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芦原サイド②
しおりを挟む失恋か。
三度目の正直って言うけど三度目もダメだったか。
オレは恋愛するのに向いてないのかな。
どうして手に入らない人ばかりを好きになってしまうのか。
まだ三度目かもしれないが、三度が三度とも玉砕してしまっては心も折れてしまう。
また好きな人出来るかな。
いや、芦原以上の人なんて中々いないよな。
はあ、芦原に想われてる人が羨ましい。
オレもその人になりたかった。
なんて、抱きついたまま一人で勝手にしんみりしていると。
「静樹」
「……なに?」
「どこ」
「え?」
「どこ触られたの?」
「…………え?」
芦原までも訳のわからない事を言い出した。
え、どこ触られたのって、え?
思わず顔を上げ芦原を見上げると思いの外芦原は険しい表情をしていた。
いつになく眉間の皺が深い。
え?え?
「こんなに泣くくらい嫌がる事しやがって……あの野郎、一回シメとかないと」
「え?え?なんか、芦原さん口調違くない?」
目尻を拭う手は優しいし間違いなくこれは芦原のはずなのに、全然違う人みたいだ。
おかげで切ない気分も涙も止まってしまった。
いや、てか今泣いてるのは三井のせいじゃないんだけど。
「静樹、静樹。いい子だから答えて?どこ触られたの?」
「え?いや、あの」
背中に回っていた手が両の頬を包み、小さい子に言い聞かせるように問われる。
口調も戻ったし眉間の皺も消えたし優しい微笑みに優しい口調だけど、有無を言わせぬ雰囲気に戸惑う。
「言えない?言えないようなとこ触られたの?」
「うわっ!?ちょっ、芦原さん!?」
答えられずにいると、更に声音を低くした芦原が、信じられない行動に出た。
「なななな何して……!?」
「ん?消毒」
「はい!?」
言いながら既に乱れていた服の隙間から手が忍び込んできているのだ。
いやいやマジで待ってこれってどういう事!?
しかも、しかもしかもしかも!!!
「あし、芦原さん?」
「ん」
「!!!」
ちゅ、と。
唇を啄まれた。
「んな……っ、な、なあああ!?」
あまりの衝撃に口が回らない。
何なの!?
これどういう状況!?
「……嫌?」
身長は芦原の方が高いのに覗き込むようにして問われる。
かわ……じゃない、可愛いとか思ってる場合じゃない。
嫌なわけがない。
三井とは全然違う。
むしろ好きだと自覚した人からのキスは嬉しい。
「いや、じゃないけど」
「良かった。じゃあもっとしようか?」
「へ?え?んっ」
ちゅ、ちゅ、と何度も何度も啄まれる。
嬉しいけれど。
嬉しいんだけれどもだから何なんだこの状況は。
思わず後退ってしまったが芦原は付いてくる。
それを何度か繰り返すと、足を取られた。
「うわ!?」
「おっと」
全く身構えていなかった為にそのまま後ろへ倒れる。
衝撃が少なく済んだのは芦原が頭を庇ってくれたからだろう。
が、更に困った体勢になった。
「あ、押し倒しちゃった」
「!!!」
ふふ、と笑いながら言われたセリフにぼふっと顔が真っ赤に染まる。
考えないようにしていた事をなんで言っちゃうかなこの人は。
「かわいいなあ」
「かわ……」
いくないし、むしろ可愛いのはそんな笑みを浮かべてる芦原だから!
男前はカッコ良くも可愛かもなれるんだからずるい。
「さ、もう逃げられないね」
「あの、芦原さん?」
「静樹。ちゃんと教えて」
「えっと……」
「どこに触られたの?」
「いや、だから」
お腹とか脇とか足とかです!
なんて胸を張って言えるわけがない。
「むかつくなあ、三井の奴。静樹に触るなんて。好かれてただけでも許せないのに」
「あっ、ちょっ」
言えるわけがないのに、芦原はどこを触られたのかわかっているかのように触れてくる。
ぞわりと背筋を何かが伝った。
というかさっきからの芦原のセリフが、オレの勘違いでなければ、自惚れでなければ、オレにとって物凄く都合の良いように聞こえるんだけど。
「あああ芦原さん!?なんか、なんか」
「ん?」
三井に対する敵意だったり。
触れられたところを執拗に知りたがり。
消毒だなんて言って触ってきたり。
そんな行動を取られると、期待してしまう。
「なんか、オレの事好きだって思ってるみたいなゆだけど!?」
「好きだよ?」
「え!?」
期待どころかさらりと肯定されてしまった。
好き?
好きって言った?
いやちょっと待て、他に好きな人がいたんじゃないのか。
だから最近オレを部屋に呼んでくれなくなったんじゃないのか。
泊めてくれなくなったんじゃないのか。
疑問をぶつけるとこれまたさらりと返事をされる。
「違うよ。オレは初めて会った時から静樹が好きだし、最近部屋に呼ばなくなったのはオレが我慢出来なくなってきたから」
「が、我慢?」
「そう。こんな風に」
「……っ」
するりと制服の上から腿を撫でられびくりと身体が震える。
くすぐったい。
くすぐったいけど、それとは違う感覚が背筋を這い腰に着地する。
「静樹に触りたくてたまんなくなるの」
「わっ、っ」
「なのに他の男に襲われたって家まで来て、あんな風に甘えられて」
そう言いながら首筋に唇を落とされ、まっすぐに見下ろされる。
真剣な瞳に見つめられどきりと鼓動が跳ねる。
「これ以上我慢なんか出来るわけないよね?」
「ね?って……」
もの凄く良い笑顔でもって言われてしまった。
*
(芦原視点)
あれから、静樹のありとあらゆる所に触れた。
それこそ口には出せないあんなところやこんなところまで、余すところなく。
三井にされた事など頭の片隅に追いやってしまえば良い。
むしろ一欠片も記憶に残らなければ良いと思いながら。
「……てか、オレが芦原さんの事好きじゃなかったらどうするつもりだったのさ」
恥ずかしくて中々まともに顔を見れないのか枕を抱き締めもごもごと訊ねてくる静樹。
確かに、もし自覚もせずむしろ好きですらなかったとしたらオレの取った行動は慰めどころかトラウマの上塗りだ。
だがしかし。
「うーん、でもまあどっちにしろ好きにさせるつもりだったし」
「は?」
静樹から、三井というクラスメイトが気になるんだよね、てか好きかも、と聞かされた時はかなりショックだった。
出会いは普通じゃなかったかもしれないが、一目見た時からオレは静樹に心を奪われていたのだ。
本人は地味だと言っているし実際地味なのかもしれないけど静樹の見た目ってオレの好みにぴったり合うんだよね。
たまに毛先が少し跳ねてるところも小さい瞳も唇も可愛いし、少し小動物っぽいところもまた可愛い。
だからこそ初めてだと知った時、慌てて手を止めた。
どうでも良い一夜限りの相手にしたかったら、あのまま初めてだなんて関係なしにコトに及んでいただろう。
三井に告白を促したのだって、さっさとフラれてくれと少しも思わなかったわけじゃない。
むしろフラれてくれと願っていた。
そしたら失恋に泣く静樹を慰め、オレを心に刻むのに。
「そんな事考えてたの!?」
「うん。会う度に可愛い可愛いって言い続けてたのに気付かなかった?」
「いや、それは普通に社交辞令かと」
「オレ好きでもない子に可愛いなんて言わないし。週一ペースで会いたいとも思わないよ」
静樹に限っては週一どころか毎日でも会いたいくらいだ。
そう告げると面白いくらい真っ赤に染まる頬。
引き寄せる手に抵抗せず寄り添ってくるその頬に触れ、唇を重ねる。
(可愛い、可愛いなあ)
どんどんと沸き上がってくる幸せを噛み締めながら、そっとその身を再び柔らかなシーツの上に沈めた。
その後静樹は小池に色々問い詰められると共に、三井からも猛烈なアタックを受ける事になるのだが、それはまた別の話。
end
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