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しおりを挟む「よ……っと、ん?あれ?」
キュー?
「……ここじゃない?」
キュイキュイ
俺の質問にこくこくと頭を下げるユーン。
今は部屋の中。
手元にはダリアから貰った練習道具の懐中時計。
前世で良く見ていたものとは少し違う。
大きさは手の平くらいで楕円形、二センチ程の厚みがある。
一見すると小さな宝箱のようなデザインだ。
音が鳴ればオルゴールとも言える。
下の部分は箱になっており、赤いベルベットの生地が敷き詰められそこに小物が入れられる仕様になっている。
上の裏は透明なガラスで仕切られており、そこから歯車が見える。
蓋の部分の表面に時計があり、その周りに細かい彫刻がある。
文字盤の部分には小さな穴がみっつ。
それぞれ太陽と月の満ち欠けを現す盤が嵌め込まれ、最後のひとつからは裏側と同じように歯車が見える。
そして小さな穴に連なるように一番上に小さな魔法石が埋め込まれている。
一応魔法具ではあるが、こちらは時刻などを知る為だけのものであり、今使っている普通の魔法具とは用途が違う。
完全なる生活用品のひとつだ。
かなり古いもので、小さい頃に街に出て道端の商人から買ったもの。
王子が持つにはかなり安い、一般市民の子供でも気軽に買えるくらいの値段のものだったのを覚えてる。
けれどもう使っていないものだから好きにして良いと言われて受け取った。
上下を離して、それぞれのパーツがどの位置にあったのかを紙に書き起こしてある。
これをしないと元の位置に戻せないから大変だ。
そして早速全てを分解して組み立て始めたのだが、そもそも手で組み立て直すのも難しかった。
このパーツがここかな、と思い嵌め込んだが合わず、むしろユーンの方が正確な位置を理解している始末。
ユーン賢い、偉い。
さすが俺の息子。
ちょいちょいと翼でパーツを指され、こっちかとそれを手に取り嵌める。
「おお、ばっちり!」
キューイ!
「偉いぞユーン!本当に良い子だなあ!」
わっしわっしとユーンの頭から身体を思い切り撫でまわす。
……って、違う違うそうじゃない、これは魔力の調節の為の練習なんだから手で嵌めてどうする。
やり直さなければ。
神経を集中させ、小さな小さなパーツを持ち上げる。
そしてそれをゆっくりと時計に重ねていく。
ひとつでも間違えると、少しでもずれると時計は動かない。
慎重に慎重に、ゆっくりと魔法をかけてパーツを組み立て、また分解して組み立てる。
それを何度も何度も繰り返していくうちに組み立てる時間が少しずつ短くなり、目で見るのも大変な細かい場所も難なく組み立てられるようになってきた。
*
恒例となったみんなでの練習。
今日も今日とて模擬試合形式でアルと戦っている。
「そーれ!」
「……っ」
飛んでくる火の玉。
それを結界で弾きつつ雷を放つ。
「うわっ、びりびりやだー!」
「まだまだー!」
「わっ、ちょっ、やめてよ!ちょっとコントロール上手くなったからって調子に乗ってー!」
「この前のお返しだ!」
「あ、やば……っ」
この前とは形勢逆転。
俺の攻撃を弾ききれずに焦った表情をするアルに向かって、最後の一撃を放った。
うーん絶好調!
魔力のコントロールをするようになってから調子が良い。
自分が思った通りに魔法を使いやすくなった。
「エルの勝ちだな」
「よっしゃ!やっと一勝!」
「たかが一勝でそんなに喜ばないでくれる?」
「負け惜しみかなー?」
「はあ?べっつにー」
明らかに悔しいという顔を返される。
素直じゃないなあ。
確かにたかが一勝だ。
それでもやっと勝てたのだから嬉しいに決まってる。
それに何よりやはり自分でも魔法の使い方が上手くなったというのが嬉しくて堪らない。
(癪だけど、王子のおかげだよなあ)
魔力調節がガタガタだったのに気付き教えてくれたのもそうだが、根気良く練習に付き合ってくれたのもありがたい。
「良さそうだな」
「はい、おかげさまで」
「これなら本当に余裕で優勝争いに食い込んでくるかもな」
「王子のおかげですね。ありがとうございます」
「エルの為ならこのくらい可愛いものだ」
「はいはい、ありがとうございます」
ダリアの軽口にも慣れてしまった。
前まではあんなにうっとおしかったんだけどなあ。
練習中はずっと一緒だし、色々聞きたい事もあるので結局休み時間もダリア達と過ごす事が多くなっている。
慣れって怖いと思いつつ、どこか心地良さを感じてしまう。
これも前の『エル』の影響だろうか。
それとも俺の本心だろうか。
(良くわかんねえなあ)
自分の感情なのに訳がわからず、うーんと首を捻った。
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