勇者の料理番

うりぼう

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トッピング自由自在のクレープ祭

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「弟子にしてくれ!」

と、そう突然言い放ったグエンとい青年だったが。

「申し訳ないけれど、討伐の旅は危険だから連れて行けないんだ」

というウェイン王子の一言によりあっさり却下された。

そりゃそうだ。
そもそも弟子取る気なんてないし。

「俺、俺料理人目指してるんだ!だから討伐が終わったら絶対俺を弟子にしてくれよなー!」
「あはは、考えときまーす」

大手を振って少年と共に街の方へと送られていくグエンさん。
家庭料理しか作れない俺なんかよりももっと他に良い人が絶対いるから討伐の間にその良い人を見つけてくれ。
そう願わずにはいられない。
苦笑いを浮かべつつ、一応手を振り返した。

「すごいじゃん朝日、一番弟子?」
「弟子になんてするはずないでしょ。どっちかっていうと俺の方が弟子じゃん」
「そうか?技術さえあれば年齢は関係ないんじゃね?」
「そりゃそうだけど、俺のは単なる家庭料理ばっかりだもん」
「その家庭料理がすっげー美味いんだけどな」
「ありがと」
「どういたしまして。ところで今日の晩飯は?」
「って今食べたばっかりじゃん」

話の流れでさらりと晩御飯を聞いてくる辺りがさすがだ。

「だってこっち来てから朝日のご飯だけが楽しみなんだよ、しょうがねえだろ?」

そう言われると嬉しい。
もっと他に楽しみを見つけて欲しいけど、今のところ俺もご飯作ってる時が一番楽しいもんなあ。
人の事言えないな。

でも食べたすぐ後に晩御飯の事なんて考えられない。
お腹空いてるとアレ食べたいコレ食べたいって色々出てくるのにお腹いっぱいだとそんな余裕がなくなるんだよね。
せめてあと一時間くらいは経たないと考えられないなあ。

「何か食べたいのある?」
「そう言われると悩むな」
「悩むよね」
「んーちょっと考えさせて」
「良いよ、ゆっくり考えて」
「もう一匹くらい魔獣出てくれたら腹ごなしにちょうど良くて頭働くんだけどなあ」
「こらこら不穏な発言しないの」

まるで魔獣に出て欲しいとでも言わんばかりの太陽を窘める。
全く窘めるような口調でないのはご愛敬だ。

「我には何が食べたいのか聞かぬのか?」
「おわっ」

後ろで話を聞いていたたまが俺にのしかかりながらそう尋ねてくる。
ふわりと長い髪に頬をくすぐられる。

「たまも何か食べたいのある?」
「アレが食べたい、前に作ったハンバーグとやらだ」
「ハンバーグかあ」

そういえば討伐に出る前に一度作ったきりである。
ハンバーグならすぐにでも作れるから問題ない。
でも前と同じ味付けにするのも芸がないよなあ。
大根おろしとポン酢で食べるのも美味しいし、手作りオーロラソースはもちろんデミグラスソース、ホワイトソースでも美味しいもんな。

「お肉あったっけ?」

ごそごそと収納袋を見てみると肉は問題なくある。
量も足りるだろう。

「んじゃハンバーグにしようかな」
「えー!?たまのリクエスト聞くのかよー?」
「しょうがないでしょ、早い者勝ち」
「明日は絶対俺がリクエストするからな!」
「はいはい、わかったわかった」
「ふふん」
「うっわ、むかつくその勝ち誇った顔……!」

たまが何やら勝ち誇った顔とやらをしているらしいのだが、背後に立たれている俺には見えなかった。

「精霊様、太陽、朝日。この先にさっきの魔獣の群れがいるみたいだから移動するよ」
「おー!」
「はーい」

そんな話をしている最中にウェイン王子から声がかかり、俺達は川の上流へと移動することになった。












「うわあ、大量」
「中々気持ちが悪いな」

移動した先には三つ首のうなぎもどきが一匹二匹……計五匹いた。
大きさはさっき食べたやつと同じくらいなのが一匹。
少し小さいのが四匹という事はもしや親子だったのだろうか。
数だけで言えば大量とは言い難いのかもしれないが、あの大きさであの見た目ともあると五匹でも十分だ。
ぬるぬるとしたうなぎもどき部分が絡みあっていて何がどうなっているのやら。
しかも五匹いるから頭だけなら15個もあるのである。
中々な光景だ。
一日に二度も魔獣を倒すのは初めての事だ。
しかもこの数を連続となると太陽は大丈夫だろうか。

「あやつなら大丈夫だと言ってるだろう」
「でもさすがにあの数だし心配」
「大丈夫だ、他の騎士達もいるのだし、何よりあやつらのあの顔を見てみろ」
「……うん、かなり楽しそうだね」

太陽が嬉々として魔獣退治に向かうのは今更だが、騎士の皆さんも楽しそうだ。
鳥型魔獣の時もだったけど、うんこれは確実に食い気が戦闘能力を向上させてますね。
うなぎもどきもそんなに美味しかったんだね。
嬉しいけどみんなの目の中にうなぎうなぎと書かれているように見えて苦笑いしか浮かんでこない。
俺のちょっとした心配返してくれないかな。

「朝日、食事の準備はしないのか?」
「今からやっても早すぎるでしょ。多分アレ倒したらまた移動するだろうし」
「む、それもそうか」

ドッカーン!とかバッシャー!という大きな大きな効果音や魔獣の叫び声、騎士達や太陽の雄叫びを聞きながらのんびり会話をする俺達。
傍から見たらどちらが異常なのかわからない。

「?食事の準備はしないのだろう?何をしているんだ?」
「食事の準備はしないけどおやつの準備はするよ」

お腹いっぱいだったけどおやつは別だよね。
良く女の子達が別腹っていうけど凄く気持ちがわかる。
別腹だよおやつは。

「おやつ!この前のどーなつというやつか?」
「ドーナツも良いけど、今日はもうちょっと凝ったやつにしようと思って」
「???何だそれは」
「ふっふっふ、出来てからのお楽しみー!たまも手伝ってくれる?」
「……仕方がないな」

精霊のたまに手伝わせるなんて言語道断なんだろうけど、手伝ってくれるらしいのでこの際だから使ってしまおう。
立ってる者は親でも使えってね。

「じゃあたまはこの生クリームを泡立ててくださーい」
「泡?とは?」
「とにかくひたすらこれでかき混ぜて」
「わかった」

生クリームをたまに任せ、俺は生地を作る。
まずは小麦粉と砂糖、塩を混ぜてそこに牛乳と卵を入れて混ぜる。
良い感じに混ざったら更に何回かにわけて牛乳を入れて混ぜて、最後にバターを入れて混ぜる。
これは30分くらい置いておくんだけど……今回はそのまま置いておくか。
多分倒すのに30分はかかるだろうし。

さーて生地を寝かせてる間にトッピングを作りますか。
フルーツは欠かせないし、チョコソースも欠かせないよな。
あとは甘い物苦手な人用にツナマヨネーズとレタス、きゅうり、それにハム、ベーコンを出しておこう。
切るだけ混ぜるだけ置くだけのトッピングはあっという間に完成する。
溶かしておいたチョコソースも良い感じだ。

「たま、生クリームはどんな感じ?」
「……かなり疲れるんだが」
「そりゃそうだよ生クリーム作ってんだから」
「こんなに疲れるなんて聞いてないぞ」
「あ、でも良い感じじゃん!あとちょっとだから頑張って!」
「……」

むっとしながらも手を動かし続けるたま。
魔法使っても良いのに律儀な奴だなあ。

トッピングも出来ちゃったし、ついでだからお茶の準備もするか。
コーヒー、紅茶、それに麦茶。
麦茶は水出しで大きな瓶に大量に作って、コーヒーと紅茶はお湯を沸かしておこう。
どれも魔法ですぐ水出し出来たりインスタントみたいに溶けだしたりするから楽なんだよね。
あー良い匂いがする!

「出来たぞ」
「お、ありがとー!」

はあはあと呼吸を乱しながら生クリームが完成した。
補充させろと言われて纏わりついてきてるけど、腕力しか使ってないよね?
補充するものなくないか?
まあ良いけど。
なんやかんやで最後の一匹が倒される音がしてきた。

「よーし、じゃあ焼き始めますか!」

寝かせておいた生地をうすーく伸ばして何枚も何枚も焼いていく。
ここまで来たらもうお分かりだろう。
そう、今日のおやつはクレープです!
ホットケーキに比べて手軽に食べられるしトッピングも選び放題だ。

「うわ!クレープだー!懐かしー!」

魔獣を倒し終えた太陽が戻ってきた。
ちゃんと手も洗ってきてるな、偉い偉い。

「くれーぷ?っていうの?どうやって食べるのこれ?」
「これはこうやってこうやって、そんでもってこうです!」

焼いたクレープの生地に生クリーム、バナナ、チョコクリームとコーンフレークを乗せてくるくるっと纏めた太陽スペシャルが完成。
チョコバナナ生クリームにコーンフレークの歯ごたえが堪らないらしい。
これにアイスを添えた太陽スペシャル2もある。
太陽に差し出すと目が輝いた。

「俺スペシャル?」
「イエス、太陽スペシャル」
「やった!いただきまーす!」
「王子はどれ入れます?」
「え?えっと、それじゃあ俺も太陽と同じのにしようかな」
「はーい」

選びきれなかったのだろう、太陽と同じものをウェイン王子に作って差し出す。

「俺、レタスときゅうりとベーコン!」
「俺はいちごと生クリーム!」
「俺は、えーっと、フルーツ全部乗せで!」

等々、初めての食べ物だろうがすぐに順応して注文してくる騎士達。
最終的に俺は生地焼くのに集中してトッピングはそれぞれセルフサービスにしたけど満足してもらえたみたいだ。
良かった良かった。

ちなみにたまはちゃっかり一番最初に生クリームとオレンジ、チョコソースのクレープを食べていた。
これは俺のお気に入りのトッピングである。

(それにしても……すっごいな)

クレープを食べている傍らに積み上げられた魔獣達の肉の塊の山。
とりあえず下処理をして収納袋に突っ込んではみたものの、これは果たして使いきれるのだろうか。

「どうした、お主も食べないのか?」
「食べる食べる!ってもうほとんどない!?」

まだひとつしか食べてないのに!
いや良いんだよ。
美味しく食べてくれたんなら良いんだけど!
良いんだけど……!

生地もトッピングもいつの間にか食い荒らされていてほとんど残っていない状況に、今更ながら、本当に今更ながらみんなの食欲を舐めていたとがっくり項垂れてしまった。
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