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胃袋担当
しおりを挟む「元の世界にも戻れねえし、ここで世話になる以上やる事はやらねえとな」
「働かざるもの食うべからずだしね。ああ、でも俺はどうしよう、太陽みたいに戦えないだろうしなあ」
「だから朝日は黙って待ってろって」
「だから嫌だって言ってんじゃん」
「わがまま」
「頑固」
「怖がり」
「怪力」
「はっ、誉め言葉か?」
「辛いの苦手なくせに」
「今それ関係ねえだろ!?」
「ふーんだ、酸っぱいのも苦手なくせに」
「朝日だって苦手だろうが!」
「俺は食べれるようになったんですー!」
討伐についていくかいかないかから何やら子供じみた悪口や軽口に変わった俺達のやりとりにウェイン王子が噴き出す。
良く見ると精霊の肩も若干揺れている。
いっそ笑ってくれた方が良いんだけど。
「何だ何だ、にぎやかな坊主達が来たな」
いつの間にか鍛錬場に着いていたらしい。
中からかなりガタイの良い男が近付いてきて、これまた俺達のやりとりに笑っていた。
この世界やっぱり美形しかいないのか?
ガタイはかなり良いが顔もめちゃくちゃ整っている。
太陽のように美少女的な整い方ではなく、かなりの男前だ。
「リック団長、こちらが勇者様だ」
「何?これは失礼しました」
ウェイン王子の言葉に慌てて頭を下げるリックと呼ばれた人物。
どうやら騎士団の団長らしい。
「太陽です。敬語も敬称もなしでよろしく」
「朝日です。右に同じく」
「リックだ、よろしく」
大きな手を差し出され、太陽と交互に握手を交わす。
ごつごつとしていて、常に鍛えて使っている手だと感じた。
「二人とも勇者なのか?太陽はともかく、朝日はそうは見えんが……」
手を握った時の感触でそう感じたのだろう。
リックさんが首を傾げながらそう告げる。
太陽は着やせするけど筋肉だけはしっかりついてるからな。
見る人が見ればすぐにわかるのだろう。
対する俺は悲しい事に筋肉?何それ?状態である。
「勇者様は太陽で、朝日は……」
「えーっと……まあ、太陽の胃袋担当です」
ウェイン王子もどう紹介して良いのかわからないのだろう。
俺だってそうだ。
精霊は我関せずとそっぽ向いてるし。
幼馴染です、と言っても良かったのだが、何故か自然とそんな単語が出てきた。
「胃袋担当?」
「胃袋!間違いねえな、朝日には胃袋掴まれてるから」
けたけたと太陽が声をあげる。
「???料理番という事か?」
「まあそんな感じです」
「なるほど、専属料理人か、良いねえ」
専属料理人。
なるほど、この手があるじゃないか。
自分で言ったセリフがきっかけだがひらめいた。
太陽と共に行動するにはこれしかない。
魔法の力とやらを試した後で太陽に相談してみよう。
ダメだって言われても付いて行くけど。
その前に。
「リック団長、これから太陽と朝日の魔力を確かめたいんだけど、ここを貸して貰えないかな?」
「ウェイン王子の頼みとあっちゃ断れないな。ちょうど休憩中だし、好きに使ってくれ」
そう、魔法を試してみなくては。
ていうかリックさん王子様相手にそんな口調で良いのか?
ああでも同じ騎士団の団長同士だから良いのか?
わからないけど心配してしまう。
いや俺達の態度も大概だけど。
「ここでなら好きに使っても大丈夫だから」
鍛錬場の中央に立つ俺達を騎士団の人達が興味深々といった感じで見つめている。
そして好きに使っても良いというのは、この鍛錬場からは魔法が漏れないように結界が張られているんだとか。
何それすごい。
「よーし早速行くぜ!」
「おー!」
意気揚々と手を挙げる俺達だったが。
「お主達魔法の使い方知っておるのか?」
「「……あ」」
「知らないよね、そうだよね。魔法を使うにはこれが必要なんだ」
「これって……」
「紙だ」
「うん、魔法陣が書かれてるんだよ」
魔法陣!
ファンタジーだなあ。
「これは初心者ようの簡単な魔法陣。あとは手で印を結ぶ方法と魔法具を使う方法があるんだけど……」
「この二人ならば魔法具で大丈夫だろう」
ちらりと精霊の方を向いて指示を仰ぐウェイン王子。
「じゃあひとまずこれを使ってもらおうかな」
「杖だ」
「わー魔法って感じ」
渡されたのは持ち手に石の嵌め込まれた杖だった。
指示棒を伸ばしたくらいの長さで持ちやすく軽い。
「この魔法石に魔力を込めて魔法を使うんだよ」
「魔力を込めるって、どうやって?」
「神経を集中させる感じかな。あとはどんな魔法を使いたいのか想像して……放つ」
「「!!!」」
ウェイン王子が手を翳すと、そこから一直線に赤い線が放たれる。
火の魔法だろうか。
放たれたそれは壁に当たる事なく吸収されていった。
あれが結界か。
すげえ。
「こんな感じかな。あとは……」
「あとは?」
「経験あるのみ」
やればやる程身につくって事か。
「実は太陽の指導は私が直々に指導を任されたんだ」
「ウェインが?」
そのセリフに騎士団が騒めく。
「ウェイン王子直々に……!?」
「大丈夫かあの坊主達!?」
「いやまさかウェイン王子も勇者様にはさすがに手加減するだろ」
「もう一人の坊主は大丈夫なのか!?」
「二人とも可哀想に」
「飯食う体力が残ると良いな」
待って待って不穏な会話が聞こえてきてるんですけど!?
どういう事!?
ウェイン王子の指導ってそんなにやばいの!?
思わず太陽と目を見合わせる。
その疑問は翌日からの訓練で一瞬の内に解消された。
連れて来られたのは恐らく専用の鍛錬場。
周りにはやじうま達がたっぷりいる。
みんな仕事しなくていいの?
「さあ、じゃあ早速だけど始めようか。太陽がメインだけど、朝日も自分の身は自分で守れるくらいにはならないとね」
「「……っ」」
昨日騎士団の人達のあんな会話を聞いたから正直怖い。
「おや?返事はどうしたのかな?」
「「は、はい……!」
「はい、はもっとはっきりと」
「「はい!」」
「うん、良いね。それじゃあ行くよ?」
にっこりと微笑むウェイン王子。
こんなに穏やかで爽やかでにこやかなのにめちゃくちゃ怖い!
え、ちょっと王子こんな二面性があったの?
普段と訓練の時の雰囲気違いすぎるんですけど。
「心配するな、死ぬ事はない」
そういう問題じゃない!
精霊のフォローとも言えぬフォローに頭の中で思い切り突っ込んで、俺と太陽はウェイン王子のスパルタ指導を受けるハメになるのであった。
「……ていうか俺達ここに来てまだ二日目だよね?休む暇とかは?スパルタすぎない?」
「俺、こんな辛いの今までで一番かも」
「うええ……」
「二人とも、まだ終わってないよ?」
「「はいいいい」」
「はいははっきり」
「「はい!」」
王子の地獄の指導はまだまだ始まったばかりである。
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