勇者の料理番

うりぼう

文字の大きさ
上 下
2 / 39

ここはどこだ

しおりを挟む



「……え?」

気が付けば俺と太陽は見知らぬ森の中にいた。

最後の記憶は学校へ着く直前。
でっぷりと貫禄のある野良猫を見つけた時だった。
野良猫はまっすぐに太陽を見つめ……

『お主だ』

そう言ったのだ。
まさか猫が話すはずがないと太陽と目を見合わせたが、次の瞬間。

「光に包まれた、よな?」
「う、うん、多分」

光に包まれたような気がする。
しかもその光は例の野良猫の瞳から出ていたような……
いやいやそんな非現実的な話があるはずない。
そもそも猫が話すなんてそんなバカな。

これは夢だ。
夢に違いない。
夢じゃないと困る。

だって、俺達が住んでいた町にこんな場所はない。
森はあるけれど、こんなにぽっかりと間が空いていてその中央にこんなにも澄んだ泉がある場所なんてわからない。
しかも泉は現代日本ではありえないくらいの透明度だ。
こんなのあったらとっくにテレビで紹介されてるに違いない。

「夢だよな」
「夢、でしょ」

そうだそうだ、と太陽と二人目を合わせてぎこちなく笑い合い……
同時にお互いの頬を思い切りつねった。

「い……ッ!?」
「いひゃい!!!」

遠慮なしにつねったからお互いに痛みが走る。

「え!?何で何で!?何で夢なのに痛いの!?」
「知らねえよ、ってか朝日!力強すぎ!」
「太陽の方が強かった!」

夢だと確認するためにつねったのに痛みが襲ってきて一瞬パニックになる。
ぎゃんぎゃんと言い合う俺達だったが、もう一つの声にぴたりと声も動きも止めた。

「落ち着け」
「「!!!」」

ぐりんと物凄い勢いで声のした方を振り向くと、そこにいたのはあの時の野良猫だった。

「「あー!!!」」
「うるさいぞ」

何でこんなところにあの野良猫が!?
俺達の声にうるさいと眉を寄せているがそんな場合じゃない。

「お前どういうつもりだ!?ここどこだよ!?」
「ていうか何で話せんの!?何で一緒にいんの!?え?どゆこと!?」
「だから落ち着けと言っているだろう」
「落ち着いてられるかー!!!」

太陽のセリフはごもっともである。
野良猫はまるで人間のように額に前足を当て呆れたように大きな溜め息を吐き出す。

「一から説明をしてやるから黙らんか」
「当たり前だ!全部説明しろ!てか帰らせろ!」

この野良猫のせいでこんな訳のわからない場所に来ているのだという事はわかる。
でも理由が全くわからない。
これではまるで漫画や小説で良くある……

「まず、お主は勇者だ」
「………………は?」
「………………わあ」

マジでか。
俺の想像していた内の一つのセリフが太陽に言い渡された。
救世主か勇者か神子かで迷ったけど勇者の方だったか。
さすがの太陽もぽかんとしている。

「ゆ、勇者?は?え?何言ってんの?頭大丈夫?」
「お主失礼だぞ」
「だって突然『お主は勇者だ』とか訳わかんねえし。何これどっきり?」
「どっきりではない。現実だ。お主は勇者に選ばれたのだ」
「太陽が、勇者」
「ちなみに我は野良猫ではない。この世界の、この泉の精霊だ」
「精霊が人攫いですかそうですか保健所に連れてったろかこのクソ猫!」
「太陽落ち着いて、精霊は保健所で引き取ってくれないと思うよ?」
「そういうこっちゃねえだろ!」

野良猫が精霊だと聞き驚くが、不思議とそれが嘘だとは思わなかった。

「朝日は何でそんなに冷静なんだよ!」
「とりあえず話聞いてみようよ。説明しろって言ったの太陽なんだから」
「……それもそうか」

あっさりと納得する太陽。
沸点は低いがすぐに治まるのが良いところだ。

「では、良いか?」

ごほん、と居住まいを正した野良猫もとい精霊が静かに説明を始めた。



しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。

マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。 いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。 こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。 続編、ゆっくりとですが連載開始します。 「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

村人召喚? お前は呼んでないと追い出されたので気ままに生きる

丹辺るん
ファンタジー
本作はレジーナブックスにて書籍化されています。 ―ー勇者召喚なるものに巻き込まれて、私はサーナリア王国にやって来た。ところが私の職業は、職業とも呼べない「村人」。すぐに追い出されてしまった。 ーーでもこの世界の「村人」ってこんなに強いの? それに私すぐに…ーー

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

処理中です...