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しおりを挟むあの後、思う存分お玉を観察し、実際に使う所も見せてもらい大満足で店を出た。
ちなみにシーラは日本ではなかった。
当たり前だが。
「リュイさん、俺の分いくらでした?」
「良いよこれくらい。後輩に出させる訳にはいかないからね」
「え?いやでもそういう訳には……」
「良いから良いから、黙って驕られてなさい」
「……ありがとうございます」
気付いたらリュイさんが会計を済ませていて自分の分を支払おうとしたのだがそう言われ驕られてしまった。
申し訳ない。
しかし凄くスムーズな対応、俺も今度使おう。
「お礼は今度エルが手料理作ってくれれば良いよ」
「そんなんで良いんですか?」
「もちろん」
「わかりました、じゃあ腕によりをかけますね!」
「楽しみにしてる」
そんなに大したものは作れないのだが、精一杯のもてなしをさせていただこう。
という訳で、俺達は店長さんに教えてもらったシーラの食材を扱うお店へとやってきた。
「エル、こっちだよ」
「はい!」
ここで念願の米を手に入れておけばこれからはいつでも寄宿舎で米が食べられるというわけだ!
毎回外食するよりも安く済むし、魔法で保存してあるので鮮度は常に最高の状態だ。
「珍しい食材がたくさんあるね」
「ですねえ」
リュイさんがそう呟くが俺にとっては懐かしいものだらけだ。
米に味噌、醤油まである。
どのようにして作っているのかと聞いてみると、どれもこれも例の料理人が魔法で作り出し、その後大量生産に踏み切ったものだとのこと。
会ったことのない料理人さんありがとう!!!
もし出会う事があれば五体投地してしまいそうだ。
「うきうきだねえ、エル」
「ここは天国です」
「大袈裟だなあ。で、何買うの?」
「米と味噌と……」
醤油も一応買っておくか。
砂糖や塩は学園内の食堂にもあるが醤油はない。
とりあえずそれさえあればなんとかなる。
後は使わない野菜の切れ端かなんかを貰って味噌汁の具やおかずにすれば良い。
もちろんリュイさんが食べる分はちゃんとしたものを買うつもりだ。
「重くない?」
「収納袋に入れちゃうから大丈夫です」
10キロほどだろうか。
大きな米袋を手に持つ俺に心配そうな声がかかるが心配無用。
持ってきた収納袋にはもちろん魔法がかけてあって、どんなに重い荷物でもその重さを感じないようになっている。
魔法万歳。
これが前世でもあればビニール袋が手に食い込んだりする事もなかったのに。
あれは痛かった。
真っ赤になって千切れるんじゃないかと思うよな。
「さてと、これからどうしようか?」
「リュイさんまだ時間大丈夫ですか?」
「今日は一日フリーにしてもらったから大丈夫だよ。どこか行きたいお店ある?」
「魔法具のお店に行きたいです」
せっかく来たのだから色々な魔法具を見てみたい。
良く考えたらずっとあのペン型の魔法具使ってたし、あれはプレゼントされたものだから自分で選んだ事なかったんだよな。
ダリアとの婚約解消を考えたらいつまでもあのペンを使っている訳にもいかないし。
手に馴染んでいたから少し惜しい気もするけど、また新しい物を手に馴染ませれば良いだけだ。
「あ、でもリュイさんは他に行きたいところないですか?どこでも付き合います」
「俺は良いよ、今日はとことんエルに付き合うつもりで来たからね」
「でも……」
本当に良いのだろうか。
ご飯も驕ってもらって買い物にも付き合わせてしまっているのに。
お礼は手料理で良いと言っていたけどそれだけでは足りない気がする。
そんな俺の視線に気付いたのだろう。
「じゃあ、あそこでアイス驕ってくれる?」
リュイさんはとあるお店を指差してそう言った。
もちろん嫌だなんて言うはずがない。
こうして気を使えるところも大人だ。
憧れる。
ジェラートのようなアイスを食べながら街の中を進んでいく。
久しぶりにアイス食べたなあ。
前世ではアイスが大好きで毎晩風呂上りに食べていた。
記憶を取り戻してからはそんなに食べていなかったけれど、やはりうまい。
「ユーンも食べる?」
聞くと嬉しそうに返事をされる。
竜は雑食で何でも食べるので、さっきの食堂でも俺達のおかずを摘まんでいた。
「うまいか?」
キュンキューン!
「ん?もっと?」
「今度は俺のあげるよ。ほら、あーん」
キューイ!
俺の次はリュイさん、そしてまた俺からアイスを貰い食べるユーン。
満足そうな顔をしている。
美味しそうな顔を見ているとどんどんあげたくなってしまうが、あまりあげるとお腹が冷えてしまいそうだ。
竜がお腹冷えるのかどうかはわからないが。
アイスを食べ終えた俺達は宣言通り魔法具のお店へと向かった。
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