婚約者の恋

うりぼう

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そんなこんなで練習を重ね、同時に学園内も色々と準備が進んでいく。
廊下の上部分に描かれたイルミネーションの魔法陣。
七色に光るそれは昼間でもはっきりと見えるし、夜になるとよりキレイ。
教室もあちこち飾りがされ普段の様子とは真逆に視界が賑やかだ。

「ユーン、凄いなあ」

キューイ

ぼやっと飾りを見上げてきょろきょろしながらユーンに問う。
俺と同じく呆けた顔をしているのがしつこいようだけど可愛い。

右を見れば魔法陣をこれでもかとあちこちに書き込んでいる人がいて、左を見れば大道具を魔法を駆使しながら設置したり移動したりしている人がいる。
学生時代の文化祭を思い出してわくわくが止まらない。
本番も楽しいけど準備してる時がまた楽しいんだよなあ。
みんなできゃっきゃしながら、失敗してもそれが楽しくて面白いんだ。
この時ばかりは灰色な学生生活だった俺でも色んな人達と話が出来た気がする。

懐かしいなあ。
たこ焼きにやきそば、お好み焼きにクレープ。
クラスはもちろん、部活ごとにも出し物がたくさんあって、どこを見ても楽しかった。

ここでの店は生徒達ではなく、学園内に店を構えている人達が出す屋台がほとんど。
対して学生達はその店の手伝いや大会運営の裏方に回る事がほとんどだ。
良いなあ、楽しそうだなあ、俺裏方とか大好きなんだよ。
表舞台に立つ人はもちろんすごいんだけど、それを裏で支える地味な仕事が大好きなんだ。
だから今も色々と手伝いたくてうずうずしてるんだけど、大会に出る人は手伝いを禁止されている。
大会に集中しろって事らしい。
かなり注目されている大会だからそれも仕方ない。

仕方ないけど、ああああ身体が疼く!
なんか手伝いたい!
余裕かましてる場合じゃないのはわかるけどなんか!なんかしたい!
準備を進めていく周りを見ながら手をわきわきとさせていると、後ろから声をかけられた。

「エル」
「!リュイさん」

振り向いたそこにいたリュイさんにユーンが突進している。
朝ご飯食べた時にも会ってるはずなのに、毎回感動の再会のように喜ぶユーン。
尻尾までぶんぶん振っている。可愛い。

「こっちまで来るの珍しいですね」

リュイさんは普段竜舎の周りから移動する事はほとんどない。
ましてやこうして校舎に入ってくるなんて珍しい。

「今度の大会の時の手続きしてきたところなんだ」
「ああ、そういえば竜達に乗れるんですよね」
「うん。毎年人気なんだよ。竜に乗って飛ぶのって楽しいからね」
「わかります、めちゃくちゃ楽しいですよね」

竜に乗って飛ぶなんて夢とロマンが溢れている。
去年は残念ながらダリアのサポートでずーっと張り付いていたから今年こそは乗りたいものだ。

「そういえば大会に出るんだって?凄いじゃん、おめでとう」
「ありがとうございます」
「でもちゃんと戦える?エルは優しいからなあ」

優しい?
はて、と首を傾げる。
俺のどこをどう見れば優しいとなるのだろうか。

前の『エル』なら優しいと表現されても良いだろうか。
優しいというよりも問題を起こしたくないが故に繕っていた部分はあるのだが。
まあリュイさんに優しいと言われて悪い気はしない。
だってリュイさんだぞ?
この優しさが服着て歩いているようなリュイさんに優しいと言われたのだ。
大袈裟だがこれは誇っても良い。

「ご心配なく、ちゃんと戦えます。毎日猛練習してますし」
「大変だねえ」
「せっかく選ばれましたからね!」
「今日もこれから練習?」
「はい、というよりも今が休憩中です」
「ずっとしてるの?」
「もちろん」

ダリア曰く、かなり安定したとはいえ俺の魔力はまだ少し危なっかしい。
せっかくコツを覚えたのだから毎日復習しておくに越したことはないと言われた。
確かにその通りである。

楽器じゃないけど、一日休んだら取り戻すのに三日かかるような気がするのだ。
それでなくても楽しいから毎日するのは全く苦にならない。

「一人で練習してるの?」
「いえ、お……」

待てよ、ダリアとって言って良いのか?
この前あいつリュイさんに失礼な対応して別れたままだもんな、名前を出さない方が良いような気がする。
リュイさんは大人だから気にしていないだろうけど、どことなくこう、火花が散ってたような気がする。
同時に不穏な空気も流れていたような……

これは名前を出さない方が良いな。
うん、出さない方が良い。

「お?」
「おー……友達、とです」
「……そっか」

にっこりと微笑むリュイさん。
ほんの少しだけ間があったような気がするのは気のせいだろうか。

「じゃあこれ以上邪魔したら悪いね。大会、頑張ってね。応援してる」
「ありがとうございます」

よしよしと頭を撫でられる。
リュイさんって人の頭撫でるの好きだよな。
子供扱いされているような気がするけれど、年下の頭を撫でたい気持ちは良くわかる。
前世を思い出してから会ってはいないけれど、下の弟妹の頭をこねくり回したいとずっとうずうずしてしまっているのだから。

「ユーンも夜にね」

キュー!

同じようにユーンの頭も撫で、ひらひらと手を振り立ち去っていくリュイさん。
すると。

「何をしているんだ」
「!」

正面からやってきた人物が思い切り眉間に皺を寄せながらそう尋ねてきた。
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