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しおりを挟む港にある竜舎にレティーを預け、その奥にある関門でプレートを調べられいよいよシーラ国へと入る。
もちろんユーンも一緒だ。
この国でも小さな竜は自由に外を出歩いて良いらしい。
良かった、連れてきておいて竜舎に置き去りなんて可哀想だからな。
まだ小さいユーンは体温調節が上手く出来ないので、俺のローブの胸元に潜っている。
大人になると自然と調節出来るようになるらしい。
(さてさて)
トンネルの向こうは雪国でした。
なんちゃって。
まだ全然雪国と言われる程雪は積もっていない。
そもそも俺達が通ったのはトンネルではなく大きな鉄製の扉だ。
重厚な扉にはシーラ国の紋章が大きく描かれており、その周りに魔法陣が刻まれている。
門を開ける為の魔法陣なのだろう。
調べられ、許可がおりた者だけがこの扉を開く事が出来る仕組みだ。
扉をくぐるとすぐに街並みが見えてくる。
王都とは別の港町で、木製の建物が多いが、コンクリートのようなもので作られているものもある。
屋根は斜めになっており、雪が自然と落ちるような設計になっている。
といっても海に近い場所は山に比べて雪の量は少ないし、魔法を使えば屋根の雪なんてすぐにおろせるだろうから斜めである必要はないんだろうけど。
大きく息を吸い吐き出す。
鼻から入る空気はやはり冷たく、吐き出した息は白い。
「白い」
「ああ、白いな」
吐き出す息の白さに笑みが浮かぶ。
「ところで王子、これからどこに行くんですか?」
今日の予定をまだ何も聞いていない。
色々とプランを立てているのだろうかと隣を見上げる。
「まずは……食事だな」
「賛成です!」
「返事が早いな」
諸手を挙げて賛成する俺にダリアがくすりと笑う。
「そんなに食べたかったのか?」
「もちろんです!」
向こうでも食べるには食べたが、その土地で食べるとなるとまた別の味わいがあるに違いない。
「一口にシーラ料理といっても色々あるんだが、どんなのが良いんだ?」
「んー……とりあえずお店を見ながら決めたいです」
シーラにも飲食店街のような路地があるはずだ。
まずはそこに行きたい。
「そうだな、ここからすぐの所に色んな料理の店がある。そこで決めるとしよう」
「はい!」
食い気味に返事をしてダリアの後について歩きだそうとしたのだが。
「……王子、何してるんですか」
「?何の話だ?」
「いやいやわかってますよね」
「見当もつかない」
「ちょっと」
歩き出そうとした瞬間、ダリアに手を取られたのだ。
そっと握られたその手とダリアとをじとりとした目で交互に見るが、さも繋いでいるのが当たり前のような顔をされてしまった。
何きょとんとしてるんですか離せよ手を。
男同士で往来でお手々繋いでるんるん、なんてしたくないんですけど。
「迷子になったら困るだろう?」
「いくつだと思ってるんですか」
迷子になったとしても一人で対応出来る。
というよりも傍にいれば良いだけなのでそもそもはぐれたりなんかしない。
精神年齢だけで言えばダリアの倍以上生きているのだからそんな事で心配されても困ってしまう。
「エルが俺の望みを叶えてくれたら離してやろう」
「婚約者には戻りませんよ」
「それも望みの一つだが……それではない」
「じゃあ何ですか?」
「当ててみせろ」
え、面倒。
口には出さなかったが表情にはありありと浮かんでいたらしい。
ダリアが苦笑いを浮かべている。
というよりもゲーム感覚で人と手を繋がないでいただきたい。
さてどう切り抜けようかと考えていたのだが。
「邪魔にはならないんだから良いだろ?」
「あ……」
許可していないのに勝手に歩き出してしまった。
仕方がないので繋がれた手をそのままに引っ張られるようにしてついていく。
(俺も甘くなったもんだなあ)
溜め息を吐く。
人目につかないようにひっそりと歩けばそれで良いか。
これは手を繋いでいるんじゃない、手を掴まれているのだと思い込んだ。
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