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しおりを挟むそしてダリアが行った後、暫くしてからアーシャがこちらにやってきた。
「あれ?王子は?」
「先生に呼び出されたとかで行っちゃった」
「ふーん、そっか」
「いきなり一緒に来たから驚いただろ?いつも一人だもんなあ」
「驚いた……ていうか、相変わらず王子と仲良いんだね」
「ん?そう?」
仮にも元婚約者だし、毎日のように朝から晩まで一緒にいるから仲が良いと言えば良いのかも。
そう形容される事にむず痒さを感じないまでもないが、全否定する程でもない。
アーシャには仲が良いと思われておいた方が良いしな。
「ねえエル、また王子と婚約するの?」
「へ!?」
突然問われて驚いた。
ダリアとの婚約を解消して、また別の騒動があったり色々と騒がしい中でこんな風に面と向かって訊かれたのは初めてかもしれない。
「い……」
いやあどうだろう。
そう答えようとして止まる。
(待て、ここでそんな事言ったらまたリュイさんとの仲疑われちゃうんじゃ……!?もうかなり疑いは晴れてるけど、ダリアも言ってたし念には念を入れといた方が良いよな!?)
ついさっき『仲が良いと思われておいた方が』とか思っていたくせに何を否定しようとしているのだ俺は。
とはいえ『もちろん婚約します!』なんてはっきり言えるはずもないから、適当に笑って誤魔化してしまった。
「いやあ、ははっ」
「……エルは、王子が好き?」
「えっと……」
またも困る質問をされてしまった。
それにしてもどうしたんだろう、こんな事聞いてくるなんて。
(は!もしかしてやっぱりまだ俺とリュイさんの関係を不安に思ってる!?)
そうか、それで俺の気持ちを改めて確認したいんだな。
でもここで婚約者に戻るともダリアが好きだとも胸を張って言えない。
そうなるとここはもう俺がリュイさんを何も思っていないという事をはっきりと告げ、更にリュイさんの気持ちの方に太鼓判を押すしかない。
「アーシャ、大丈夫!」
「へ?」
ぐっと拳を握りそう言うと、アーシャの大きな目がまんまるになる。
「心配しなくてもアーシャの好きな人は絶対アーシャが好きだよ!」
「え!?え!?」
おお、顔が真っ赤。
俺の気持ちを確認するはずが自分の気持ちに飛び火して焦っている。
『好きな人』とあえてぼかしたのは万が一リュイさんに聞かれた時に誤魔化せるようにだ。
自分の気持ちは自分の口で伝えたいだろうし。
「な、な、何でそんな話に!?」
「え?だってそういう事だろ?アーシャの好きな人が自分をどう思ってるのか知りたくて俺の気持ち聞いたんじゃなかったの?」
「うえ!?いや、えっと、うん、そうだけど、その、えっと……」
赤い頬が更に赤くなっていく。
沸騰して湯気が沸きそうだけど大丈夫か?
そんなに恥ずかしがるとは思わなかった。
「あの、ほ、本当に?」
「うん?」
「本当に、僕の事好きだと思う?」
「もちろん!」
おずおずと確認されどんと胸を叩いて力いっぱい頷く。
「……それ、僕が誰を好きなのかわかって言ってる?」
「?わかるも何も」
リュイさんに片想いしているのは前の大会の時にもうわかっている。
それ以来ずっとリュイさんのいる竜舎に通っているのだからアーシャの好きな人はリュイさんしかいない。
「リュイさんだろ?」
「……」
こそっと耳元で囁くとアーシャがびくりと震える。
アーシャも俺が気付いているのは知っているはずだから今更驚きはしないと思っていたけれど……
(ん?)
アーシャのリアクションが思ったのと違う。
また真っ赤な顔をもっともっと赤くしてぷるぷる震えるかなと思ったら、その表情は無だ。
(え?あれ?何この反応)
もしやキャパオーバーすぎて逆に反応出来ないパターンか?
そう思っていると。
「……なんだけど」
「え?」
「僕が好きなのは、エルなんだけど」
「………………え?」
アーシャは予想外の事を言い出した。
*
※アーシャ視点
リュイさんは僕の憧れの人だった。
気になり始めたのは騎竜の授業の時。
高い所が苦手で中々竜に乗れなかった俺に、優しく丁寧に指導してくれた。
なんて良い人なんだろうというのが最初の印象。
それから何度も竜舎に通い、竜のお世話を楽しそうにするリュイさんに惹かれた。
エルを知ったのも同じ頃。
僕と同じように竜舎に通っていて、リュイさんとも親しいようだった。
リュイさんがエルを好きなのはすぐにわかった。
俺に対する表情とエルに対する表情が全く違うのだから気付くなという方が無理だ。
正直エルの何が良いのかさっぱりわからなかった。
こっそり遠目に見て盗み聞きしただけだけど、ネガティブだし表情も暗いし、話していて弾んでいる様子もなかった。
しかもエルには婚約者がいた。
しかもしかも相手はこの国の王子様。
リュイさんは叶わぬ恋に焦がれているんだと切ない気持ちになった。
それから程なくして、エルの様子が変わった。
明るくハキハキと物怖じしない性格になっていた。
リュイさんと話す時も以前とは真逆で楽しそうで話も弾んでいた。
(王子って婚約者がいるのにリュイさんまで……!)
婚約者もリュイさんもどっちも手に入れたいの?
もしかしてリュイさんと付き合ってる?
そんなの二人ともバカにしてる。
許せない。
そんな俺にエルと直接対峙するチャンスが巡ってきた。
学園の大会でエルと当たったのだ。
怒りに燃え攻撃する僕にエルが楽しそうなのがまた腹が立った。
結果は知っての通り、僕はエルに負けた。
その後情けなくも泣いてしまって慰められて、リュイさんとの関係は誤解だと知った。
それから竜舎に通う時にはエルが傍にいて、しょっちゅう話すようになっていった。
話してみるとエルはさっぱりした性格で、ちょっとおじさんくさいところもあるけど家族思いで優しくて、リュイさんが惹かれるのもわかる。
いつしか竜舎に通うのはリュイさんじゃなくて、エルと会う為になっていた。
リュイさんに対する憧れはただの憧れで、それ以上でもそれ以下でもない感情だと気付いた。
「リュイさんだろ?」
エルが僕がリュイさんを好きだと誤解しているのは知っていたけど、さも当然のように言われて思考が停止した。
一緒にいたいからそう誤解するように仕向けていたから自業自得なんだけど、でもやっぱり何でもない顔で、しかもどこか楽しそうに言われるとショックだ。
楽しそうに微笑む顔が可愛い。
少しむっとした時の唇が可愛い。
ユーンと戯れるエルが可愛くて可愛くて仕方がない。
王子との事があるから諦めようと思ったけど諦めきれない。
だから、そんな衝動のまま僕の口は動いていた。
「僕が好きなのは、エルなんだけど」
言った直後にしまったと思ったけれど、もう止まらなかった。
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