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しおりを挟む「……またか」
「……面目ない」
デレクに抱えられての帰宅。
呆れたように溜め息を吐くダリアにバトンタッチされ、部屋へと送り届けられた。
デレクとヒースはダリアには余計な事を何も言わず、バシバシと俺の背中を叩いて食堂へと立ち去って行った。
痛みが全身に響いて叫びそうになった。
「ほら、大丈夫か?」
「うん、全身筋肉痛で動けないけど」
「大丈夫じゃないだろうそれは。全く、昨日の今日で」
ごもっともです。
今日は部屋の中まで送ってくれたダリア。
俺をソファに座らせ、てきぱきとお茶の準備までしてくれた。
「ほら」
「ありがとう」
渇いた喉を潤すとホッと一息。
「食堂までは行けないだろう?ここに持ってきてもらうから待ってろ」
「え!?良いよ、行くよ!」
「行けると思ってるのか?」
「が、頑張れば」
そう、産まれたての子鹿のように歩けば行けるはずだ。
体調を崩した訳でも大怪我をした訳でもないのにわざわざ持ってきて貰うなんて申し訳ない。
「頑張らなくて良いから座ってろ。もう連絡はしてあるんだ」
もう!?
手回しが良すぎないか?
もしかして帰りが遅いからまたデレク達に付き合ってもらってると察して準備してた?
でももう準備しているのなら今更取り消す方が手間だよな。
それなら遠慮なく待たせて貰おうと思ったところでドアがノックされた。
「来たか」
「え!?もう!?」
やっぱり帰る前から準備してたんだな。
なんだよこの気遣い。
こんなの出来る奴じゃなかったじゃん。
むしろ前の俺がやっていたような事だ。
ドアまでは当然のようにダリアが受け取りに行く。
配膳してくれた人もまさかダリアが出てくるとは思わず驚いていた。
そりゃそうだ、いくら指示した本人とはいえ一国の王子がわざわざ受け取りに来るとは思わないだろう。
テーブルのセッティングやらお茶の追加やらまで済ませてくれた。
そういえば俺がたまに料理するようになってから、最初の内は見ているだけだったのが最近では少しずつ手伝ってくれるようになっていた。
その賜物だろうか。
夕飯は二人分。
当たり前のように正面に座るダリアに違和感はない。
「さあ、食べるか」
「ん、ありがと」
準備をしてくれた事にお礼を言うとそっと微笑まれる。
ただでさえ能力ずば抜けているダリアが気遣いまで覚えたら無敵になっちゃうじゃないか。
って無敵になったからって何なんだよ。
別に良いじゃないか。
「いただきます!」
また変な方向に思考が傾きそうになった気がして、頭を振り雑念を払い食事に集中する。
今日のメニューはビーフシチューだ。
大きめの肉も野菜もゴロゴロ入っていて美味しそう。
パンも大量にあるしサラダもあって栄養もばっちりだ。
「うまあ」
疲れた身体に温かいシチューが染み渡る。
肉もほろほろ、野菜もほくほくで堪らない。
「うん、美味いな」
「だよな、サラダも美味いしパンも柔らかい!」
疲れ切っているはずなのに食欲はあるなんて若者の胃袋恐るべし。
前世では疲れ切って栄養ドリンクだけで済ませた、なんて事もザラだったからな。
食事は当たり前に美味しいけどご飯も欲しくなってきた。
少し休んで回復したらおにぎりでも作ろうかな。
米仕込むくらいならすぐに出来そうだし、仕込んでる間に疲れも多少は癒えるだろうし。
それから他愛のない話をしながら食事を続ける。
ふとした拍子に一瞬無言になった瞬間、ぽつりと言葉が漏れた。
「……なんで?」
呟いた後にハッとしたが、言ってしまったものは仕方がない。
ダリアの耳にもしっかりと入っているようだし、ここでごまかしてももやもやが増すだけだから続ける事にした。
「なんで、とは?」
「何で何も聞かないの?」
聞くとダリアは一瞬目を瞠る。
まさか俺から話題に出すとは思っていなかったのだろうか。
それともこのタイミングで聞かれるとは思っていなかったから少し驚いただけなのか。
「……聞いて欲しいのか?」
「それは……」
シチューを食べていたスプーンを置き、静かに聞き返される。
聞いて欲しいかと言われると悩んでしまう。
いっそいつもみたいに強引に聞いてくれれば良いのにと責任転嫁してしまう。
良い大人なのに情けない。
言い淀んでいると、ダリアは変わらず静かなトーンで話を続ける。
「あの日に何かがあったんだろうというのは想像出来ている。あれから竜舎に行くのに躊躇っているのも知っている。だが、エルが聞いて欲しくないんだろうと思ったから聞かなかっただけだ」
まさしくその通り。
俺よりも俺の心の内を理解している。
そうだ、聞いて欲しいから欲しくないかと言えば聞いて欲しくなかった。
でもいつかは聞いて欲しい気持ちもあった。
矛盾している気持ちに俺の方の準備が整っていなかった。
「聞いて欲しいのであればいつでも聞く準備は出来ている。もし、俺が聞いても良い話ならな」
いつでも聞く準備が出来ていると言いつつ、聞いても良い話ならという気遣い。
さっきから目の前にいるのは本当に本物のダリアなのだろうか。
見た目は完全にダリアだが、まさか俺のように前世の記憶が蘇ったとか?それとも別人が乗り移った?なんて失礼な事を考えてしまった。
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