婚約者の恋

うりぼう

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「では私はこれで」
「ああ、ありがとう」
「いえ、こちらこそお邪魔してしまって」

食べ終えた後で礼を言うダリアにベアトリスがふわりと微笑む。
からっぽになった籠を見て満足そうだ。

「美味かった、ありがとな」
「い、いえ、あの、また作ってきますわ」
「本当?やった!」
「……っ」

また、というセリフが嬉しくて喜んでしまう。
これは決して餌付けをされた訳ではない。
違うよ、違うったら。

顔を真っ赤に染めたベアトリスが籠を抱え頭を下げそそくさとこの場から立ち去っていく。
その後ろ姿を見送った後で、ダリアに襟を掴まれ軽く引き寄せられた。

「おわ、何ですか?」

突然引っ張らないでほしい。
というよりも犬猫じゃないんだから首根っこ掴むような真似をしないで欲しい。
襟が伸びるじゃないか。
さっきも正面から胸元引っ張られたばっかりだというのに。
このくらいなら魔法でちょちょいと直せるけど。

斜め上にあるダリアをじとりと見上げると、何やら複雑そうな表情を浮かべていた。

「王子?」
「……あまり愛想を振り撒くな」
「愛想は振り撒いてなんぼでしょう?」

愛想は振り撒いておいて損はない。
特に俺みないな何の特徴もないのは無表情でいるだけで『何を考えているかわからない』『不満があるなら口にしろ』『いつも怒ってるみたい』などなど色々と陰口を叩かれやすいのだ。
ダリアみたいな美形さんにはわからないだろうけど。
愛想のひとつやふたつで人間関係が円滑に進むのならいくらでもにこにこしますとも。
そもそも前世では仕事上愛想笑い浮かべまくりだったから身体、というよりも魂レベルで染み付いてしまっている。
今更やめろと言われてもそう簡単にはやめられない。

「変な虫が付くだろう?」
「例えば紅い髪と赤い瞳の虫ですか?」
「う……っ、そ、それ以外の虫だ」

自分の事虫だって認めたな、今。
良いのか虫で。
この場に赤い髪、赤い瞳の人間は一人しかいない。

それはそうと、俺に虫が寄ってくるはずないじゃないか。
誰がこんなおっさん相手にするんだよ。
……あ、今はまだ16歳だった。

「お前の笑顔は危険だ」
「どういう意味ですか」

凶器か?爆弾か?失礼な事を言わないでいただきたい。
俺の愛想笑いと営業スマイルはこれでも評判が良かったんだぞ。

「……笑うのは俺だけにしろって言いたいんだろうなあ」
「……だろうな」

俺達のやりとりを見たアルとリースがそう呟いていたのは幸運にも俺には聞こえなかった。
聞こえていたら何とも言い難い顔になっていたのは間違いない。

さて、それはそうとお腹が良い感じに膨れたところで練習を再開しよう。
とりあえず少しの時間なら思う通りに動かせるけれど、これを100パーセントに近くしなければ。

(細かい作業だよなあ、プラモデルでもあれば良いのに。魔法でプラモ作ったらかなり練習になりそうだよな)

組み立てるのももちろんだが、パーツを切り分けたり切り分けたあとの面を削ってキレイにしたりやすりかけたり接着剤がはみ出さないように塗ったり最終的には色塗りまで、かなり手先の細かさが要求される事は間違いない。

いっそ練習用にプラモを自作してしまおうか。
ア○ゾンでもあればなあ、通販でさっと取り寄せられるのに。
そういえば魔法具に時計型のやつがあったよな。
あれ分解して組み立てるのでもかなり練習になるんじゃないか?
でも本物の魔法具使うのは気が引ける。
結構な値段したもんな、あれ。
他に何か分解して組み立てられるようなものがあっただろうか。

「何を難しい顔をしてるんだ?」
「王子、何か分解しても良いものってありませんか?」
「分解?」
「魔力の調節とかコントロールするのに細かい作業するのが効率的かなと思いまして」
「……なるほど」
「プラモでもあれば良いんですけど……」
「?何だそのプラモというのは」
「えっと、こういう細かいパーツを組み立てて人形とか船とかを作るんです」

身振り手振りで説明するが、うん、わかり難いよな。
あれは見た事がないと理解し難い。

「プラモ?はないが、分解しても良いものならあるぞ」
「本当ですか?」
「ああ、後で渡す」
「ありがとうございます」
「このくらいお安い御用だ」

言いながらするりと頬を撫でられる。
いや、何さりげなく触ってるんですかねこの人。
触れるか触れないかのギリギリの触れ方がくすぐったい。
袖を摘まんで触れている指先を離すように引っ張ると、そうされるのはわかっていたのだろう、楽しそうに微笑まれた。

何で笑ってんのか意味がわからん。
拒否されるのが楽しいのか?
まさか変な趣味ある訳じゃないよな?
拒否されて嬉しいのなら実は殴られて興奮するとか?

「……今、失礼な事考えてないか?」
「何の事でしょう」

考えてはいたがすっとぼける。
素直に認める必要なんてないし。

「まあ良い、なら続きを始めるか」
「ですね」

気を取り直して、さっきまでの復習を行った。

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