婚約者の恋

うりぼう

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「ユーン!お前だけだよ俺の癒しはああああ!」

キュー!!

竜舎に着くや否や、ユーンは俺の匂いに気付き飛んで来てくれた。
その身体を両手で受け止めぎゅぎゅぎゅーっと抱き締める。

「はあああ癒される、ユーン最高、お前さえいれば良い」

ぐりぐりと頭を擦り付けるとくすぐったいのかユーンが笑うように高い声を上げ身を捩る。

可愛い、癒される、可愛い。
ダリアの猛攻に荒んだ心にこれは最高の癒しだ。

「あれ、エル来てたの?」
「リュイさん」
「うわあ、疲れた顔してるねえ」
「疲れてますユーンに癒されてますけど疲れてます」
「何かあったの?もしかして王子様の件?」
「……」

図星を付かれ黙ってしまう。
リュイさん察しが良すぎる。

「やっぱりかあ、最近またすっごい噂になってるもんね」
「え?噂ですか?」
「うん、王子様が真実の愛に目覚めたって」
「うーわー」

頭が痛くなってきたのでユーンに再び顔を埋める。
ひんやりとした皮膚が気持ち良い。
デレクとヒースがここで涼んでいた気持ちが良くわかる。

「婚約、白紙に戻ったんじゃなかったの?」
「戻るには戻ったんですけど……」

戻った結果、また一から口説かれている真っ最中だとは言えない。
言わないまでもリュイさんなら気付いてそうだが。

「大変そうだね」
「それはもう」

改めてさっきの様子を思い出して大きな溜め息を吐き出す。
ユーンが心配そうに首を傾げてこちらを見上げてくる。

あああもう本当に可愛いな!
ユーンと同じように首を傾げ、頬をそのままでれでれと緩ませる。

「ユーンがいればなあ、ユーンも一緒に授業受けるか?もうずっと一緒にいようよユーン」
「ははっ、重症だね」
「ユーンだけが俺の癒しです。あ、いや、リュイさんにも癒されてます」
「ありがと」

言いながらぐりぐりと頭を撫でられてしまった。

おおう、久しぶりに撫でられた気がする。
久しぶりも何も子供の頃以来だけど。
嬉しいもんだな、頭撫でられるっていうのも。
気持ち良さに思わず目が細くなる。

「気持ち良い?ふふ、猫みたい」
「いっそ猫になりたいです」

猫になればあの猛攻から逃れられるしあの視線からも逃れられるし、のんびり気ままに昼寝してご飯食べてまた昼寝して。
最高の一日じゃないか猫。
ああでも魔法使えないのは困るな。

「うーん、俺はついていけないけど、ユーン連れてってみる?」
「え?良いんですか?」
「大丈夫だよ。他の竜達も小さい頃は気ままにあちこち行ってるし、前も離れたくないって言って大きくなるまでずっと一人の生徒が預かってた事もあるんだよ」
「え、え、ええええ、何それ羨ましい」
「竜の方から毎日会いにいくこともあったなあ。余程離れたくなかったんだろうね」

俺も離れたくない。
ユーンと一緒にいたい。
それにしてもそんな事した生徒がいたのか。
大きくなるまでまだ間があるし、それまでずっとユーンと一緒に寝食共に出来るって事?
何それ最高かよ。

「ユーンが良いって言うなら良いよ。聞くまでもないと思うけど」
「本当ですか!?」
「うん」

こくりと頷くリュイさんに目を輝かせユーンに向き直る。

「ユーン、俺のとこ来るか?」

キュ?

「朝から晩まで、ずーっとずーっと一緒にいられるぞ!」

!!!キューイ!!!

言葉を理解したのか、すぐに同じように目を輝かせ翼を広げ大喜びのユーン。
ばっさばっさと羽ばたくそれが身体にびしびし当たる。
痛いけど良い、俺も嬉しいから。

「良いみたいだね」
「やったー!」
「離れる事はないだろうけど、一応首輪付けといてね。部屋の中なら外しても良いからね」
「はい!」
「食事は時間になったらユーンが勝手に戻ってきて食べるだろうから心配しないで良いよ」
「了解です!」
「うん、じゃあよろしくね」
「はい!」

あっさりとユーンの貸し出し許可……と言っていいのだろうか、それを貰ってしまった。
そろそろ飛ぶ練習もしなければならないしこの前街に行った時と同じように人にも慣らさないといけないからちょうど良いんだとか。
自惚れでなくユーンが一番懐いているのが俺だから、俺の元で色々と体験させてあげて欲しいと言われた。
もうもうもう全力で色々教えてやるし可愛がりますとも!

嬉しい、ペット飼うのとか夢だったんだよな。
ペット不可のアパートだったし一人暮らしだから何も飼えなかったけど。
それがまさか竜と一緒に暮らせるとは。
厳密に言うとペットとも一緒に暮らすというのとも違うかもしれないけど嬉しい。
これも魔法学園ならではだろうなあ。
あとはまだユーンが小さいからとうのもあるだろう。
寄宿舎での規則やなんかも、前回のお泊り同様使い魔もいるという事で割と軽い。

という訳で、早速ユーンを頭に乗せて竜舎を後にする。
おっと、その前に。

「そうだ、リュイさん」
「?どうしたの?」
「今日の夜って空いてますか?」
「夜?うん、大丈夫だよ」
「良かった、じゃあこの前約束してたご飯、ご馳走させて下さい」
「エルの手作りご飯?」
「はい」

あれから何度も作って人様に胸を張って出せるようにまでなった。
人並みに作れたとはいえ、自分しか食べてなかったからな。
リュイさんに失敗作を食べさせる訳にはいかないから練習が必要だったのだ。
ダリアに関してはノーカウントである。

「嬉しい。じゃあ夜に寄宿舎まで行けば良い?」
「いえ、持ってきます」
「持ってきてくれるの?」
「もちろん。お礼ですから」
「じゃあ待ってるね」
「美味いの作るんで、期待しててください」
「うん、期待してるよ」

リュイさんとそう約束して、今度こそ竜舎を後にした。
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