勇者の料理番

うりぼう

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ここはどこだ

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「……え?」

気が付けば俺と太陽は見知らぬ森の中にいた。

最後の記憶は学校へ着く直前。
でっぷりと貫禄のある野良猫を見つけた時だった。
野良猫はまっすぐに太陽を見つめ……

『お主だ』

そう言ったのだ。
まさか猫が話すはずがないと太陽と目を見合わせたが、次の瞬間。

「光に包まれた、よな?」
「う、うん、多分」

光に包まれたような気がする。
しかもその光は例の野良猫の瞳から出ていたような……
いやいやそんな非現実的な話があるはずない。
そもそも猫が話すなんてそんなバカな。

これは夢だ。
夢に違いない。
夢じゃないと困る。

だって、俺達が住んでいた町にこんな場所はない。
森はあるけれど、こんなにぽっかりと間が空いていてその中央にこんなにも澄んだ泉がある場所なんてわからない。
しかも泉は現代日本ではありえないくらいの透明度だ。
こんなのあったらとっくにテレビで紹介されてるに違いない。

「夢だよな」
「夢、でしょ」

そうだそうだ、と太陽と二人目を合わせてぎこちなく笑い合い……
同時にお互いの頬を思い切りつねった。

「い……ッ!?」
「いひゃい!!!」

遠慮なしにつねったからお互いに痛みが走る。

「え!?何で何で!?何で夢なのに痛いの!?」
「知らねえよ、ってか朝日!力強すぎ!」
「太陽の方が強かった!」

夢だと確認するためにつねったのに痛みが襲ってきて一瞬パニックになる。
ぎゃんぎゃんと言い合う俺達だったが、もう一つの声にぴたりと声も動きも止めた。

「落ち着け」
「「!!!」」

ぐりんと物凄い勢いで声のした方を振り向くと、そこにいたのはあの時の野良猫だった。

「「あー!!!」」
「うるさいぞ」

何でこんなところにあの野良猫が!?
俺達の声にうるさいと眉を寄せているがそんな場合じゃない。

「お前どういうつもりだ!?ここどこだよ!?」
「ていうか何で話せんの!?何で一緒にいんの!?え?どゆこと!?」
「だから落ち着けと言っているだろう」
「落ち着いてられるかー!!!」

太陽のセリフはごもっともである。
野良猫はまるで人間のように額に前足を当て呆れたように大きな溜め息を吐き出す。

「一から説明をしてやるから黙らんか」
「当たり前だ!全部説明しろ!てか帰らせろ!」

この野良猫のせいでこんな訳のわからない場所に来ているのだという事はわかる。
でも理由が全くわからない。
これではまるで漫画や小説で良くある……

「まず、お主は勇者だ」
「………………は?」
「………………わあ」

マジでか。
俺の想像していた内の一つのセリフが太陽に言い渡された。
救世主か勇者か神子かで迷ったけど勇者の方だったか。
さすがの太陽もぽかんとしている。

「ゆ、勇者?は?え?何言ってんの?頭大丈夫?」
「お主失礼だぞ」
「だって突然『お主は勇者だ』とか訳わかんねえし。何これどっきり?」
「どっきりではない。現実だ。お主は勇者に選ばれたのだ」
「太陽が、勇者」
「ちなみに我は野良猫ではない。この世界の、この泉の精霊だ」
「精霊が人攫いですかそうですか保健所に連れてったろかこのクソ猫!」
「太陽落ち着いて、精霊は保健所で引き取ってくれないと思うよ?」
「そういうこっちゃねえだろ!」

野良猫が精霊だと聞き驚くが、不思議とそれが嘘だとは思わなかった。

「朝日は何でそんなに冷静なんだよ!」
「とりあえず話聞いてみようよ。説明しろって言ったの太陽なんだから」
「……それもそうか」

あっさりと納得する太陽。
沸点は低いがすぐに治まるのが良いところだ。

「では、良いか?」

ごほん、と居住まいを正した野良猫もとい精霊が静かに説明を始めた。



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