーち!お前だお前!」
「………………は?」
「あ……!」

言ってしまった後でやっちまったと慌てて咄嗟に口元を手で覆ったが遅すぎた。
ぽかんと間抜けに口を開き目を瞬かせるキイチの表情がもうばっちり聞いてしまったことを物語っている。

「いや、あの、今のは」
「……お前」

じろりと睨み付けられ、後にどんなリアクションが返ってくるのかと、思わず身を強ばらせたが。

「またそうやってごまかすつもりだろ」
「……は?」
「昔っからオレの事引き合いにしてからかってうやむやにすんだよな、お前って」
「なっ」
「オレだってもうガキじゃねんだからごまかされねえぞ!」
「……」

額に手を置き宙を仰ぐ。

ダメだこいつちっとも伝わってない。
助かったような、残念なような。

確かに昔は答えたくない質問に「キイチくんがすき」とか「キイチくんがいちばん」とか言ってごまかしていたりもした。
でもそれはその度に照れて真っ赤になるキイチが可愛すぎるのが悪い。

「なあ、教えろよー!」
「……嫌だ」
「ケチくせえなあレンのくせに!」
「うるせえキイチのくせに」

ああ全く、本当にコイツは思い通りにならない。
このオレが、そこらの女の子どころか男を可愛いと思うだなんてキイチが初めてだ。
大体オレが可愛いと言ったらみんな顔を真っ赤にして喜ぶというのに、コイツときたら本当に失礼な奴。

「なー、誰なんだってば」
「うるせえうるせえうるせえうるせえ」
「レーンー!」

駄々をこねるようにしくこく聞いてくるキイチがいつになく可愛く見え、オレは耳を塞ぎ、わざとらしく無意味な言葉を発し続けた。







end



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