婚約者の恋

うりぼう

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途中で屋台や出店で串焼きやサンドイッチなんかを食べながら試合を見ているうちにあっという間に予選の二回戦が始まった。

竜に乗って大満足の双子と付き添いの父も時間に間に合うように応援に駆けつけてくれたらしい。
隣に立つダリアに双子がにっこりとだが何か刺さる事を言っているのが遠くでもわかる。

(多少のお小言は覚悟してもらわないとな)

自慢じゃないが双子に好かれている自信はある。
ダリアの立ち位置は『気に食わない婚約者』から『兄を捨てたクソ野郎』に変わってしまっているのでそれを元に戻すには労力がいるはずだ。
捨てたも捨てられたもないが俺の事であんなに目くじら立ててくれる双子本当に可愛い。
最高かよ俺の妹と弟。

ちなみにユーンはその辺良くわかっていないようで、時々餌をくれて撫でてくれるダリアの事は気に入っていて今もその頭の上に陣取って試合を見ている。

予選二回戦の相手は男。
この人は確か上級生だったはず。

「絶対勝つ、絶対勝つ、絶対勝つ」
「……」

長い髪の毛で顔のほとんどが隠れてしまっている中、そんな声だけがぼそぼそと耳に届く。
勝とうという意気込みは認めるけどちょっと怖いよ。
そんなに何度も呟かなくても良いんじゃないか。
それでやる気が出て強くなれるんなら止めないけどさ。

(でも、俺だって負ける訳にはいかない。ていうか勝つ)

絶対に勝つ。
始めの合図と共に、一回戦同様攻撃をしながら駆けだす。
一回戦よりも苦戦したが、何とか勝つ事が出来た。

「エル……」
「兄さん!おめでとー!」
「おめでとー!」
「ありがとう」

終わった瞬間にこちらに向かって来ようとしたダリアを押しのけ真っ先に駆けつける双子。
こらこらそんなあからさまじゃなくてもっとさりげなく押しのけないとダメだぞ、と思いつつ両サイドから抱き着いてくる双子を受け止める。
周りに何言われるかわからないけど、ダリア自身双子のする事を特に気にしていないから大丈夫だろう。
何か言われても所詮子供のする事だからとごまかせる自身はある。

午後一番の試合だったから後は自由時間だ。
アルとリースは多分余裕で予選を突破するはず。
相手にもよるだろうが、まあ大丈夫だろう。
父はこれから仕事があるのでもう城に戻るらしい。
双子は父と一緒に来たのだが、この後友達と約束をしているからそちらで遊ぶそうだ。

「また本戦見に来るからね!」
「頑張ってね!」
「うん、頑張るよ」

父と双子と別れた後。

「王子はどうしますか?」
「エルはどうするんだ?」
「俺が先に聞いてるんですけど」
「俺の行き先はエルと同じだ」
「つまり付いてくるって事ですよね」
「そうとも言う」
「……まあいいですけど」

予想はしていたから今更驚きはしない。
試合を見る時もダリアがいた方が色々と解説があって都合が良いしな。

「まずはどこへ行く?」
「うーん、そうですね、もう少し試合を見たい気がするんですが……」
「気になる所があるなら今の内だぞ。本戦が始まるともっと人が増えるからな」

確かに、まだ予選だからまだ人は少ない方だ。
明日明後日、それに最終日にはどこから現れたんだというくらいに大勢が詰めかけるから好きな場所に行くのは一苦労。
某テーマパークのようにこれでもかと行列を待たなければならない。

(試合は本戦が始まってからも見れるし……よし、こうなったらこの機会に色々と見て回ろう)

去年はダリアのサポートでそれどころじゃなかったからな。
今年は全力でこの五日間を楽しんでやるとずっと決めていたのだ。








ダリアを伴い学園の敷地内を端から端まで移動する。
ユーンは飛んだり止まったり、ダリアの頭がことさら気に入ったのかしょっちゅう乗っかっている。
高さか。
高さが違うからなのかユーン。

「王子、次はあっちです!」
「待て、まだ食べるのか!?」
「当然です、あれ大会期間中限定のやつなんですよ」
「お前の胃袋はどうなってるんだ」
「普通ですよ。二試合したんだからお腹空いてるだけです」
「普通の食事もして更に屋台をみっつも回ったのにか!?」
「やだなあ、俺達成長期ですよ?」
「限度がある」

いやあ、若い身体って良いわー。
お腹いっぱいになったかなと思ってもまだまだ食べられるしおまけに胃もたれしない。
脂っこいものを連続で食べても全然平気だなんて素晴らしい。

「本当にいらないんですか?」
「良いから食え」
「じゃあ遠慮なく!」

今買ったのは牛肉の串焼き。
腕くらいの長さの串に大きな肉が刺さっている。
味付けはシンプルに塩コショウ。
これがまためちゃくちゃ美味い。

「うまー!」
「そんなに美味しいか?」
「めっちゃ美味いです!」
「ふっ、幸せそうで何よりだ」
「王子も一口食べます?」
「は?」

はい、と差し出すとダリアが固まった。

あ、やべ。
前世でのいつもの調子で差し出しちゃったけど良く考えたら食べかけだこれ。
おじさんの食べかけなんていりませんよねそうですよねわかってます。

「すいません、つい」
「……いや、貰おう」
「え?」

今度は俺が固まる番だった。
貰うと言ったダリアは串を持つ俺の手を掴み、そのままぱくりと串焼きを頬張った。
周りから黄色い悲鳴が小さく漏れる。

「ちょ……!?」
「うん、美味しいなこれは」
「……何してるんですか王子」
「エルが勧めたんだろう?俺は肉を食べただけだ」
「だけ、じゃないでしょうよ……他の人にやったら勘違いされますよ?」

俺みたいな中身おっさんだから良いようなものの、ダリアの取り巻き達またはそこらへん歩いてる女の子にやった日にはすぐ勘違いされてしまうに違いない。
呆れて溜め息を漏らす俺をダリアが鼻で笑う。

「勘違いも何も、俺は勘違いして欲しくてやってるんだが?」
「……そうですか」
「他の奴にやっても無意味だしな。だがエルから指摘されるとは思わなかった」

はいはいそうですね。
迂闊に勧めた俺が悪かった。
今更だけど、こいつ俺を口説こうとしてるんだった。

「エルこそ、他の奴に今のような事をするんじゃないぞ?」
「もうしません」
「今までしてたのか」
「ノーコメントで」

前世を思い出してやったのは今が初めてだが、した事がない訳ではないので黙っておこう。

(……ん?)

ここでふと視線を感じた。
視線自体はずっと感じているのだが、今感じた視線は何だか種類が違う。

ぞくりとするような、何か嫌な物が含まれているような視線だ。

「どうした?」
「いえ、何か……いや、何でもないです」

辺りを見渡すが視線の主はわからない。
気のせいだろうとダリアに向き直ると、気に入ったのか串焼きをもう一本買っていた。
最初から自分の分買っとけば良かったのに。

「ほら、一口やろう」
「え」
「お返しだ」
「……いただきます」

まあ、一口は一口だからな。
気を使ってか一番最初の一口をくれたのには感謝しよう。
その後食べるのは先程同様ダリアなのだが、うん、もう気にしない事にしよう。

「明日からは敵ですね」
「そうだな」
「当たっても手加減しないで下さいね」
「わかってる。そんな事をしたら怒るだろう?」
「もう口利きません」
「それは困る」
「まあ、俺が無事に勝ち進められればの話ですけど」
「何だ、俺が途中で負けるとは思わないのか?」
「去年の優勝者が何言ってんですか」

ダリアに限って途中で負けるなんて事はないはず。
多分去年と同じように順調に決勝まであっという間に進むに違いない。

「一回戦敗退なんて事にならないように、油断だけはするなよ」
「わかってます」

せっかく本戦に進めたのだから全力でやりますとも。

そう意気込み迎えた本戦当日を迎えた。


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