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王子様
しおりを挟む精霊が言うには、この世界に落ちてきた時点で国王達に伝令を送っていたらしい。
小さな精霊達を飛ばしたというのだが良くわからん。
「お初にお目にかかります、シーラ国第一王子ウェインと申します」
王子が自らお迎えにやってくるとは。
しかし王子というのも納得の気品と何とも言えないカッコ良さがある。
背後の集団はやはり騎士団だった。
なんでもウェインが指揮を任されている隊らしい。
見た目が良い上に強いのか。
太陽もそうだけど、神様って不公平だ。
「太陽やばいよ王子様だって、超偉い人じゃん」
「わざわざ迎えにって……やべえな確かに」
「これからお城に行くのかな?お迎えって言ってるし」
「ええ、面倒……」
「こら」
本音を漏らすな。
俺だって面倒だけど、もし魔獣を倒しに行くのだとしたら色々準備も必要だろう。
その為のお迎えだと簡単に想像が出来る。
「勇者様のお名前を伺っても?」
「……太陽、です」
「お連れ様は?」
「朝日です」
思わず敬語で答える。
精霊は最初猫の姿だったからうっかりタメ口だったが良く考えたらタメ口ってまずいよな。
「別に構わん、今更だ」
「だから心読まないでってば」
ちらりと寄越した視線で悟ったのだろう。
またしても明確な返事をされてしまった。
だから怖いって。
「太陽様、朝日様、これより城へと案内させていただきます」
「城……」
「……やっぱり」
想像通りの展開に二人で目を見合わせる。
それにしても単なる巻き込まれただけの一般市民に様付けなんて申し訳ない。
呼び捨てで良いんですよ、明らかに年上だし身分も高いだろうし。
なんてこの場で言えるはずもなく。
俺達はウェイン王子に促されるがまま馬車へと乗り込んだ。
*
「朝日、城だ」
「うわあ」
馬車に揺られながら外を眺めていると、段々と森を抜け草原が広がり、その先に大きな城が見えてきた。
なるほど、だから精霊があそこにいて守っているのか。
じゃなかったらこの森からお城攻め放題だもんな。
「そういえば精霊さんどうしたんだろ?」
「そういや一緒に来なかったな」
「精霊様は泉から直接向かわれていると思います」
俺達の疑問に答えたのはウェイン王子だった。
そう、何故か同じ馬車です。
王子様使用だからか、座席は物凄くふかふかだし肌触りも最高だし何より揺れが少ない。
馬車なんて乗った事ないけど、少ないはず。
後ろに控えていた兵達はそのまま辺りの警備に向かい、俺達とは別行動をとっている。
それにしても泉から直接ってどういう事だ?
「泉から行けるんですか?」
「ええ。あそこの泉は城内の神殿と繋がっているのです。それだけではなく、他の泉や神殿にも移動可能となっています」
「へえ、便利」
「ハイテクだね」
「ハイテク、とは?」
「ハイテクノロジー……ってもわかんねえか、んー、まあ便利って事です」
「太陽、適当すぎ」
「間違いじゃねえだろ?便利は便利なんだし」
「まあそうだけど」
「……お二人は仲がよろしいんですね」
俺達のやりとりを見たウェイン王子がくすりと笑う。
おおう、笑った顔も男前。
精霊の時もだったけど眩しい。
女の子だったらイチコロの笑顔ですね。
「まあ、幼馴染だもんな」
「だね」
「幼馴染……生まれた時からご一緒なのですか?」
「生まれた時というよりも、生まれる前から一緒なんです」
「それは良いですね」
にこにこと微笑みながら頷くウェイン王子。
王子だというのになんというか、ほんわかするなこの人。
しかも凄く腰が低い。
「ていうか、敬語止めてくれませんかね?」
俺も言おうとしていた事を太陽がずばり問う。
「しかし、太陽様は勇者様ですので」
ウェイン王子は困ったように眉を下げる。
勇者ってそんなに偉いんだろうか。
……偉いか。
この国の未来がかかってるんだもんな。
「別に敬語使わなかったからってどうもしませんけど。やる事はちゃんとやるし。あとその様ってのもやめて欲しいんですけど」
「俺も是非、敬語は止めてほしいです……ただの巻き込まれた一般人ですし」
何より王子様という立場の人に敬語を使われるなんて寿命が縮む。
様を付けられるのも現代日本で育った身としてはむず痒い。
『くん』とか『さん』だったらまだ良いんだけどなあ。
「……わかりました、それでは太陽様も朝日様も敬語をやめていただけますか?」
「良いぜ、わかった」
「え、俺も?」
「精霊にはタメだったじゃん」
「それはだって最初は野良猫の姿だったから……いやでもやっぱり敬語の方が落ち着くのでそっちで。慣れたらおいおい外していきます」
「そうですか?」
しゅん、と眉を下げる王子。
ていうか普通王子様ってもっと偉そうなんじゃないの?
ていうか偉い人なんだから偉そうにしてて良いのになんなの?
いや良いんだけどね、良い人そうだから!
「では太陽、朝日、行こうか」
「おう!」
「お、おー」
城へと辿り着いた俺達はウェイン王子の言葉に頷き、後ろについて城内へと足を踏み入れた。
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