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しおりを挟む「……ん?」
塔の向こう、校舎のある方から鳩が飛んできた。
「ぶ……!?」
勢い余り顔面に激突してくる鳩、もとい手紙。
「いった、何だよこれ、誰だ!?」
鳩は直接本人に向かって届けられるが、こんな風に顔面に激突する程勢いのある魔法をかけて飛ばされてきたのは初めてだ。
どれだけ焦っているのだろうか。
顔面にぶつかる直前に元の姿、手紙に変わったのは一安心だけど。
封蝋で閉じられた差出人の名前を見て思わず首を傾げてしまった。
「は?王子?」
差出人はダリアだった。
こんな近距離で鳩飛ばすとか何考えてんだ?
あ、俺が逃げてるからか。
「えーと、何々『どこにいるんだ?』『食事はどうした?』って……おかんかよ」
まるで家出をした息子に対する質問のような手紙に思わず吹き出す。
俺の感じているものとは全く違う気持ちで書いているのはもちろんわかっている。
さて、これは直接返事をした方が良いのだろうか、それとも同じく鳩と飛ばすべきか。
でももう昼休みも終わるしなあ。
わざわざ手紙出すというのもめんど、いやいや面倒なんて思ってないよ、ないったら。
(……まあいいか)
次の授業どころか一日中顔を合わせるのだから、直接返事をしてしまおう。
そう思い、お茶を飲み干して立ち上がった。
*
「わざわざ待ってたんですか?」
「お前が返事を寄越さないからだろう?」
教室へと向かうと、扉の前でダリアが腕を組み待ち構えていた。
「同じ学園内にいるんだから手紙なんて寄越さないで下さいよ」
「お前が逃げるからだろう」
はい、その通りです。
わかってました。
「勢い良すぎて顔面に飛び込んできましたよ、鳩」
「何!?それはすまなかった、怪我はないか?」
「うお!?」
ぐいっと両頬を包まれ顔を近付けられる。
近付く距離に周りから黄色い悲鳴があがる。
いやいや黄色い悲鳴とか上げてないでいつもみたいに俺とダリアの仲を裂いてくれよ。
何こんな時にぼさっとしてんだ取り巻き達。
「近いです」
「傷は……ないようだな。少し赤みは残っているが」
「あれくらいじゃ怪我なんてしませんよ。ていうか近いんですが」
「もっと良く見せろ」
「嫌ですけど」
即答したけどダリアは手を離してくれない。
ムリヤリに離そうにもこいつの怪力に自分が敵わないのは知っている。
しょうがねえな、とダリアが傷とも言えない赤みを見ている間、俺も間近にある整った顔をまじまじと見上げた。
改めて見てこのドアップに堪えられる顔面ってすごいなと思う。
どこもかしこも整いすぎている。
まつ毛は一本一本が長くキレイに弧を描き上を向いているし紅い瞳は潤いもあってキラキラと輝いている。
無駄な毛は一本もないし肌もつるつるのピカピカ。
さらりと流れる髪の毛からは良い匂いが漂ってきている。
こいつ本当に男か?
俺の周りにこんな男いなかったぞ。
「……そんなに見つめられると困るんだが」
「は?見つめてません。観察してるだけです」
「どう違うんだそれは」
「俺の気持ちの入り方でしょうか?」
見つめるというのは少なくとも好意的な感情が混ざっていて成立するものだろう。
俺は完全に鑑賞物としてダリアを見ていたのでそれには当たらない、と言い張ってみる。
「観察して何か気付いたか?」
「キレイだな、と思う以外は特に」
「キレイ……」
俺のセリフに何故か目を輝かせるダリア。
キレイくらい大勢に言われてるだろうに。
「あー……王子、エル、そろそろ時間ですが」
「デレク」
「ラブシーンの練習?熱烈だねえ」
「冗談やめろよヒース」
横からやってきた二人が俺達の状況を見て苦笑いと楽しそうな笑みを浮かべている。
顔はまっすぐ固定されているが声で二人だとわかった。
デレクは良く止めてくれた。
ヒース、お前は次の魔法学の授業で餌食にしてやる。
氷と炎とどっちが良いかな。
そういえばさっき故郷を思い出して雪が恋しくなった。
よし、雪にしよう。
「あはっ、エルめっちゃ良い笑顔してるのにすっごい寒気する」
「からかった罰だな」
「えーデレク助けてよ」
「無理」
そんなやりとりを背後で聞きながらダリアを促す。
「ほら、王子、時間ですって」
「……仕方がないな」
やっと手を離してくれた。
周りを見れば俺達のやりとりを羨ましそうに、頬を染めて、忌々しそうに、面白そうに色々な目で見ていたらしい。
視線を戻すとすぐに逸らされた。
ちなみにヒースは宣言通り魔法学の授業中に雪だるまにしておいた。
この前と同じ結界魔法の授業だったがどうやらヒースの結界は間に合わなかったらしい。
「いやいやエルの魔法がえげつないだけだから」
というのは雪だるまから顔だけ出したヒースの談である。
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