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しおりを挟むあれから数週間。
元からあったかわからないが、失恋の痛手も癒え、オレに付きまとっていた『三井に告った男』という名も既に違う誰かに移っていた。
実は同じクラスだったりする三井とは、まあ普通だ。
特に避けるとかそういうのもなく、以前と同じように付かず離れずの、普通のクラスメイトとして上手くやれている。
……と、オレは思っているのだが、肝心の三井がおかしい。
あれ以来オレの姿を見ては睨んでくるのだ。
「なんだってんだよ全くー!」
むきー!と鬱憤を散らす相手はもちろん、芦原だ。
芦原とは相変わらず週に一度のペースで会っている。
というかオレが呼び出している。
他に好きな相手がいるのにわざわざ律儀に応じてくれる芦原には本当に申し訳ないとは思うが、ほんの少しでもオレを優先してくれる事に優越感を抱いたりもしている。
「そんなに酷いの?」
「酷いなんてもんじゃないよ!人の顔見る度に眉間にぐあって皺寄るんだよ!?しかも目付き鋭過ぎるし!怖い!」
「まあまあ、三井くんだって複雑なんじゃない?静樹があんまりに普通だから」
「えー、それはないない。だってあいつこの一ヶ月で五人に告白されてその内二人とは付き合って一週間で別れたけど普通に友達やってるし」
まあ別れたと聞いたから告白したんだけど。
基本的に誰に告白されようがその前後の態度が変わらず。
それがまた人気に拍車をかけ、告白する人が後を絶たないのだ。
運良く付き合えてすぐさま別れても悪い噂はあまり聞かない。
どうすればそんな付き合いが出来るのかはわからないが、羨ましいことこの上ない。
そんな三井が。
「……やっぱりなんかやっちゃったかなあ」
オレにだけあんなにきつい態度を取るということは、やはりやっちまったのだろう。
何か、なんてわからないけれど。
睨むだけではなく近付く度に地味だのチビだの見てんじゃねえよだの憎まれ口叩いてくるし。
クラスメイトだし、出来れば卒業までそれなりに仲良くやっていきたいなと思っていただけに少しへこむ。
はあ、と溜め息を吐くと。
「……今更静樹の可愛さに気付いたか」
「ん?なんか言った?」
芦原が何やら呟いたような気がしたが、あまりにも小さな声で聞き取れなかった。
「ううん、なんでもないよ」
「ほんと?」
「ほんとほんと。相変わらず静樹は可愛いなーって思っただけ」
「うわっ、わっ、はははっ」
にっこりとはぐらかされ腑に落ちなかったが、伸びてきた手にぐしゃぐしゃと髪をかき乱され、笑みが零れた。
そんなオレ達を見ている目があった事などに気付かず。
オレは芦原との時間が楽しくて、ずっと続くといいな、なんてのんきな事を考えていた。
*
「なあなあなあなあなあ!昨日一緒にいたの誰?誰?」
「はあ?」
席へ着いた途端に鼻息荒く寄ってきた小池に気持ち悪いなと思いつつ、問われた事に首を傾げる。
「だから!昨日駅前ですっげえカッコいい兄ちゃんと一緒にいたじゃん!」
「ああ、芦原さん?」
「誰さんだかはわからんけど!」
昨日会っていたのは芦原だけだから、見たというのは芦原なのだろう。
駅前なんてかなり人がいるからわからないと思いきや、意外と見つかるもんなんだなあ。
というかなんでこんなに興奮しているんだ。
「で、芦原さんがどうかした?」
「もー!わかってるくせにー!」
「え、マジできもいんだけど。きもい」
うりうりと肘で小突かれ、気色ばんだ表情を近付けてくるもんだからつい本音が二度も口から飛び出してしまった。
小池に気にした様子はこれっぽっちもないが。
「ほんと鈍ちんだなあ」
「だからなんだよ」
「だーかーらー、付き合ってんの?あのカッコいい兄ちゃんとって話」
「…………………は?」
ぽかんと口を開く。
え、いや、誰と誰が付き合ってるって?
「黒谷と芦原さん?だっけ。いやもうすっげえイイ雰囲気だったから邪魔するのもアレかなと思って昨日は素通りしたんだけど!」
頭なんか撫でられちゃってどっちもにこにこ楽しそうにしちゃって出来たてのカップルかよ、みたいな雰囲気を醸し出していたらしい。
何かのフィルターに覆われた小池の目によると。
いやいや別にオレは付き合ってると思われても構わないけれど、芦原には好きな相手がいるのだからここはきちんと訂正しておかなければ。
「いや、あのな」
「どこで知り合った?なかなかいねえよあんなカッコいい人!」
「いやだから」
「なあなあどうなんだよ?三井にフラレてへこんでると思ったらうまいことやってやがってこのやろー!」
「話聞けよお前」
次々と言葉を紡がれ自分のセリフがかき消されてしまう。
若干イラッとしたところで。
ガタンッ
「「!」」
教室の奥からの大きな音。
小池と二人でびくりと肩を震わせ音のした方を見ると。
「……え」
相も変わらず怖い表情でこちらを見ている男前、そう三井が、すぐ傍にあったらしい机を蹴飛ばしていた。
オレ達ばかりか教室中が静まり返る。
驚いてなんのリアクションも取れないオレ達を余所に、三井は怖い顔をしたままこちらへと近付いてきて。
「ちょっと来い」
「え?わっ!?ちょちょちょ、三井!?」
腕を掴まれガタガタと音を立てて強引かつ不格好に立ち上がらされたオレは、そのまま三井に引っ張られた。
ずるずると廊下を駆けて行ったその先は……
※この先は選択肢が二つに別れます。
ひとつめは芦原ルート
ふたつめは三井ルート
お好みの攻めの方を読み進めていただけると嬉しいです!
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