勇者の料理番

うりぼう

文字の大きさ
上 下
38 / 39

海鮮丼!

しおりを挟む



おじいちゃんの泉に復活した魚達を見て太陽が一言。

「なあ、この魚って食える?」
「無論じゃ。ドーラと言ってな、紅色の身に脂が乗っていてとても美味じゃぞ。他にも色んな魚がおるがどれも美味じゃぞ」

太陽の質問に胸を張って答えたのはおじいちゃん。
感想が一般人のそれなんだけどおじいちゃん普通に魚食べてるのかな。
料理とかしなさそうなんだけどどうやって食べてんだろ。

「生で食べても良し、焼いて食べても良し、とにかく美味いんじゃ。ああ、ドーラでぐいっと一杯いきたいところじゃのお」

うっとりと呟くおじいちゃん。
お酒飲めるんだ。
ますます俗っぽくて精霊という感じが全くない。

「ドーラか、確かに美味いよなあの魚」
「俺生のは食った事ねえなあ」
「皮をカリッカリに焼いて食うのがまた美味いんだよな!」
「うわあ食いたくなってきた」

ふむふむ、騎士さん達も食べた事があるのか。
割とメジャーな魚らしい。
ドーラなんて魚聞いた事ないからわからないけど、紅色って事は鮭みたいな感じ?
生でもいけるならサーモンかな?
ん?鮭とサーモンの違いって何だ?
まあいっか。

それよりも今素敵なセリフが聞こえなかったか?

『生でも良し、焼いても良し』

つまりはお刺身が食べられるって事だよな!?
しかもたくさんの種類の魚がいるとな!?

「太陽……!」
「朝日……!」

太陽も同じ所で引っかかったのか、目を輝かせてお互いを見る。

「これはやるしかないでしょう」
「だよな!」

かくして精霊の泉で大釣り大会が始まった。








「そーりゃ!」
「よっしゃかかったー!」
「うわデカ!これ市場に出回ってるのよりもデッカイんじゃねえ!?」
「うわあ、美味そう!」

騎士さん達と共にわいわい釣りをする。
俺はあんまりやった事ないからちゃんと釣れるか心配だったけど、こうして糸を垂らしているだけでも楽しい。
ちなみに釣竿は騎士さんの一人がその辺にあった木を適当に加工して作ってくれた。
糸は食品加工用の凧糸で、針も何か適当に魔法で加工していた。
魔法って本当に便利だな。

それにしてもとても魔獣退治に来ているとは思えない雰囲気。
良いのかなこんなにのんびりしていて。

「どうせ一日二日は周辺の魔獣を退治しに行かなければならないのだから大丈夫だろう」
「心読まないでよ。でもまあ、そっか、なら良いのか。息抜きも必要だしね」

何も言っていないのに疑問への返事を寄越したのは案の定たまだった。
うん、もうこれに慣れちゃってる自分に驚きだよね。

「ていうかたくさん釣ってるけど良いのかな?泉からいなくならない?」
「ふぉっふぉっふぉっ、もうすっかり元気になったから大丈夫じゃ!儂が元気なら魚は次々生まれるからのお!たくさん釣ると良いぞ!」

オムライスの一件ですっかり俺への評価が上がっているおじいちゃん。
たまに気に入られているというのも相まってもう好好爺にしか見えない。

「ん!?お!もしかしてかかってる!?」
「かかってるな」
「わ、わ、どうしよう、え、もうあげちゃっていいの!?」
「朝日くんもうちょっと!もうちょっと食いついてから一気に引いて!」
「は、はい!」
「今!今だよ!」
「はいいー!」

近くの騎士さんが指示を出してくれて、その声に合わせて思い切り竿を引く。

「う、重……!」
「うわあ、引きが大きいね!かなりの大物じゃない!?」
「んぎぎぎぎ……!」

泉の中の魚と格闘するがすぐに軍配はこちらにあがった。

「よっこいしょー!」

渾身の力で引っ張ると、特大のドーラがそこには引っかかっていた。

「うっわ!?」
「おっと」
「!」

ドーラの重さと引っ張った時の勢いで後ろに倒れそうになる俺を、すぐ側にいたたまが支えてくれる。
背中を丸っと包み込んだまま、たまは竿を掴みそれを静かに陸へと着地させた。

「うわーうわー!すっごい!俺初めて釣れた!」
「良かったな」
「うん!」

思わずはしゃいでしまう。
元々大きいから俺が釣ったのも大物とは言い難いが、自分で釣れたというのが嬉しい。

「はい、近い近い!離れて離れて!!」
「!!!」
「……余計な指摘をしおって」

太陽に言われて後ろから抱き締められているような体勢になっていた事に気付き慌てて離れる。

たまの奴、やっぱり距離感おかしいよな!?
前からおかしかったけど、最近は遠慮がなくなってきているような気がする。
スキンシップが過剰すぎる!

(恥ずかしいけど嫌じゃないってのが困る)

そう、嫌じゃないのだ。
まあたまに触れられて嫌がる人なんていないだろうけど。
……太陽は嫌がりそうだな、うん。

それはさておき、釣れた魚は魚を捌ける騎士さんが次々と捌いて柵にしてくれている。

ドーラはサーモンに似た魚で、確かに紅色の身に脂が乗っていてめちゃくちゃ美味しそうだ。
ブリくらいの大きさの魚は身がまぐろっぽいし、鯛のような白身魚もある。
欲を言えば鯵や海老も欲しいが我儘は言っていられない。
これだけでも十分立派なものが作れる。

「よし、じゃあ俺もそろそろ取り掛かろうかな」
「何だ、もう止めるのか?」
「うん。だってご飯の準備しないと。せっかくだから釣りたてほやほやを食べたいじゃん?」

釣竿を傍らに置き立ち上がる俺についてくるたま。

「たまはやってて良いんだよ?」

俺が釣るのを隣で見ているだけだったから楽しみたいかなと思ったんだけど、たまが釣りしてる場面とか想像出来ない。
似合わない。
笑える。
むしろ釣った魚を献上されている方が容易に想像出来る。

「いや、我ももう良い。それより今日は何を作るんだ?」
「ふっふっふ、それはねー」

たまに問われて笑みが浮かぶ。
今から作るのは前に街に買い物行ってからずっと食べたかったやつなんだ。
うきうきしてしまう。
今日作るもの、それは……

「海鮮丼、でーす!」

そう、海鮮丼だ。
もうずっとずっと食べたかったんだけど、生で食べられるような魚が手に入らなくて諦めていたのだ。
だからラッキー!

「???海鮮?丼?」
「まあ泉の魚だから正確には海鮮じゃないけど、お刺身丼って言った方が良いかな」
「お刺身とは何だ」
「生の魚だよ。こっちじゃあんまり生で食べないんだっけ?」
「人間達が食べている所はあまり見かけないな」
「あ、そっか、こっちの人達は生の魚に抵抗あるか」

普通にご飯にそのまま乗っけて食べようと思っていたけれど、少し工夫した方が良いかもしれない。

(ん、よし、じゃあとりあえず半分は生で、もう半分は……)

漬けにしよう。
醤油とみりんを火にかけそこに切った魚を突っ込むだけ。
醤油とみりんは当然のようにお玉から出した。
抵抗がないように魚は少し炙っておいた。
うん、美味しそうだ。

あとは切り身のドーラを普通に焼いたのと、皮をカリッカリに炙ったやつも用意する。
大量に余った魚の粗はしっかりと洗い纏めて鍋に突っ込み出汁を取る。
出汁を取った後は粗を取り除き、煮込んでおいた大根ネギと合わせて味噌を溶きあら汁の完成。
頭の部分に少し付いていた身ももちろんしっかりこそげて入れています。
面倒だけどこうしておくと食べる時楽なんだよね、いちいち骨取らなくて良いから。

「さてと、あとはこれ!」
「何だそれは」
「漬け物だよ。野菜を塩と出汁で漬けておいたやつ」

おばあちゃんから教わったんだよね、この浅漬け。
材料はきゅうりにキャベツ、にんじん、千切りの生姜とごくごく普通。
それを塩で揉み込んで、鰹出汁と昆布出汁で味付けしただけのシンプルな浅漬けなんだけどこれが凄く好きなんだよね。

「ん」
「……しょうがないなあ」

食べさせろと口を開けるたま。
大丈夫、俺はもう学習したんだ。
だから素手じゃなくてちゃんと箸を使ってたまに食べさせる。
これで前のキムチの時みたいに舐められなくて済む!

「ふむ、歯ごたえがあって良いな」
「でしょ?味付けも我ながら完璧!うまー!」

ついでに味を確かめる為に自分でも摘むと最高に美味い。
これもずっと食べたかったんだよー!
しまった、ガリも欲しかったなあ。
失敗した、まさか森の真ん中で海鮮丼食べられると思っていなかったから準備していなかった。
まあそれは今度リベンジしよう!

「ちゃんとおばあちゃんの味、だ……っ」

と、感動しかけたのも束の間、うっかり言葉に詰まる。
たまが、箸を持つ俺の手にするりと手を伸ばしてきたからだ。
手首から甲に向かって指先でなぞりそのまま覆われる。

「っ、た、たま……!」
「あっちも味見させてくれ」
「……はいはい」

掴まれた手を漬けの方に誘導され思わず溜め息。
うっかりどきどきしてしまった俺の焦りとか緊張とか色々返して欲しい。

ていうかたまの奴、絶対俺が焦ってるのわかっててやってるよな!?
俺の反応楽しんでるよな!?
くっそう、次こそはポーカーフェイスのノーリアクションでやり過ごしてやる!

決意虚しく、次に触れられてまた過剰反応してしまう俺がいるのだが、まあそれは置いといて。

「さー出来た!みなさーんご飯ですよー!」

食事が完成し、釣りをしていたみんなに声を掛けた。

「魚をご飯の上に乗せて、醤油掛けて食べて下さい。こっちが生で、こっちが炙って漬けたやつです。どうしても生魚が苦手という方は言って下さい、しっかり焼きますからね!」
「生で食うの初めてかも」
「俺も初めてだけど、美味そう!」
「俺は前に食った事あるけど、割といけるぜ」
「朝日くんの作った物にはずれはねえだろ!じゃんじゃん食うぞー!」

良かった、みんな抵抗なく食べてくれそうだ。

「めっちゃ美味そう!海鮮丼最高ー!!しかも浅漬けも!うまーい!」

太陽は言わずもがな生も漬けも大量にご飯の上に乗せている。
ご飯には予め海苔と大葉と生姜と小葱を散らしてある。
ここに茗荷としらすの釜揚げも追加すると更に美味しいんだけど、ないから今回は断念。

「うわ、こっちの皮カリッカリなのも最高」
「焼いたのも脂がじゅわっとしてうまー!」
「やば、生の魚ってこんなにとろっとろなのか!?」
「口の中が天国……最高……!」
「スープも美味いなあ、丼に合う!」

いつものようにガツガツと食べ進める騎士さん達に俺も大満足。

「あ、そうだ。おじいちゃんはこれもどうぞ」
「おおお!なんと有難い!!!」

ぐいっと一杯、と言っていたのでおじいちゃんにはお酒も出した。
もちろんお玉で。
それを熱燗にして渡すとおじいちゃんの目がきらっきらに輝いた。

「ふぉー!いつもは冷たいのを飲んどるが、この熱いのも堪らんのお!美味、美味じゃー!」
「え、ちょ、ペース早……!」

湯水のようにぐいぐい飲むおじいちゃんに驚くが、まあ精霊だから大丈夫だろう。
その割に顔が真っ赤になっているような気がするけど……うん、気にしない事にしよう。

(たまも、美味しそうに食べてるな、良かった)

黙々と海鮮丼を頬張るたまにホッと一息。
俺も自分の胃袋をしっかりと海鮮丼で膨らませた。

翌日、中にごろっとドーラを詰め込んだおにぎりはみんなに大好評。
収納袋には余った魚達が大量に入れられたから、これから暫くは美味しい魚に困らず済みそうだ。

しおりを挟む
1 / 3

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

没落貴族の異世界領地経営!~生産スキルでガンガン成り上がります!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,320pt お気に入り:3,512

便利すぎるチュートリアルスキルで異世界ぽよんぽよん生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:433pt お気に入り:4,564

あやかし祓い屋の旦那様に嫁入りします

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:554

お人好し底辺テイマーがSSSランク聖獣たちともふもふ無双する

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:276pt お気に入り:7,497

処理中です...