勇者の料理番

うりぼう

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いつも通りの朝

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いつもの朝。
いつも通りの時間に起きていつも通り朝ご飯を済ませ、いつも通り弁当を持っていつも通りの時間にいつも通り家を出た。
何も変わらない日常の一コマ。
変わった事は何もなく、強いて言えば今日の卵焼きの出来が自己最高というくらいに完璧に出来たくらい。
我ながらお店で買ったもののように均一に綺麗に焦げ目すら完璧な卵焼きに仕上がった。
それを食べる昼休みを楽しみにうきうきと学校へと向かう途中で幼馴染の太陽と落ち合う。

「おはよう太陽」
「おはよー朝日」

太陽と朝日だなんて似ている名前だが血縁関係は全くない。
お互いの親が、子供が産まれたら絶対この名前にする、という名前が似ている事と近所に住んでいる事、そして同じ年に産まれるということから仲良くなり、オレ達は産まれる前から一緒にいる。
しかし同じ年、同じような日付けに産まれ同じような意味の名前を持つ俺達だが、太陽は色々と桁違いだ。

「今日も見事に視線集めまくってるなあ」
「知らない誰かに見つめられても嬉しくない」

太陽は産まれた時から天使のような可愛らしい顔立ちをしていた。
両親とも整った見た目だったのだが、その良い所を全て受け継いだ結果、目はぱっちり二重、睫毛は爪楊枝が何本か余裕で乗るほど長くくりっと上を向いていて鼻筋も通っているし唇はバランス良くぷっくりと、そしてうっすら紅を引いたかのように赤い。
淡い栗色の髪はふわふわと風に靡き、特売で買ったシャンプーを使っているとは思えないくらい良い匂いが漂っている。
小さな頃からずっと天使と言われ続けてきて、高校生になった今もそう呼ばれている。
すらっとした手足は長く、爪の先まで芸術品のように美しい。
一歩外を歩けばほとんど全員が振り返る程の美少年である。
ちなみに俺は太陽と比較すると可哀想なことこの上ないので割愛させていただく。

「小さい頃から誘拐とかストーカーとか変質者とか色々沸いてたもんな」
「ああいう奴らはマジで滅びれば良い滅しろ俺の前に二度と現れるな!今思い出してもぶっ殺したいくらい腹立つ」
「わーお過激」

天使な見た目に反して口は悪いが、まあ上記の連中に迫られまくった幼少期を過ごしていればそれも頷ける。
見た目の華やかさで勝手に中身を思い浮かべている連中は、太陽のこの口調に引いたり幻滅したりしているようだが……

「まあ、それでこそ太陽って感じだけど」

俺にとってはこの太陽が普通の太陽だから今更どうとも思わない。

「そう言ってくれんのは朝日だけだよ」
「そう?」
「そう!昨日告白してきた奴だって無理だって断ったら『太陽くんがそんな人だと思わなかった!』とか泣き出しやがって、オレの何を知ってるんだっつーの!」
「見た目天使だから断る時も天使様を想像してたんじゃない?」
「天使なんかいるわけねえだろ」
「ていうかまた告白されたんだ?今月で何人目?」
「知らん。数えてねえ」
「わーお」

数えきれない人間に告白されているということですね、はい。
直接告白する人もいればラブレターなんて古典的な手で告白する人もいるからなあ。
想いを秘めている人だけでも一体何人いる事やら。

「凄いよな、何か魔法でも使ってるんじゃないかってレベル」
「そんな魔法あるなら強くなる魔法の方が良い。熊でも倒せるくらいの」
「熊」

子供のような例えに思わず噴き出す。

「だって熊倒せればストーカーも変質者も余裕で撃退出来るだろ?自分一人で何とか出来れば……」

ぐっと拳を握り唇を噛み締める太陽。
きっと、ずっと昔の事を思い出しているのだろう。

(あれはいつだったかなあ)

確か小学校三年生くらいの時。
いつものように二人で下校中、一人のおじさんに声をかけられた。
鼻息荒く太陽に手を伸ばすおじさん。
太陽が危ないと思って二人の間に入ったけど、すぐに邪魔だと放り投げられてしまった。

『あさひ!!!』

投げられた場所が悪く、電柱に頭を打って気を失う俺。
太陽はおじさんに掴みかかり精一杯の抵抗をして、鳴らした防犯ブザーの音に近所の人が駆けつけ事無きを得た。

(あの時わんわん泣いてたもんなあ、気にしなくても良いのに)

自分が太陽を守りたいからやった事だ。
けど、太陽は自分のせいで俺が怪我をしたと思ってしまっている。
それ以外にもまあ色々とばっちりを受けているのも気にしているのだろう。
太陽が力を手に入れたいのは、きっと幼い頃のそんな思いのせい。
自分が強くなれば誰も傷付かない。
だから強くなりたいと思っているのだと思う。

「太陽はもう十分強いと思うけど」

あれから太陽は護身術を習い始め、空手や柔道、剣道、合気道、道という名の付くあらゆるものに興味を示して次々と習得していった。
夜中にちょくちょく抜け出して喧嘩して帰ってきたのも一度や二度じゃない。

「まだ全然足りねえよ。こんなんじゃ全然」
「……まあ、あんまり無理しないようにね」
「わかってる」

こんな話をするのも初めてではない。
色々な事を話しながらいつもの通学路をのんびりと歩く。

「そういえば今日の弁当は?」
「お!良くぞ聞いてくれました!今日の卵焼きがもうすっごい上出来なんだよー!」
「マジ?食べるの楽しみ!」
「食べて驚くぞー美味すぎて!」

いつも太陽には弁当を作ってきている。
おばさん達仕事で忙しいし、俺も弁当作るの嫌いじゃないし。
何より美味しそうに食べてもらえると嬉しい。
そんな、本当にいつも通りの朝だったはずなのに。


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