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しおりを挟む『僕が好きなのは、エルなんだけど』
「……え?」
言われたセリフに時間が止まる。
え?好き?好きって言った?
アーシャが俺を?
ん?あれ?アーシャの好きな人の話してたよな?
それがどうして俺が好きだという話に???
「だから、僕はエルが好きなの!」
「いや、え!?ちょっ、待っ」
ぎゅっと手を握り締められ、真っ赤な顔で再度そう告げられた。
アーシャの目はまっすぐにこちらを見つめていてとても冗談を言っているようには見えない。
『友達として?』と聞けるような雰囲気でもないし、違うというのはやはり雰囲気でわかる。
「王子の元婚約者だし、今も仲良いみたいだから諦めようかとも思ったんだけど……エル、王子にそっけないし」
「う……っ」
ぎくりとする。
確かに最近仲良くなりはしたが、自分の気付きたくない感情を無視しているからか多少そっけない態度にはなっている。
それでもアーシャが余計な誤解しないようにアーシャの前では仲良い風を装っていたのにまさか気付かれていたとは。
というよりもアーシャが俺を好きならそれすら無意味だったのでは?
「ねえ、僕じゃダメかな?」
「あ、あの……!」
見つめられた瞳がうるうる潤む。
まるで昔懐かし『アイ◯ル』のCMのぷるぷる震える仔犬のようで不覚にもキュンとする。
正直可愛い。
元々の顔立ちも相まって物凄く可愛い。
やめてくれ俺はこういう顔に弱いんだ。
何でも許してしまいそうになる。
だがしかし俺はこの告白を受け入れられない。
だって俺は……
「……何してるの?」
「「!!!」」
戸惑っていると背後から声を掛けられた。
リュイさんだ。
竜舎にいるのだから彼がいるのは当然。
「あ……!」
まずい。
リュイさんはアーシャが好きなのに。
こんな所見られたら誤解されてしまう。
いや誤解も何も実際にアーシャに告白されてしまったのだけど、それでも好きな子が他の男の手を握っている所なんて見たくないに決まっている。
アーシャの手を離そうとするががっちりと掴まれているし力任せに振り解くのも申し訳なくて出来ない。
心なしかアーシャがリュイさんを睨んでいるような気もするけど……え?何で睨んでんの?
さっきまでのきゅるきゅるうるうるの目どこいった?
怒気が溢れまくってるんですけど。
「あの、これは……!」
慌てて言い訳しようとするが、その前に。
「離して」
「!」
リュイさんがつかつかと近付いてきて、俺の肩を掴みアーシャから引き剥がした。
このまま放り出されてアーシャの方へと向かうと思いきや、リュイさんはそのまま持っていたタオルで俺の手を拭いた。
「???リュイさん?」
「ちょっと、人をバイキンみたいに扱わないで下さいよ」
それを見て更に顔が険しくなっていくアーシャ。
え?え?何事?
リュイさん何してんの?
「エル」
「は、はい」
「アーシャに何されたの?」
「え、いや、何っていうか……」
告白されました、なんて言えるはずがない。
でも雰囲気で何となく察したのだろう、口籠る俺にリュイさんは眉を寄せる。
「……アーシャ」
「……何ですか?文句なんて聞きませんよ?」
「文句なんてないけど……」
口籠るリュイさん。
そうだよな、好きな人が他の男に告白したなんて聞きたくなかっただろうし反応に困るよな。
リュイさんは俺を見て、アーシャを見て、また俺に視線を戻して大きく溜め息を吐いた。
そしてまっすぐに目を合わせ、静かに口を開く。
「エル、こんなタイミングで言うつもりなかったんだけど」
わかってる、わかってますよ。
アーシャが好きなんですよね?
だからアーシャを取らないでくれって、そう言うつもり……
「俺を選んでくれない?」
「………………はい?」
「ちょっとリュイさん!」
予想外のセリフにぽかんとする。
同時にアーシャの責めるような声も聞こえてきて更に混乱。
しかしリュイさんは固まる俺に構わず畳み掛けてくる。
「ずっと、エルが好きだったんだ」
は?
「王子との婚約が破棄されて本当は嬉しかった」
は??
「慰めるような事言っておいて最低だよね。でも相談に乗ってたのも優しくしていたのもエルに振り向いて欲しかったからだよ」
は???
「リュイさん!酷いじゃないですか僕の告白に割り込んでくるなんて!」
「それはごめん、でも俺だってエルが好きなんだ」
「僕の方が好きです」
「俺はずっと前から好きだった」
「長さなんて関係ないでしょう?」
目の前で言い争う二人。
訳がわからず何も言えない俺。
どういう事?
アーシャはリュイさんじゃなくて俺が好き?
リュイさんもアーシャじゃなくて俺が好き?
何で?
どうして?
意味がわからない。
リュイさんが今まで親身になって優しくしてくれていたのは俺が好きだから?
アーシャがここに通っていたのも俺が好きだから?
は?
は??
本当に訳がわからない。
「エル、あんな王子なんかより絶対幸せにする」
「エルだけを愛してエルだけに全てを捧げるよ」
だから自分を選んで。
「いや、あの、その……!」
両サイドからそんな風に熱のこもった視線を向けられながら告げられるセリフ達に俺の頭は完全にキャパオーバーしてしまった。
直後、倒れそうになる俺を助けてくれたのは俺の最愛で最高の息子(仮)であるユーンだった。
キュー!
すぐにでも返事をと言わんばかりの二人の視線から隠すように俺の背後から翼を伸ばし、大きくなっても可愛い前足で庇うように肩を抱き、まるでお説教をするようにキュイキュイと声を出していた。
「ユーン……」
頼もしすぎるユーンの行動に感動。
もうすっかり腕が回らなくなった胴体にしがみつくように抱き付いてしまった。
「ごめん、いきなりすぎたよね」
「返事はいつでも良いんだ。ただ、気持ちだけは知っておいて欲しい」
俺の様子に性急すぎたと二人が謝り、そう言い残してこの場から立ち去っていく気配を感じる。
キュー
慰めるように優しい声で鳴き、大きな翼で包み込んでくれるユーンに暫くしがみついたまま離れられなかった。
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