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ショコラ後編
しおりを挟む去年と同じ日。
同じ時間。
同じ場所。
違うのは目の前にいる人物の表情が神妙なものではなく、にこにこと満面の笑みであるという事。
そして俺の心持ちが去年と比べて幾分か軽い事。
かといって恥ずかしくないといえば、そんなことは全くなく。
何が恥ずかしいってそりゃ去年同様辺り一面がピンク色の中で目当ての甘いお菓子を買うことが一番恥ずかしかったんだけれども。
じゃあ買わなければ良いとは重々承知している。
けど毎年恒例のお菓子メーカーの策略に乗っかったおかげで奴と付き合えるようになったと言っても過言ではないので、不本意だけどこの日のイベント事は外したくなかった。
外したくはなかったのだが。
「……」
「……」
「……なに、その手」
ここに呼び出された時から目的はわかっていたのだろう、上機嫌な笑みはそのままに差し出される両手に、やはりやめておけばよかったと早々に後悔しながら手の持ち主をじろりと睨む。
「なにって、わかってるくせに」
「……」
そりゃわかってる。
嫌というほどわかっているが、なんだろうこのムカつく感じ。
黙って大人しく渡すのはなんだか癪だ。
そんな訳で無造作に制服のポケットに突っ込んだものを出し渋っていると。
「……あれ、もしかして今年はなし?早とちり?」
手持ち無沙汰になってしまった手でぽりぽりと頭を掻く。
あからさまに肩を落とす嶋田に、単純すぎるにも程があるが、ついさっきのムカつきがあっさりと鎮まった。
だって溜め息すごい切ないし獣耳あったら垂れ下がってそうなくらいしゅんとしてる。
「あ……」
本当はあるんだと言おうと口を開いた時。
「……まあいっか」
「え?」
ふう、と先程とは違う溜め息。
何だろう、何が「まあ良い」のだろうか。
訝しむ俺に嶋田はにっこりと微笑み……
「じゃん」
「……え?」
両の指先で摘んで徐に取り出したもの。
それは……
「し、し、嶋田、それ……?」
「今年は俺から」
「え、え?」
それは、小さく可愛らしい、一目でそれ用とわかる包み。
それと嶋田の顔を交互に見る。
「なに、受け取ってくんねえの?」
「え、や、だって、お、俺に?」
まさか逆に貰えるとは思ってもみなかったので驚いた。
「お前以外に誰がいるんだよ。それとも他の奴にあげた方が良かった?」
「っ、だ、ダメ!」
セリフと共に包みを遠ざける嶋田に、つい反射的に叫ぶ。
それに奴は嬉しそうにふんわりと笑う。
柔らかい笑みに心臓を鷲掴みにされてしまう。
「うん、わかってる」
「……っ」
はいどうぞ、と。
そっと俺の手を取り包みを握らせた。
その後、俺の準備した物もなんとか嶋田の手に渡った。
今年はお互いにお返しをしなければならないかな、などと他愛のない事で笑える幸せをじっくりと噛み締めた。
end.
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