高塚くんと森くん

うりぼう

文字の大きさ
上 下
4 / 71

気になるあの子

しおりを挟む



気になる気になるあのコ。
どこにでもいる普通のコ。
知り合わなくても、仲良くもならず卒業してしまっても全く困らない、大勢の中に埋もれてしまったらきっと見つけ出せないような奴だった。

けど、違った。
そりゃあもう全然全くオレの勘違いだった。
アイツ、森は、知り合わなくても良い相手じゃなかった。





それに気付いたのは今から一年半くらい前。
一年の秋。
体育の授業中、渇いた喉を潤すために一人でこっそり水飲み場に行った時だった。
一緒に行くという手をやんわりと断り、早く戻ってきてね、なんて女の子の言葉にヘラヘラ浮かれて歩いていると。

「っ、おお!?」

小石に躓いて、コケた。
それはもう真正面から顔面激突コースである。
両手を出したからそれは免れたけれど、どうやら膝を思い切り擦ってしまったらしい。
動いて暑くなったため調子こいてジャージの裾を膝上まで上げていたせいだ。
血が出ている。
だっせぇオレ。

「ってー……」

なんだよついてねえな。
体育はサッカーで、一度もコケなかったのに今かよ。

水飲み場にいたのは良かったのかもしれない。
蛇口を捻り、冷たい水で手を洗う。
所々皮が剥けていて痛い。

「あれ、高塚?」
「え?」

声のした方を見ると、同じクラスの森が立っていた。
あまり話した事はない。
というか全然興味がなかった。
男相手に興味がないも何もあったもんじゃないけれど。

森も水を飲みに来たのだろう。
なんだコイツもサボりか。
この時はその程度にしか思っていなかった。

「あ、足」
「あ……」

じ、と森の視線がオレの膝に向けられる。

「血出てんじゃん」
「ああ、ちょっとコケて」
「保健室行く?先生に言っとくけど」
「や、めんどくさいし」
「めんどくさいってお前」

ぷっと吹き出す森。
その表情がなんだか妙に可愛く見えた事に首を傾げる。
鼓動が僅かに速くなった事にも驚きだ。

「あ、そうだ」
「な、何?」

ぽん、と手を叩くような調子で言う森にびくりと過剰に反応。
マジだせえ。

そんなオレの心中など知るはずもない森。
とてとてと歩み寄り、ジャージのポケットからティッシュと絆創膏を出しこちらに差し出してきた。

「え?」
「ん」

受け取れという事らしい。
ずい、と寄越されたので、思わず受け取る。

「一応洗って貼っとけよ。バイキン入ったら大変だし」
「あ、ああ、サンキュ」
「いいえー」

お礼の言葉ににっこり笑って蛇口を捻る森。
ていうかバイキンって。
同級生のしかも男の口からバイキンって言葉を聞くとは思わなかった。
やべえ可愛い。

それはそうと男が絆創膏を持ち歩いているなんて珍しい。

じっと見つめられる視線に気が付いたのか、水を飲み終えた森が、あ、という顔をした。

「あ、いや、オレ昔っからあちこち生傷絶えなくてさ、親がいっつも絆創膏とかいろんなトコにしのばせておくんだよ」

慌てて言い訳をしている。
女々しいとか思われたと思っているのだろうか。

「別に、今はそんな怪我とかするわけじゃねえけど、なんか、うちの親も習慣になっちゃってるみたいで!あは、はははっ」
「……」
「う、あ、えと、じゃあそゆ事で!」
「あっ」

笑ってごまかしたがごまかしたが、こちらの沈黙に堪えきれなくなったのか逃げ出す森。
呼び止めようと伸ばした手も声も届かなかった。

走り去る後ろ姿に、なんだか少しだけ寂しい、なんて思ってしまった。





この時のがきっかけで妙に気になって、よく森の事を視線で追いかけるようになった。

友達と騒いで笑う姿や、からかわれて怒る表情も。
授業中に眠そうに目を擦っているところとか、美味しそうに母親の手作りらしき弁当を頬張るところも。

全部が全部可愛く見え始めた。

というか可愛い。
どう見ても可愛い。

二年に上がって同じクラスになれた時はかなり嬉しかった。
舞い上がったとも。
締まりのない顔に何度ダチに気持ち悪いと言われた事か。

「あーやばいマジ可愛いんですけど」
「まーた始まったよ。今度は何だ?森がシャーペンでも落としたか?」

この頃になると、森のどんな些細な行動に対しても可愛いと言いまくるオレに、初めは引きぎみだった友人達はとっくに慣れていて。
大半が無視を決め込む中、石野がどちらかというと呆れた様子で聞いてきた。

「いや、あくび。涙目超かわいい」
「良かったなー」
「あっ、目擦ってる!舐めてぇなあ、舐めまわしてえなあ」
「こんなトコでトリップすんな変態」

石野の言葉は右から左へ。

ああ、ほんと可愛い。
泣き顔超そそる。
泣かせたい。

森のアレを手と口で扱いてぐっちゃぐちゃのどろどろにしてやったら、恥ずかしがって真っ赤になって体捩って、やめて、とか言っちゃうのかな。
そんな可愛く言われたら止めらんない、むしろヒートアップしちゃうかもしれない。

「ううううるっせえぞ高塚!!!」
「お前さっきから考えてる事だだ漏れだから!めっちゃ口に出してるから!」
「あんだよ邪魔すんなよオレと森のランデブーを!」
「わけわかんねえ、しね」
「酷い!!」
「つーかそんなに気になんならとっとと告ってこいよ」
「は?なんでオレが?」
「好きなんだろ?森の事」
「…………え?」
「えっ、て………え?」

石野の言葉に固まると、次いで奴も固まった。
というかその場にいた仲間連中が皆唖然としてこちらを見ている。

「え、嘘だろ、もしかして自覚なし?」

恐る恐る聞く石野。
自覚ってなんだ。

というか、好き?
オレが森を?
確かに可愛いとは思っているけれどこれは恋愛感情なのだろうか。
今更ながら疑問に思った。

「いやいやどう考えても恋愛感情でしょ」
「つーか自覚なしであんな下ネタ満載の妄想してんのかよ」
「あんだけあからさまにラブ光線送っといてバカじゃねえ?」
「しょうがねえよバカなんだから」
「だよな、バカだなホント」
「救いようがねえな」
「え、ちょっ、泣いていい?」

遠慮のない友の発言にマジ泣きしそうになった。

けど、おかげで森の事が好きなんだと気付けた。
というか気付かなかった自分にびっくりだ。
オレこんなに鈍感だったのか。
今まで向こうから来るばかりだったから全然わからなかった。

「つーかどこが良いのかさっぱりわかんねえ」
「わかんなくて良い。惚れられたら困る」
「惚れねえよ女の子大好きだボケェ」

そうは言っているがオレだって女の子大好きだったのに今じゃこのザマだ。
コイツらだっていつ森の笑顔と優しさにどきゅんってくるかわからないじゃないか。

「ああ、恋は盲目ってやつ?」
「盲目すぎ。うぜ」

傍らで呟く友の声をスルー。

ん?
オレは男、森も男。
と、いう事はだ。

「え、待てよ、じゃあオレってホモってこと?」
「女もいけんだからバイじゃね?」
「それが最近森以外だと勃たないんだよねー……」
「そこまでわかってんのに何で自覚なかったのかが謎だボケ」
「んな事オレが知りたいっつーの」

石野の言葉にむくれる。
まあいいや森可愛いし。
オレが落ちるのも無理ない。

「よし、じゃあこの際だ、もうさっさと告白しちまえ変態」
「お前が森とくっつけばオレらに女回ってくっから万々歳だしな、頑張れ変態」
「未知の世界へいってらっしゃい変態」
「え、何これイジメ?」

なんなんだコイツら仲良く語尾に変態つけやがって。
変態なのは認めるけどそんなバカだのボケだの言われまくったら流石のオレでも凹むんだぞ。

こんなやりとりがあった後。
自覚してすぐその日の放課後の校門前で、オレは丁度一人でいた森を捕まえた。
思い立ったが吉日である。

言うんだ。
好きだって言ってオッケー貰って人目を気にしないでいちゃいちゃするんだ。

そう決心し、振り返って訝しげにこちらを見る森と向き合い。

「……あのさ」

緊張に高鳴る胸を押さえ、口を開いた。






end.


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

片桐くんはただの幼馴染

ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。 藤白侑希 バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。 右成夕陽 バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。 片桐秀司 バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。 佐伯浩平 こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。

愉快な生活

白鳩 唯斗
BL
王道学園で風紀副委員長を務める主人公のお話。

その日君は笑った

mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。 それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。 最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。 拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。 今後ともよろしくお願い致します。

それはきっと、気の迷い。

葉津緒
BL
王道転入生に親友扱いされている、気弱な平凡脇役くんが主人公。嫌われ後、総狙われ? 主人公→睦実(ムツミ) 王道転入生→珠紀(タマキ) 全寮制王道学園/美形×平凡/コメディ?

普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。

かーにゅ
BL
「君は死にました」 「…はい?」 「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」 「…てんぷれ」 「てことで転生させます」 「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」 BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

処理中です...