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食料調達
しおりを挟むのり弁が食べたい。
最近ずっとお弁当が作りたいと考えていて、どんなお弁当にしようかと悩んだ末そんな結論に達した。
のり弁。
良いじゃないかのり弁。
ご飯にはおかかを乗せてその更に上にのり。
おかずはどうしよう。
定番のきんぴらごぼうと卵焼きは外せないよな。
白身魚のフライとちくわの天ぷらも入れたい。
ああ、でも前にちらっとテレビで見た超高級のり弁も捨てがたいなあ。
鶏肉の照り焼きが乗ってたり鮭が乗ってたりれんこんと舞茸の天ぷらが乗ってたり、副菜もそれぞれ違ったあののり弁。
でものり弁にしては高かったし、新幹線の距離にしかないから食べた事はないけど美味しそうだったなあ。
あれ、でものり弁の白身魚って何の種類なんだろ?
あまり深く考えないで食べてたけど……まあ良いか、作るとしたらタラあたりで良いかな。
でもタラがないなあ。
鮭……も買いに行かないとないな。
いっそこの前のうなぎもどきをメインにしても良いかもしれない。
いや、うなぎもどきメインにしたらそれはもうただのうなぎ弁当だ。
うーん、でも旅の途中だしなあ。
ムリ言って着いてきたんだからちょっと食料調達しに一か月くらいいなくなります!なんて言えるはずがない。
そんな事を悩んでいると。
「朝日、何か足りないものはある?」
「え?」
ウェイン王子からそんな事を聞かれた。
このタイミングで足りないものを聞かれるなんて、まさか心の声が漏れてた!?
「違うと思うぞ」
「え、漏れてない?」
「ない」
「何が漏れてるの?」
「いえ、何でもないです。ところで足りないものって……?」
「そろそろ物資を足す予定なんだ。城の泉から近くの泉まで届けて貰えるから今の内にリクエストを聞いておこうと思って」
「!!!食材が欲しいです!」
「うん、朝日ならそう言うと思った」
たまが泉から泉へと移動出来るように、泉と泉には魔法がかけられていてその間で物資を送りあえるようになっているらしい。
あと半日程進んだところに泉があり、そこで受け取る予定なんだとか。
魔法の通信機で連絡を取り合っているから可能なのだろう。
そういえば出発する前にそんな事を説明された気がする。
長い旅の間の食料とかどうするんだろうと思っていたけれど、そうだそうだこういう便利な機能があったんだ。
「それで、何かある?」
「いっぱいあるんですけど、えっと……」
「急がなくても良いよ。今日の夜までに教えてね」
「わかりました!」
欲しいものがありすぎて悩んでいると気を使ってくれたウェイン王子にそう言われた。
たっぷり悩む時間がありそうだな。
(鮭、じゃなくてサーモンだろ、白身魚、それに野菜も買い足したい。あとはデザート用の果物も欲しいし……)
あれもそれもと頭の中で考える。
待てよ、そうだよ泉と泉が繋がっているんだから俺が直接買い出しにも行けるじゃん!
しかも瞬間移動的なやつだから時間もかからない!
食材を選ぶなら自分で選びたいし、よし、ここはいっちょ頼んでみよう。
「王子、頼みがあるんですけど」
「?何?」
「俺が直接買い出しに行ったらダメですか?」
「え?」
ウェイン王子がきょとんと目を瞬かせる。
「直接?朝日が?」
「泉から泉に移動出来るんですよね?だったら行きたいんですけど……やっぱり難しいですか?」
「うーん、それは俺よりも精霊様に聞いた方が良いかも」
「たまにですか?」
「物資はこちらの魔法でなんとかなるんだけど、人を渡らせるのには精霊様の力が必要なんだ」
「そうだったんですか?」
そうとは知らなかった。
でもこの言い方だと俺が行くのは問題ないみたいだな。
という訳で早速たまに向き直る。
向き直るまでもなくずっと後ろにぴったり張り付いてたから話は聞いていただろうけど。
「たま」
「構わない。半日もあれば足りるだろう?」
「良いの?」
「構わないと言ってるだろう」
「やった!ありがとう!」
「ただし、我も共に行くぞ」
「え、たまも?」
「嫌なのか?」
「嫌じゃないけど……」
「何だ?」
「……いや、目立ちそうだなと思って」
じろじろとたまを見る。
だってこのたまだぞ?
こんな歩く彫刻を連れて行って騒ぎにならないだろうか。
どう見ても目立つし、どうやってもこのオーラを隠すのは難しい気がする。
「何だ、そんな事か。それならこれでどうだ?」
「!!!化けた!!!」
「朝日、言い方」
「……つい」
いつもの超絶美形で光でも発してるんじゃないかという姿から一転、髪も目の色も落ち着いた色味の普通の青年に姿が変わった。
まあ普通の青年という割に顔立ちは変わっていないから派手なのには変わりないけど随分マシだ。
「どうせ化けるなら猫の姿に化けてくれれば良いのに」
「その姿だと我がつまらん」
「何それ」
つまるとかつまらないとかの問題なのだろうか。
久しぶりに猫姿のたまをもふもふしたかったのになあ。
「朝日買い出しに行くの?俺も行きたい!」
「お主はダメだ」
「何で!?」
他の騎士さん達とぶんぶん剣を振り回していた太陽が話に加わる。
即座に答えたたまに太陽が不満そうな声をあげる。
「太陽、当たり前じゃん。行ってる間に魔獣出たらどうするのさ」
「あ……」
そうだった、という顔。
完全に出かける事に思考が傾いて魔獣の事忘れてたな太陽の奴。
「それもそっか」
「ちゃんとお土産買ってくるよ」
「お土産より……たま」
ぎろりとたまを見る太陽。
どうしたんだ太陽、そんな目して。
たまは全然気にしていないようで涼しい顔をしている。
「何だ?」
「……変な事するなよ」
「変な事とは?」
「わかってるくせに」
「さあ、何の事やら」
「ちょっとちょっと何言ってんの太陽」
変な事ってなんだよ。
たまが俺に何かするとでも思ってるのか?
何をするっていうんだよ全く。
「朝日、油断するなよ。男は狼なんだからな」
「何言ってんの、たまが一緒なら大丈夫だって。ていうか俺も男だし」
強盗にでも襲われると思っているんだろうか。
心配性だな太陽は。
「たまが一緒だから心配なんだろ!?」
「だから大丈夫だって、たまだってこの通り化けたし、たまが狙われる事もないよ」
「だからそうじゃなくて!」
太陽が頭を抱えてしまった。
ウェイン王子がその後ろで苦笑いを浮かべているのは何故だろう。
よく見たら騎士さん達も苦笑いだ。
何なんだ一体。
*
そしてやってきました泉です!
この前みたのよりも少し小さいけれど、水が澄んでいて凄くキレイ。
たまが管理している泉はどれもキレイなんだよな。
これも精霊の力のおかげなのかな。
「準備出来たか?」
「うん、ばっちり!」
準備といっても収納袋と食費を持っただけ。
食費はこんなに預かっても良いのかというくらいに握らされたのだが、この人数だし日数もあるから良いのだと言われた。
俺は普段通りの格好にフード付きのローブ。
たまも同じようにフード付きのローブを頭からすっぽりと被っている。
うん、これで顔の良さが多少は隠れるな。
「じゃあ行ってきます!」
「朝日、油断するなよ!?」
「何回目だよそれ、大丈夫だって言ってるのに」
もう既に今朝から何度目だろうか、口酸っぱく言われ続けているセリフ。
もうそろそろ耳にタコである。
「心配しないで、ちゃんとお土産も買ってくるから」
「俺は朝日の心配してんだけど」
「はいはい、ありがと」
「……絶対意味わかってない」
まだ何か言い足りなさそうな太陽をウェイン王子に預け、俺とたまは泉から城内神殿にある泉へと移動した。
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