24 / 39
バター香るトンテキ丼
しおりを挟む討伐に出て一か月。
まだ一か月しか経っていないのかというくらい濃い日々を過ごしている気がする。
倒した魔獣はといえば猪アンド狼型、鳥型、蛇?うなぎ?型の三種類。
最初こそ食べられなかったが、他の二種類は美味しかったなあ。
今のところ食中毒とかもないしお腹壊す事もないし変に具合が悪くなるという事もない。
最初は魔獣を食べるなんて、と否定的だった騎士さん達も今ではすっかり魔獣肉の虜である。
「最初の鳥も良かったけど、やっぱあのうなぎっつーのか?あれも美味かったなあ」
「酒のつまみにも良さそうだったよな」
「俺は鳥が一番だったなあ」
「俺はこの前食べたくれーぷが良かったな!」
「色々具が選べるのが良かったよな!」
ふっふっふ、みんなの胃袋を掴んでいるようで安心した。
ここに来て料理のスキルがあがっているような気もする。
大人数の料理を毎日作っているからか、はたまた魔獣なんて料理しているからか。
でも料理のスキルがあがるのは良い事だよね。
「そういえば、たま最近どうなの?」
「何がだ?」
「力だよ。いっぱい使ってるって言ってたじゃん」
魔獣の出現で泉を守る為に力を使っていると言っていた。
その為に俺から魔力を貰っていると説明されていたはずだ。
「ああ、その事なら心配ない。順調に回復とは言えないが、極端に減っている訳でもない」
「現状維持って感じ?」
「まあ、そうだな」
「この前うなぎもどき倒した時に泉守れたのが良かったのかな?」
「恐らく。ひとつでも泉に魔獣が足を踏み入れていたら危ういからな」
「足を踏み入れるって、ちょこっと触っただけでも危ないの?」
「ああ。魔獣の魔力は我にとって毒だからな」
「え!?じゃあ食べちゃダメじゃん!」
毒って!
触るのもダメなら食べたらもっとダメでしょうが!
先に言ってよ!
泉には結界を張ってあるが、それを越えて魔獣が入ってくると泉の持つ力が奪われ、たまにも大打撃が来るのだそうだ。
「大丈夫なの!?」
「死んでいる魔獣なら大丈夫だ。生きていると駄目だが」
「なんだ、びっくりした」
生きてるのがダメなら生体エネルギー的な何かの問題なのか?
良くわからないけど、死んでいるのが大丈夫なら良かった。
精霊様に毒食べさせたとか言われたら困る。
いくら勇者である太陽の連れとはいえ罰を受けさせられるかもしれないじゃないか。
「……罰を受けるのが怖い割にこき使うんだなお主は」
「それとこれとは別でしょ」
たまが自主的にお手伝いをするのと俺が毒を食べさせるのとは訳が違う。
こき使うと言ってもご飯の準備をちょっと手伝ってもらっているくらいだ。
今もやってもらっている事と言えば卵をかき混ぜるくらい。
この前の生クリームはさすがに重労働だったかなと思うけど。
「この卵はどうするんだ?こんなにたくさん必要なのか?」
「卵焼きにするんだよ。この人数だからね、このくらいないと足りないって」
今作ろうとしているのはう巻きだ。
この前のうなぎもどきがあるからそれを使うつもり。
たっぷりあるからうなぎもどきたっぷりのう巻きが作れるんだよね。
う巻きの他は野菜たっぷりの味噌汁と、今日は丼!
ちょっとご飯作るの面倒な時とか便利だよね丼。
みんな頑張って討伐してるのに面倒とか言っちゃいけないんだろうけど、好きでもあるんですご飯作るのが面倒な瞬間が。
お昼ご飯だと特にねー。
なんとなく手抜きになっちゃうよね。
卵を焼いてうなぎもどきを置いてどんどん巻いていく。
全部で8本作り食べやすい大きさに切って置いておく。
うん、断面も良い感じだ。
「見事なものだな」
「まあね、卵焼きはいっつも作ってたし」
俺が好きだというのもあるけど、お弁当に入れるのにちょうど良いんだよね卵焼き。
だから毎日のように色んな卵焼きを作っていたのが懐かしい。
(お弁当作りたくなってきたなあ。でも今はお弁当いらないし……いや、ピクニック感覚で朝のうちに準備しておくのも良いかもしれないな)
大量のおにぎりとおかずを作っておいて合間に食べるのも楽しそうだ。
おっと、今はお弁当じゃなくてお昼ご飯の事を考えないと。
さて、丼の主役は街で買っておいた豚肉。
うははっ、分厚い!最高!
これをぼっこぼこに叩いて切れ目を入れて塩コショウをしたら小麦粉をまぶす。
肉はこのままじゃんじゃん焼いていく。
じゅわーっと良い音がしてる肉を低温でじっくり火を通す。
合わせるタレは、しょうゆにみりん、砂糖、にんにくとオイスターソース、ケチャップを混ぜたもの。
うーん、タレだけでも良い匂い。
これを焼けた肉に絡めるともー堪らん!
これがご飯に合うんだよなあ。
「朝日、昼飯なーに?」
「トンテキだよー」
「相変わらず良い匂いだなあ」
「でしょでしょ」
炊き立てご飯にキャベツの千切りを乗せてその上に焼けたトンテキを乗せる。
ご飯の上にちょこっと塩コショウしておくと更に美味しい。
あくまでちょこっとだけだけど。
そんで焼き立てのトンテキにはバターをどーん!
溶けたバターがタレに絡まって最高なんだこれがまた!
「さーて皆さん出来ましたよー!取りに来てくださーい!」
俺の声でうおおおおおと騎士さん達が駆け寄ってくる。
「こりゃ美味い!」
「今日も最高っす朝日さん!」
「いやあ、良い嫁になるなあ」
いや嫁には行きませんけど。
どちらかというとお婿さんでは、と言いたいがご飯に夢中になっているから聞こえないだろうな。
うん、でも我ながら美味しい。
肉も柔らかく焼けてるし味付けが想像通り。
やっぱり小麦粉まぶして焼くと柔らかく焼けるなあ。
最初に作った頃は表面が焦げて中は生焼けなんて事もあったもんな。
懐かしいなあ。
あれに比べると大分成長した。
「おかわりだ」
「食べるの早!」
「美味いとつい飲み込むように食べてしまうな」
「ちゃんと噛まないとダメだよ」
「わかっておる」
焼いておいてあった肉をご飯と共にたまの丼に乗せる。
「バターは?」
「もらおう」
「はーい」
「朝日!俺もおかわりー!バターありありで!」
「はーいよー」
たまに続いて太陽もおかわり。
「朝日、俺にも貰える?」
「ウェイン王子、珍しく早いですね」
「精霊様じゃないけどすいすい食べれちゃって」
「嬉しいです。どうぞ!」
「ありがとう」
ウェイン王子におかわりを渡すと次々と騎士さん達のおかわりラッシュがやってきた。
それにじゃんじゃん答えていると、その様子を見たウェイン王子がくすりと笑う。
「ふふ、何だか魔獣の討伐に来ているとは思えないなあ」
「飯が美味いから?」
「それもあるけど、みんなが伸び伸びしてるっていうか、リラックスしてるように見えて」
「ああ、確かに緊張感の欠片もねえよな」
ぽつりと呟いた王子に答えたのは太陽。
確かに緊張感の欠片もない。
戦っている時ではないからリラックスしているのは良い事だ。
ご飯の時くらい思い切りリラックスしたもらわないとね!
「最初、朝日が着いてきたいって聞いた時には心配したけど……」
「あはっ、頼りないですもんね。魔獣と戦える訳でもないし」
「うん、でも今は一緒に来てくれて良かったと思ってるよ」
「ありがとうございます」
良かった。
些細な事だけど、ご飯のひとつやふたつでそう言ってもらえると嬉しい。
この国の郷土料理も一応作るんだけど、やっぱり作りやすい日本食が多くなっちゃうからなあ。
内心どう思われているのか少し心配だったんだ。
太陽が喜んで食べてくれるのはわかっているけど、他のみんなは育った環境が違うし。
でも見てるとみんな美味しそうに食べてくれてるから本当に良かった。
太陽に巻き込まれて来ちゃっただけの俺。
だけど、こうして誰かの役に立ってるだなと思うとやっぱり嬉しいもんだなと実感した今日この頃だった。
23
お気に入りに追加
712
あなたにおすすめの小説
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
異世界に召喚され生活してるのだが、仕事のたびに元カレと会うのツラい
だいず
BL
平凡な生活を送っていた主人公、宇久田冬晴は、ある日異世界に召喚される。「転移者」となった冬晴の仕事は、魔女の予言を授かることだった。慣れない生活に戸惑う冬晴だったが、そんな冬晴を支える人物が現れる。グレンノルト・シルヴェスター、国の騎士団で団長を務める彼は、何も知らない冬晴に、世界のこと、国のこと、様々なことを教えてくれた。そんなグレンノルトに冬晴は次第に惹かれていき___
1度は愛し合った2人が過去のしがらみを断ち切り、再び結ばれるまでの話。
※設定上2人が仲良くなるまで時間がかかります…でもちゃんとハッピーエンドです!
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる