6 / 6
三井サイド②
しおりを挟む(三井視点)
一世一代の告白。
よく考えてみると、自分から告白したのは初めてだ。
こんなに緊張するものだったなんて思わなかった。
どきどきしすぎて心臓が口から飛び出してきてしまいそうだ。
「黒谷」
ほんの少し離れただけでどこかに逃げて行ってしまいそうで手が離せない。
まさかこんなに溺れるとは思ってもみなかった。
告白された時は本当になんとも思ってなかったのだ。
告白自体日常茶飯事だったし、男も珍しくはなかった。
でも。
『……そっか』
好みのタイプじゃないと即座に無下に断ったオレに、悲しむでもなく憤るでもなく、静かにそう答えたのが酷く印象に残った。
黒谷のことは同じクラスで少なからず知っていたけれど、あんなに物静かではなかった。
地味な割に性格はさっぱりしていて、意外にもはきはきとしていて。
傷付けた。
そう気付いたのはその直後だった。
今まで断ってきた中の誰にも感じた事のない罪悪感。
今思えばそれだけでも結構酷い。
謝らなければと黒谷を追い掛け、漸く見付けた時に見たのがあの光景だ。
『わっ、はははっ、やめてよ芦原さん!』
『えー?ぐっちゃぐちゃでも可愛いよ静樹』
『これぐちゃぐちゃどころじゃないっしょ!?』
えらく綺麗な顔立ちをした男に頭を撫でられ朗らかに笑う姿。
『――‥っ』
これ以上ない程のいらつきを感じた。
今考えるとただの嫉妬だとわかるが、あの時のオレはそれがなんなのかわからなかった。
黒谷を睨み、蔑み、酷い態度を取りまくっての今日である。
もう見ない。
もう諦めた。
嫌いでいい、嫌いだ、好きじゃない。
ぐさぐさ突き刺さってくるセリフはオレが言わせたものだ。
断られるかもしれない。
というか、断られて当たり前。
自分の気持ちもわからずに好きな相手を傷付けるだけの男なんて、自分でもお断りだ。
それでもオレは黒谷を離したくない。
「黒谷、頷いて」
諦めるなんて出来ない。
例え黒谷の気持ちが180度変わっていたとしても、一度自覚してしまった想いは消せない。
「お願い」
懇願するように想いを告げて、何分経っただろうか。
ほんの少しの時間がとてつもなく長く感じる。
怖くて閉じた目すら震えてしまうような、そんな緊張感の中。
「……」
「!」
黒谷が呟いた小さな言葉に全神経を集中させる。
「……オレが、好き?」
「好きだ」
「嫌いじゃ……?」
「嫌いじゃない。あれは、カッコ悪いけど嫉妬しちゃって……」
「オレ、だけ?」
「黒谷だけ」
「冗談とか、罰ゲームとか」
「じゃない!本当に、本気だから!」
「……ほんとに、絶対に、嘘じゃないよな?」
「嘘じゃない。好きだ、黒谷が」
「っ、じゃあ」
「うん」
「も、もう一回」
もう一回?
疑問に思ったのはほんの一瞬。
「!」
ぽすりと肩口に頭を預けられ、目を見開く。
抱き締めていいのだろうか。
隙間から見える、黒谷の耳や首筋までが真っ赤に染まっている。
言葉にはされていないが再びオレの腕の中に収まるこの行動がオレへの返事だと確信する。
(ああもう)
あまりの可愛さに、請われるがまま背中に腕を回し強く強く力を込めた。
*
(静樹視点)
「へえ、付き合えるようになったんだ?」
「うん!おかげさまで!」
「良かったねー静樹」
「うん!」
にこにこと満面の笑みを浮かべて芦原に報告する。
隣にいる三井は、オレが芦原を好きだと誤解していたこともあり不本意そうだ。
「つか、別にメールか電話で言えば済む話じゃねえ?」
「ダメ!芦原さんには世話になったし、やっぱり直接言わないと!」
「そうそう。それにオレも三井くんの顔ちゃんと見たかったし」
「オレの?」
「そう。一回ふったくせに後からやっぱり好きです、なんて言ってるお馬鹿さんの顔をね、見たかったんだ」
そう告げる顔は物凄く輝いているのに妙に怖く感じるのは何故だろうか。
「…………オレもしかして喧嘩売られてますか?」
「そう聞こえた?」
「はっきりと」
「そんなつもりなかったんだけどなあ」
「嘘つくんじゃねえよ!」
「静樹には許したけど三井くんには許してないよ、タメ口」
「っ、っ、むかつく……!」
「まあまあ三井。落ち着けって。からかわれてんだよお前」
「いや絶対喧嘩売ってるだろ!」
「喧嘩売る理由がないもん」
「あるだろ!黒谷のこと好きなら……!」
「だからそれが間違いだって」
「は?」
「ほらーやっぱり誤解されてる。芦原さんさあ、オレの事好きみたいなオーラ出すのやめなよ。本命に嫌われるよ?」
「本命!?」
「あはっ、ごめんごめん。リアクションが楽しくてついつい」
「おい、どういう事だよ?」
きっと誤解していると思ったけれど、やはりその通りだったのだろう。
三井は芦原がオレを好きだと思っているみたいだけど、それは盛大な勘違いだ。
「芦原さんには同棲中の彼氏がちゃんといるんだって」
部屋に呼んでくれなくなったのは、その同棲相手を誰にも見せたくなかったかららしい。
あとオレと出会った経緯とかを事細かに聞かれたくなかったから。
確かに紹介しにくいだろうけど、会いたいなあ芦原の相手に。
だってこの芦原を夢中にされる人がどんな人なのか興味がある。
独占欲が強すぎて他の人には絶対会わせないって言ってるから、いつ会えるかはわからないけど。
それはそうと、芦原は三井を前から知っていたらしい。
フラれたと報告した時にたまたま三井を見付け、あまりに睨まれるものだからもしかしてと思ったそうだ。
勘鋭すぎ。
「ま、幸せそうで何よりだよ」
「うん、ありがとう!」
「触るなよ!」
「男の嫉妬は醜いよー」
「恋人が他の男に触られて気にしない奴なんかいねえだろ」
「……っ」
「あらあら真っ赤だ。らぶらぶだねー」
よしよしと頭を撫でられたのを見て三井がまた噛み付くがそのセリフに顔から火が出てしまい、芦原のからかうような声も聞こえない。
芦原から隠すように引き寄せられ、それにまたときめいてしまったのは内緒だ。
それから、学校中に三井の相手がオレだと広まって問い詰められたり、念願叶って芦原の恋人を紹介してもらったりと色々あるのだが、それはまた別の話。
end
0
お気に入りに追加
32
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(2件)
あなたにおすすめの小説
台風の目はどこだ
あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。
政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。
そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。
✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台
✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました)
✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様
✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様
✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様
✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様
✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。
✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)
悪役令息は断罪を利用されました。
いお
BL
レオン・ディーウィンド 受
18歳 身長174cm
(悪役令息、灰色の髪に黒色の目の平凡貴族、アダム・ウェアリダとは幼い頃から婚約者として共に居た
アダム・ウェアリダ 攻
19歳 身長182cm
(国の第2王子、腰まで長い白髪に赤目の美形、王座には興味が無く、彼の興味を引くのはただ1人しか居ない。
気にしないで。邪魔はしないから
村人F
BL
健気な可愛い男の子のお話
,
,
,
,
王道学園であんなことやこんなことが!?
王道転校生がみんなから愛される物語〈ストーリー〉
まぁ僕には関係ないんだけどね。
嫌われて
いじめられて
必要ない存在な僕
会長
すきです。
ごめんなさい
好きでいるだけだから
許してください
お願いします。
アルファポリスで書くのめっちゃ緊張します!!!(え)
うぉぉぉぉぉ!!(このようにテンションくそ高作者が送るシリアスストーリー💞)
知らないうちに実ってた
キトー
BL
※BLです。
専門学生の蓮は同級生の翔に告白をするが快い返事はもらえなかった。
振られたショックで逃げて裏路地で泣いていたら追いかけてきた人物がいて──
fujossyや小説家になろうにも掲載中。
感想など反応もらえると嬉しいです!
素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
みどりとあおとあお
うりぼう
BL
明るく元気な双子の弟とは真逆の性格の兄、碧。
ある日、とある男に付き合ってくれないかと言われる。
モテる弟の身代わりだと思っていたけれど、いつからか惹かれてしまっていた。
そんな碧の物語です。
短編。
【クズ攻寡黙受】なにひとつ残らない
りつ
BL
恋人にもっとあからさまに求めてほしくて浮気を繰り返すクズ攻めと上手に想いを返せなかった受けの薄暗い小話です。「#別れ終わり最後最期バイバイさよならを使わずに別れを表現する」タグで書いたお話でした。少しだけ喘いでいるのでご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
作品どれもすごく好きです😭
こっちとくっついて欲しかった~みたいなの自分の中でたまにあるのでどっちのルートも書かれてるってのがまた素敵でした!
わー!ありがとうございますー!!!
私もこっちとくっついて欲しかった……!!というのがたまにあるので欲望をそのまま書いてしまいました笑
気に入っていただけて嬉しいです(^^)ありがとうございました!
……このお話を発見したときから芦原さんの方が好みだなと思ったんですが、読んでみても芦原さんの方が良さそうだなーとストレートに読んで、分岐前までで微妙と思ったけど悩んだ末に三井くんも読んでいったのですが……途中で断念……いやいや、彼勝手すぎません!?
てっきり実は好きだったけど照れ隠しで、的な展開かと思いきやまさかの!!
いやだめだ三井くん生理的に無理です!w
芦原さんはむしろもっとしっかり見たいくらいでした!!
コメントありがとうございます。
芦原を気に入って下さり嬉しいです(^^)
三井に関しては生理的に無理でしたら私からは何も言えませんね(笑)