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しおりを挟むそれから数日。
ダリアは訳がわからないという風に編入生、アマリリスのセリフを『ありえない』と一蹴。
直後、光の如くその話が学園全体に駆け巡ったのは言うまでもない。
「しっかし王子を狙うなんてすげえ子だな」
「どんな子だった?王子に聞いても全然教えてくれないしさー」
興味津々といった風に声を掛けてくるのはもうおわかりだろう、デレクとヒースだ。
鍛錬以外に興味ないかと思いきや以外と俗な事にも興味あるんだよなあこの二人。
しかしどんなと言われても困るな。
「どんなっていうか、二人ともまだ会った事ないの?」
「俺達休み時間にはほとんど鍛錬場だからなあ」
「編入生は今のところ鍛錬場には興味ないみたいだし」
「王子しか見えてないんだったら俺達のところには来ないだろ」
「その『王子しか見えてない』状況が問題なんだよなあ」
溜め息が漏れる。
あの爆弾発言から毎日アマリリスはダリアの元へと通っている。
それこそ朝起きてから朝食の最中、学園への移動の最中、休み時間、昼休み、放課後に至るまで常にダリアの傍にぴったりと張り付いて妄言を吐きまくっているのである。
アマリリスはダリアの元へ、ダリアは俺の元へとやってくるから必然的に俺もダリアとアマリリスの話を聞くハメになるのだが、これがまた酷い。
『わかってるんだよ、私の事気になってるって』
『素直になって良いのにー』
『ふふ、そのしかめっ面もカッコイイ!』
『いつになったら素直になってくれるのかなー?早くダリアくんと付き合いたいなあ』
どんなに手を振り払われようと睨まれようと強く拒否されようと、アマリリスは全力でダリアへと向かってくる。
人の話を聞いていないなんてレベルじゃない。
耳が聞こえていないのか。
いやむしろ聞こえていないと言われても不思議ではない。
その方が納得出来る。
ああも自分にとって都合の悪いセリフを右から左に出来るのは何か障害でもあるのでは、と失礼ながら疑ってしまった事もあったのだが、あれは違う。
どう見てもわざとだ。
はたまた計算か。
とにかくダリアに対してだけ盲目すぎる。
目が合えば見つめられた。
一言発すれば声を掛けられた、愛を囁かれた。
手を振り払う為に腕を掴めば触れられた。
そんな勘違いのオンパレード。
さすがのダリアも頭を抱えていた。
あんなに影を落としているダリアは初めて見た。
ちなみに今もダリアはアマリリスに追いかけられている最中だと思う。
俺は先生に呼び出されたから巻き込まれなかったけど、現状を思うと合掌せざるを得ない。
「ほうほう、それでエルは気が気じゃないと」
「は?」
「王子を編入生に取られそうでやきもきしてるんだろ」
「は!?」
ニヤニヤしながら言われたセリフに目をひん剥く。
「いやいや何で今の話の流れでそうなるわけ?」
「え?だってそういう話じゃなかったか?」
「全然違うと思うけど!?」
編入生のとんでもなさしか言ってないよな?
え?無意識に違う事言ってた?
「俺が言いたいのはダリアファンに編入生が変な事されるんじゃないかって事」
「変な事って、ああ、エルがされてたみたいな?」
「呼び出しとか嫌がらせとかか」
「それ」
「んーでも心配ないんじゃない?」
「そうだな、話を聞く限りその程度でへこたれるような女じゃないだろう?」
「それはそうなんだけど……」
確かに呼び出されたり嫌がらせをされたところであのアマリリスがどうこうなるとは考え難い。
それどころかダリアに一番近い存在だからこうして敵視されるのだと言い出しかねない。
「心配っていうか、嫌な予感がするんだよなあ」
「「嫌な予感?」」
言葉では言い表せない『嫌な予感』
本当になんとなく、漠然とした予感がするのだ。
「んー……でもまあしょうがないんじゃない?」
「しょうがない?」
「だって何があるかわからないじゃん?」
「学園内にいる限りはそんなに大事にはならないから大丈夫だって」
「……まあ、それもそうか」
学園内では鍛錬場訓練場などの場所以外での私闘禁止。
もし何かあったとしても学園内にいる限りは大丈夫だろう。
それに俺が何かを出来るとも思えないし。
そう納得したところで、漸くアマリリスから逃げてきたらしいダリアがやってきた。
「エル」
ぐったりとした様子でふらふらと近付いてくる。
大丈夫か。
破壊力凄いと思っていたが、この短時間でダリアをここまで憔悴させるとは。
「おかえり。お疲れ」
「!あ、ああ」
隣に座りがっくりと項垂れるダリアに労いの言葉をかけると、途端に瞳が輝いた。
どうしたんだこの変わり身。
何か喜ぶような事を言っただろうか。
「聞きました奥さん」
「ええ聞きましたわ奥さん」
ダリアの心境がわかったのだろうデレクとヒースがニヤニヤしながらオネエ言葉で囁き合っている。
誰が奥さんなんだ誰が。
おかえりですって、もう新婚さんね、なんて囁き合っている。
そんなキャラだったか二人共。
軽く引きつつ二人を横目で見るが、すぐに意識をダリアの方へと戻す。
多少の困難はつきものだと思うんだけど、さすがにここ最近のダリアの憔悴っぷりは半端じゃないからな。
さっき一瞬輝いた瞳もあっという間に陰ってしまっている。
少しは気を使ってやらないと。
「大丈夫か?」
「天使が目の前にいる」
「は?」
大丈夫かと聞いたのに訳のわからないセリフが返ってきた。
何言ってんだこいつ。
いや、血迷った事を言うくらい疲れてるという事か。
「かなり重症みたいだな」
「!」
今にも泣きだすんじゃないかというくらいに疲れ果てぐったりと俯くダリアの頭を、いつも下の双子にするようにぽんぽんと撫でる。
俺の行動にダリアが驚き目を見開いた。
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