婚約者の恋

うりぼう

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ダリアが復活したのはその直後だったようで、授業が始まる直前に教室へと駆けてきた。
朝ご飯間に合ったのかな?
俺はがっつりいただきましたけど。
そしてダリアは一目散に俺の元へとやってきた。

「エル!いつの間に部屋から出て行ったんだ!?」
「え?一応声掛けましたけど」

聞こえてなかったのか?
あの様子だとそれも仕方がないか。
かなり打ちひしがれてたもんな。
なんであんなにショック受けるのかわからないけど。

「気付かなかったぞ」
「何やら考え事をしていたようなのでそのせいでは?」
「考え事って……お前のせいだろう」
「俺の?元々は王子から言い出した事でしょう?」
「それはそうだが、せめて事前に知らせてくれても良いじゃないか」
「言ったら反対するでしょう?」
「当然だ」

はっきり答えやがった。
俺も一応聞いた方が良いかなって思ったよ?
思ったけど必要ないかと判断しただけだ。
あくまでも俺はダリアからこう言われました、俺もこう思いますっていうのを父親に伝えただけなんだから。

「どっちにしろもう送っちゃったんだから取り戻せませんよ。返事が来るまで待っててください」
「エル!」
「あ、ほら授業始まりますよ」

強く名を呼ばれ更に詰め寄られそうだったのだが、ちょうどやってきた教師に救われた。
元々ギリギリの時間だったからな、うん。
それでもナイスタイミングです先生。

「エル、後でもう一度話を聞くからな」
「ええー……」

あれ以上何をどう話せというんだこの王子は。
ていうかあれ以上の説明なんて出来ないぞ?
それこそ父からの返事がないとなんとも出来ないというのに。
そもそも後っていつだ?

明確に限定されていない時間。
俺はそれから逃れるべく、授業終了と共に教室から一目散に走り去った。





「ふう、ここなら大丈夫だろ」

教室を飛び出す瞬間、背中にダリアの声がかかったような気がするが無視だ無視。

そんな感じで毎休み時間をダリアから逃げる事に費やし、昼休み。
やってきたのはお気に入りの塔の上。
ダリアはここの事を知らないはず。
というよりもここに来て誰かと鉢合わせた事は一度もない。

「さーてご飯食べよ!」

取り出したのは昨日作ったおにぎり。
冷めてしまっているが、そこは魔法の力ですぐにほっかほかである。
持ってきたマグカップにお茶のティーバッグを入れ(これも休日に買ってきた)これまた魔法でお湯を注げばお茶の完成。

「はあ、うまい」

全速力で走ってきたからホッとする。
今度弁当作るのも悪くないかもなあ。
魔法のおかげでいつでも温められるし、本当に便利だな魔法。

(しっかしあんなにしつこいとはなあ)

手紙を出したのは失敗だったのだろうか。
でもまさかダリアがあそこまでショックを受けると思っていなかったのだ。
ダリア本人にも伝えた通り、俺は単なる厄介な婚約者だと思っていた。

(前世思い出してから気になって仕方がないとか言われたけど、あれも多分珍獣扱いだよなあ)

前の『エル』と違うから気になっただけで、俺本人を見ている訳ではない。
単純に珍しいから気になる。
その程度だと思っていた。
それがまさかあんな風になるとは。

(早く手紙の返事届かないかなあ、すぐには無理かなあ)

婚約の件は父とダリアの父の二人が関わっている。
恐らく返事で呼び出されるに違いない。
四人で話し合って白紙に戻すか、それとも呼び出し自体なくて、卒業するまで現状維持を諭されるか。

出来れば白紙に戻したいんだけどなあ。

学生の恋愛に憧れがないといえば嘘になるが、それよりももっと勉強したいという思いが強いのだ。
いやでも学生時代のキャッキャウフフも捨てがたいといえば捨てがたいといえば捨てがたい。

通勤の時に良く見かけた電車での制服姿。
田舎育ちだった俺の学生時代は自転車か徒歩だったから電車通学って憧れだったなあ。
違う高校の制服を着た可愛い女子とか、学校帰りの制服デートとか。
灰色の青春にそんなものがあるはずもなく。
同じくモテない男達と潰れたゲームセンターの駐車場でバカな話をしたり持ち寄ったゲームをしたり漫画を読んだりするのが日常だった。
雪国だったから真冬になると使われない駐車場は除雪もされないから雪だらけのそこで雪合戦したりかまくら作ったり、時には近所のおじさん連中が出てきて立派な滑り台作ってくれたりして遊んでた。

懐かしいなあ。
今思えばあれも青春といえば青春だな。
それが高校生の遊びかと言われると何とも言えないが。

「でも楽しかったなあ」

吹雪の日なんか鼻の中が凍りそうで耳も痛くて大変だったけど、やはり故郷は懐かしいものだ。
もう戻れないけど。

なーんて、しんみりしてる場合じゃない。
まずはダリアをどう躱すかだよなあ。
あの調子じゃ納得するまで諦めそうにないし。
あいつの納得とは即ち婚約解消したいというのをなかった事にして婚約を継続する事だと思うし。
となるとこちらからその旨をしたためた手紙を改めて父に送るまで、という事になるだろうか。

(わーめんどくせー)

ていうか俺にあそこまで執着する必要なんかないのに変な王子だよ全く。
せっかく見た目最強なんだからもっと他にも目を向けたら良いのに。

ベアトリスなんてどうよ?
あんなに可愛い子に盲目的に好かれてるのに見向きもしないなんて勿体ない。
他にも可愛い女の子も男の子もたくさんいるのに本当に勿体ない。
よりどりみどりなんて中々出来ないんだからな?
俺を見てみろ!

……って、自分の考えにダメージ受けてどうする。
どうせモテないよ。
悪かったな。
モテないのは前世でもそうだったが、今も諦めた方が良いんだろうな。
なんて考えていると。
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