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三井サイド②
しおりを挟む(三井視点)
一世一代の告白。
よく考えてみると、自分から告白したのは初めてだ。
こんなに緊張するものだったなんて思わなかった。
どきどきしすぎて心臓が口から飛び出してきてしまいそうだ。
「黒谷」
ほんの少し離れただけでどこかに逃げて行ってしまいそうで手が離せない。
まさかこんなに溺れるとは思ってもみなかった。
告白された時は本当になんとも思ってなかったのだ。
告白自体日常茶飯事だったし、男も珍しくはなかった。
でも。
『……そっか』
好みのタイプじゃないと即座に無下に断ったオレに、悲しむでもなく憤るでもなく、静かにそう答えたのが酷く印象に残った。
黒谷のことは同じクラスで少なからず知っていたけれど、あんなに物静かではなかった。
地味な割に性格はさっぱりしていて、意外にもはきはきとしていて。
傷付けた。
そう気付いたのはその直後だった。
今まで断ってきた中の誰にも感じた事のない罪悪感。
今思えばそれだけでも結構酷い。
謝らなければと黒谷を追い掛け、漸く見付けた時に見たのがあの光景だ。
『わっ、はははっ、やめてよ芦原さん!』
『えー?ぐっちゃぐちゃでも可愛いよ静樹』
『これぐちゃぐちゃどころじゃないっしょ!?』
えらく綺麗な顔立ちをした男に頭を撫でられ朗らかに笑う姿。
『――‥っ』
これ以上ない程のいらつきを感じた。
今考えるとただの嫉妬だとわかるが、あの時のオレはそれがなんなのかわからなかった。
黒谷を睨み、蔑み、酷い態度を取りまくっての今日である。
もう見ない。
もう諦めた。
嫌いでいい、嫌いだ、好きじゃない。
ぐさぐさ突き刺さってくるセリフはオレが言わせたものだ。
断られるかもしれない。
というか、断られて当たり前。
自分の気持ちもわからずに好きな相手を傷付けるだけの男なんて、自分でもお断りだ。
それでもオレは黒谷を離したくない。
「黒谷、頷いて」
諦めるなんて出来ない。
例え黒谷の気持ちが180度変わっていたとしても、一度自覚してしまった想いは消せない。
「お願い」
懇願するように想いを告げて、何分経っただろうか。
ほんの少しの時間がとてつもなく長く感じる。
怖くて閉じた目すら震えてしまうような、そんな緊張感の中。
「……」
「!」
黒谷が呟いた小さな言葉に全神経を集中させる。
「……オレが、好き?」
「好きだ」
「嫌いじゃ……?」
「嫌いじゃない。あれは、カッコ悪いけど嫉妬しちゃって……」
「オレ、だけ?」
「黒谷だけ」
「冗談とか、罰ゲームとか」
「じゃない!本当に、本気だから!」
「……ほんとに、絶対に、嘘じゃないよな?」
「嘘じゃない。好きだ、黒谷が」
「っ、じゃあ」
「うん」
「も、もう一回」
もう一回?
疑問に思ったのはほんの一瞬。
「!」
ぽすりと肩口に頭を預けられ、目を見開く。
抱き締めていいのだろうか。
隙間から見える、黒谷の耳や首筋までが真っ赤に染まっている。
言葉にはされていないが再びオレの腕の中に収まるこの行動がオレへの返事だと確信する。
(ああもう)
あまりの可愛さに、請われるがまま背中に腕を回し強く強く力を込めた。
*
(静樹視点)
「へえ、付き合えるようになったんだ?」
「うん!おかげさまで!」
「良かったねー静樹」
「うん!」
にこにこと満面の笑みを浮かべて芦原に報告する。
隣にいる三井は、オレが芦原を好きだと誤解していたこともあり不本意そうだ。
「つか、別にメールか電話で言えば済む話じゃねえ?」
「ダメ!芦原さんには世話になったし、やっぱり直接言わないと!」
「そうそう。それにオレも三井くんの顔ちゃんと見たかったし」
「オレの?」
「そう。一回ふったくせに後からやっぱり好きです、なんて言ってるお馬鹿さんの顔をね、見たかったんだ」
そう告げる顔は物凄く輝いているのに妙に怖く感じるのは何故だろうか。
「…………オレもしかして喧嘩売られてますか?」
「そう聞こえた?」
「はっきりと」
「そんなつもりなかったんだけどなあ」
「嘘つくんじゃねえよ!」
「静樹には許したけど三井くんには許してないよ、タメ口」
「っ、っ、むかつく……!」
「まあまあ三井。落ち着けって。からかわれてんだよお前」
「いや絶対喧嘩売ってるだろ!」
「喧嘩売る理由がないもん」
「あるだろ!黒谷のこと好きなら……!」
「だからそれが間違いだって」
「は?」
「ほらーやっぱり誤解されてる。芦原さんさあ、オレの事好きみたいなオーラ出すのやめなよ。本命に嫌われるよ?」
「本命!?」
「あはっ、ごめんごめん。リアクションが楽しくてついつい」
「おい、どういう事だよ?」
きっと誤解していると思ったけれど、やはりその通りだったのだろう。
三井は芦原がオレを好きだと思っているみたいだけど、それは盛大な勘違いだ。
「芦原さんには同棲中の彼氏がちゃんといるんだって」
部屋に呼んでくれなくなったのは、その同棲相手を誰にも見せたくなかったかららしい。
あとオレと出会った経緯とかを事細かに聞かれたくなかったから。
確かに紹介しにくいだろうけど、会いたいなあ芦原の相手に。
だってこの芦原を夢中にされる人がどんな人なのか興味がある。
独占欲が強すぎて他の人には絶対会わせないって言ってるから、いつ会えるかはわからないけど。
それはそうと、芦原は三井を前から知っていたらしい。
フラれたと報告した時にたまたま三井を見付け、あまりに睨まれるものだからもしかしてと思ったそうだ。
勘鋭すぎ。
「ま、幸せそうで何よりだよ」
「うん、ありがとう!」
「触るなよ!」
「男の嫉妬は醜いよー」
「恋人が他の男に触られて気にしない奴なんかいねえだろ」
「……っ」
「あらあら真っ赤だ。らぶらぶだねー」
よしよしと頭を撫でられたのを見て三井がまた噛み付くがそのセリフに顔から火が出てしまい、芦原のからかうような声も聞こえない。
芦原から隠すように引き寄せられ、それにまたときめいてしまったのは内緒だ。
それから、学校中に三井の相手がオレだと広まって問い詰められたり、念願叶って芦原の恋人を紹介してもらったりと色々あるのだが、それはまた別の話。
end
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はじめまして
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ありがとうございましたー!
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