勇者の料理番

うりぼう

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自慢のお弁当

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「……何でこのタイミングで弁当なんだよ」
「だってお腹空いちゃったし」

お昼にはまだ早いかもしれないが、ここにいるのなら昼休みも何もない。
それにお腹が膨れれば太陽の苛々も治まるだろうし、食事をしながらの方が何となく色んな事を整理しながらじっくり話せる気がする。

「ね?だから食べよう」
「……はあ、わかった」

太陽は溜め息を吐いて俺の正面へと座り直す。
いつの間に近くに来ていたのか精霊も傍らへと寄ってきていた。
三人で円を描くように座ったところで中央に弁当を広げる。

「おお、うまそう!」

さっきまで怒っていたのに弁当を見た途端目を輝かせる太陽。
今日のメニューはメインの唐揚げに自分でも上出来の卵焼き、そしてブロッコリーとツナを和えたものと人参大根の酢漬け、ちくわの磯部揚げ、そして梅とおかかと鮭のおにぎり。
水筒にはお茶を入れてきたしデザートには柿を剥いてきてある。

「これは見事だな」
「精霊さんも食べる?ってか食べれる?」
「ああ、そういえばこの姿のままだったか」

精霊が呟いた次の瞬間、そこに一人の青年が姿を現した。

「うおっ、化けた!」
「太陽、化けたは失礼だろ。確かに化け猫みたいだけど妖怪じゃないんだから」
「お主達どちらも中々失礼だと自覚しておるか?」
「「え?」」
「……まあ良い」

大きな溜め息を吐く精霊。
長い白銀の髪に真っ白な肌、同じく白銀の瞳がキラキラと反射している。
太陽より美人な人って初めて見たかもしれない。
ていうか猫の姿がどうこうよりも、精霊という存在自体物を食べられるのかという質問だったのだが……まあ良いか。

「それが元の姿なのか?」
「猫の時と違って物凄くしゅっとしてるね」

あのデブ猫の面影はどこへやら。
今は全く見る影もない。

「あれは向こうの世界での仮の姿だ。その辺にいた動物を模しただけだ」
「猫のままで良いのに。目が眩しい」
「光ってはいないが……」
「そういう意味じゃねえよ」
「まあまあ」
「これで問題なく食べれるぞ」

あ、食べれるんだ。

「じゃあどうぞ、いつも多めに作ってるから」
「やることねえのに」
「俺達だけ食べるのもなんか気使うじゃん」
「人が良いんだから朝日は」
「人が良いかどうかは置いといて、早く卵焼き食べてみてよ!」

早く早くと勧めると太陽が真っ先にそれを頬張ってくれた。

「どう?どう?」
「うまーい!何これすっげえふわふわだし出汁の味も最高!」
「でしょでしょ!?いやあ、これぞ最高傑作」
「お店出せそう」
「えー?ほんとに?いやあ照れるなあ」
「マジマジ、近所にあったら毎日食いに行く」
「って近所も何も太陽は毎日俺の弁当食べてるじゃん」
「そうだった」
「……ふむ、これは絶品だな」
「よっしゃ!精霊さんのお墨付き!」

これはいいかもしれない。
どうせ俺はこの世界で特に使命もないのだから、料理で細々と生活していこうかなあ。
精霊のお墨付きって看板出しても怒られないかな。

「怒りはせんぞ。連れてきてしまった責任もある、好きに使うといい」
「……心読まないでくれますかね」

声には出していない質問に返事をされてしまった。

「読んではいない、想像しただけだ」
「え、想像で明確な答え出されるとか超怖い」

太陽とだったらなんとなくお互いの言いたいことはわかるけど他から言われるとびびる。
それも精霊の特殊能力的なやつなのか?

「だが、暫くはそんな暇はないと思うぞ」
「え?どうして?」
「魔獣の討伐に向かうからだ」
「それって俺も行っていいの?」
「は!?ダメに決まってんだろ!そんな危ないとこに朝日連れていけるかよ!」
「じゃあ太陽が一人で行くの?それこそそんな事させられない!」
「俺は強いから大丈夫なんだよ!それに、勇者だっていうし」
「いくら強くても今まで見た事ないような化け物と戦うんだよ?その辺の不良とは訳が違うんだから!」
「そりゃそうだけど……!朝日絶対ビビるじゃん!お化け屋敷でだってずっと俺の後ろでしがみついてたくせに!」
「そ、それとこれは別じゃん!」
「別じゃねえし!良いから安全なところでぬくぬくしてろよ!」
「やだよそんなの!怖いけど!」
「だから怖いならついてこなくていいって!」
「やだ!ついてく!」
「……まあ、詳しい話は奴らとするんだな」
「奴らって?」

再び言い争いになりそうな俺達を制する精霊。
それに揃って首を傾げた時。

「精霊様」
「「!!!」」

俺達の正面、森の奥から一人の男性が精霊に声を掛けた。
長く艶やかな銀髪を緩く纏めたその顔はかなりの美形。
ハリウッドも真っ青だ。
しかも身長も高い、羨ましい。
その後ろには武装した兵達が隊列を組んでいる。

「やっと参ったか。こやつが勇者だ」
「この方が……」

精霊が太陽を示すと、その青年は近くまでやってくる。

「お待ちしておりました、勇者様」
「お、おおう」

青年はきびきびとした動きで跪き、頭を下げる。
それに倣い背後にいた武装集団、恐らく精霊の話に出てきた騎士団の面々も一斉に跪き頭を下げてきた。
何と言うか、圧巻。
圧巻だけどちょっと怖い。
思わずびくりと震え無言になってしまう俺に対し太陽も何とか返事をしていたけれど、びくついたの見逃してないぞ。



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