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しおりを挟む記憶を取り戻して早三ヶ月。
ダリアは相変わらず訳のわからない愛を囁いてきているが、現状維持の状態。
せっかく婚約解消されたと思ったのにそれはまだ叶わずにいる。
そんなとある晴れた日の昼休み。
俺はまた呼び出されていた。
何でみんな昼休みに呼び出すんだよ、食事くらいゆっくりとらせてくれよ。
目の前にいるのはダリアの取り巻き。
いつもダリアの背後で彼を守るように立っている連中の一人だ。
一人で来たのは褒めてやろう。
「だからー、何でダリア様がアンタみたいなのを構うのって聞いてるんだけどー」
くりくりした金髪の、聖画によく出てくる天使のような容姿をした男の口から洩れる言葉に首を傾げる。
何でも何も俺の知った事か。
それにしてもこうして呼び出されるのは何度目だろうか。
記憶を取り戻す前から数えたらキリがないけれど、取り戻してからは一週間に一度は必ず呼び出されてる。
こいつに呼び出されるのも初めてではない。
その度に
『ダリア様に近付かないで』
『身の程知らずにも迷惑をかけて、ダリア様にはふさわしくない』
『優しくされているのも今の内、王子もきっと目を覚ましてくださる』
『普通なら最初に婚約解消を言い渡された時点で恥ずかしくて学校になんて来れない』
『厚顔無恥』
などなどまあ色々な奴らに色々と言われている。
中には淫乱だの身体を使って取り込んだのかだと背筋が寒くなる事を言う奴らもいたのだが勘弁してくれ。
俺は男に股を開く趣味はないんだ。
そもそも俺からダリアに近付いた事などここ三ヶ月は一度もない。
どこをどう見たら俺から近付いているように見えるんだ。
迷惑……は、この前の魔法学の授業でかけてしまったから何とも言えないが。
とにかく誤解しないでいただきたいのは俺が望んでこの状況になっている訳ではないという事だ。
(……つっても、誰も耳傾けてはくれないんだよなあ)
クラスの中では半分くらいは普通に接してくれるようになってはいるが、学年や学園全体を入れるとその数は僅か。
あとどのくらいダリア問題で迷惑を被るのかと今から頭が痛い。
いかんいかん、もっと楽しい事を考えよう。
昼飯だ、昼飯の事を考えよう。
今日のご飯は何にしようかなあ、やっぱり肉かな、肉。
「ねえ、ちょっと聞いてるの?」
「聞いてません」
「聞いてるじゃない、ちゃんと質問に答えてよ」
「王子が俺を構う理由なんてわかりません。では」
「ちょちょちょちょっと待ってよ、まだ話は終わってないんですけど」
「王子の事なら王子に聞いたら良いでしょう?」
「それは、そうだけどー……」
むっとするくりくり金髪。
そういえば名前はなんだったか、確かお菓子の名前に似てたよな、る、るー……ルマンド……じゃなくて、アルマンドだ!
お菓子じゃなくてお酒だったか。
あーすっきり。
「……っていうか君さ、僕の話聞くきないでしょ」
「いえいえ決してそんな事は」
むっとしたまま問われ即座に否定する。
図星であるが、ここは長年培った営業スマイルでごまかしてしまおう。
「……っ、またその顔」
「何か?」
「気持ち悪い」
なんだとこの野郎、俺の全力の営業スマイルを否定しやがって。
いくら俺でも気持ち悪いと言われると傷付くんだぞ。
ていうか普通に話せるんじゃないか、ずっとそのままでいれば良いのに。
「とにかく、僕は君がダリア様の婚約者だなんて認めないから。絶対婚約解消させてやるんだから」
「それはそれは」
勝手にしてくれ。
というよりもこいつが頑張ってどうにかなるのなら是非とも婚約を解消させてやってくれ。
「ちょっと!聞いてるの!?」
「はあ、まあ、お好きにどうぞ」
「……っ、もう、何なの君!?ほんとむかつく!」
あらら、今度はむかつくと言われてしまった。
まあいっか、嫌われるのは今に始まった事じゃないし。
アルマンドは顔を怒りで赤くしながらバタバタとその場を立ち去っていく。
(記録は約五分か)
どのくらい捕まっていたのだろうかと時計を見て頭の中でざっくり計算する。
今までの最短記録だ。
これはありがたい。
今日はしっかりとご飯を食べる時間がありそうだ。
アルマンドの背中を見送り、まだ余裕のある昼休みを堪能すべく俺も食堂へと駆けていった。
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