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しおりを挟む何言ってるんだろうこの子は。
本の世界?
んなアホな。
じゃあ俺もダリアもデレクもヒースもみんなみんな本の中の登場人物だっていうのか?
「本の中ではベアトリスにいじめられてる私をダリアくんが優しく助けてくれるの」
ベアトリスがいじめ?
いじめなんて陰湿な事するような子じゃないけどなあベアトリスは。
彼女が対抗するのならもっとはっきりきっぱり堂々とやってくるはずだ。
実際俺に突っかかってきていた時も正面から正々堂々と来ていたし。
「なのにベアトリスは全然いじめに来ないし、とっくに婚約破棄されてるはずのアンタはずっとダリアくんにべったりだし、ヒースもデレクもアルもリースも私を口説かないなんて絶対おかしい!」
ダリアだけでなくデレクもヒースも果てはアルもリースも範疇かい。
確かにみんな顔立ち整っててそれぞれ得意分野もあって学園内では目立つ存在だが、その全員から口説かれるってそれなんて乙女ゲーム。
いや、アマリリス曰く本の世界らしいけど。
それにしてもそれだけの相手に口説かれるなんてハーレムも良い所だな。
そんな状況になりたかったって事か?
ん?でもアマリリスはダリアにしかちょっかいかけてないよな?
デレクもヒースも接触したなんて言ってなかったし。
あの二人の事だから稽古に夢中になりすぎて視界に入っても声掛けられても気付いていないだけかもしれないけど。
みんなに口説かれたいけど本命はダリアってところか?
贅沢だなあ。
「それもこれも全部アンタがダリアくんの傍にいるからよ!絶対そうに決まってる!目立たない地味な男がデレクとヒースの親友扱いってだけでも許せないのに……!」
俺、あの二人の親友扱いなの?
周りからそう見えてるって事?
うはっ、これはちょっと、いやかなり嬉しいぞ。
って喜んでる場合じゃない。
「とにかくさっさとダリアくんに婚約破棄されて捨てられてよね!本当に目障りったらないなあもう!」
というよりもアマリリスは何を勘違いしているんだろうか。
俺とダリアの婚約なんてとっくに解消されている。
周りに聞けばすぐにわかるというのにまだ婚約していると思っているという事は、この子本当にダリアとしか話してないんだなあ。
それと同時に周りの噂にも全く耳を傾けていないのだろう。
ダリアが自分から婚約解消したなんて言うはずないし。
(うーん、ここで俺が言っちゃっても良いんだけど……)
でも言ったら言ったで面倒な事になりそうなんだよな。
というかダリアの被害が更に増えそうだ。
ただでさえ疲労困憊なのに、これ以上の負担はさすがに可哀想だと思ってしまう。
記憶を取り戻したばかりの俺だったらさらっと言っちゃってたんだろうけど。
それだけダリアに情が移っちゃってるって事なのかな。
えー移っちゃったのか。
うん、まあ薄々気付いてたけど。
最近の俺、完全に絆されモードに入ってるもんな。
まあすぐに付き合う云々とかじゃないけど、確実にあいつは良い奴のカテゴリに分類されてしまっている。
って今はそれはどうでも良いんだ。
問題はこのアマリリスだ。
俺が下手に口出しすると絶対面倒な事になるよなあ。
『私とダリアくんの仲を裂かないで!』とか
『嫉妬してるんでしょ?』とか
『どうせ捨てられるんだから潔く消えなさいよ!』とかとか
アマリリスからのセリフを簡単に想像出来てしまう自分が嫌だ。
(この子が本当にダリアの事を好きなら考えるけど)
どう考えてもアマリリスが本気でダリアに惚れているとは思えない。
ただ『本』の中で自分とダリアが結ばれているから結ばれるべき、且つダリアの身分や容姿しか目に入っていないように思える。
ダリアが王子でもなんでもなくて容姿にも恵まれていなかったらきっとアマリリスは見向きもしていないのではないだろうか。
容姿も身分もダリアはこの国で最高峰なんだろうから固執してしまう気持ちもわかる。
人間顔じゃないと言いたいが、一定数顔や身分だけで人を判断する人間がいるのも確か。
アマリリスもその内の一人なのだろう。
それが悪い訳ではないけれども、自分の周りの人間がそういう対象にされるのは良い気分ではない。
自分のステータスの為に手に入れたいというのなら、申し訳ない、なんてこれっぽっちも思ってないけどアマリリスに協力する事は出来ない。
黙ってそんな事を考えていた俺にアマリリスは何を勘違いしたのか、何やら勝ち誇ったような表情をしている。
「ふふ、真実を知って何も言えないようね!」
「へ?」
真実って、今の妄想が?
何も言えないのは確かだけれどもそれは呆れて物が言えないだけだ。
「アンタは当て馬にもならないただのモブなんだから!わかったら二度とダリアくんに近付かないでよね!」
ビシッと人差し指を突き出しながら言うアマリリス。
だから、俺から近付いてる訳じゃないんだけど……というよりも人を指差すんじゃありませんお行儀が悪い。
「次ダリアくんと一緒にいる所見たら、私……何するかわかんないかも」
「……」
視線で睨みつつ、口元は弧を描く。
そんな器用な笑みを浮かべながら低く呟かれたセリフ。
わお、これって脅迫?
おじさん女子高生から脅迫されちゃったぜ。
何するかわかんないかもって、アマリリス一人で何をどう出来るというのだろうか。
アマリリスは言うだけ言って満足したのか颯爽と立ち去って行った。
「……なんてーか、強烈だな」
妄想もあそこまでいくと恐ろしい。
大丈夫だろうか、ちゃんと現実世界に戻ってこれるんだろうか。
おじさん変な所心配しちゃうよ。
それにしても若い子の妄想と思い込みって怖い。
つい最近も同じことを思った気がする。
(ていうか近付かないでって言われてもなあ)
俺とダリアの関係上、近付かないのも関わらないのも不可能。
(何されるかわかんねえけど)
まあいっか。
何かされたらその時に対策を考えれば良いだけだ。
なんて思っていたのだが、その翌日。
「きゃっ!」
「!」
いつものように登校している最中、すぐ近くに感じた気配と同時に聞こえる悲鳴。
何事かと振り向くと、そこには地面にぺたりと座り込み涙ぐむアマリリスの姿があった。
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