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しおりを挟む「シリル、惚れ薬は手に入るか?」
「………は?」
目の前にいるのはこの国の王、アイヴィー。
「惚れ薬?」
「ああ、惚れ薬だ」
突然の発言に、頭がおかしくなったのかと本気で疑ってしまった。
*
オレの名はシリル。
親から代々城勤めをしている為、国王のアイヴィーとは生まれた時から一緒にいる。
アイヴィーの方が年齢も立場も何もかもが上だが、人前ではともかくこうして二人でいる時に敬語を使われるのを良しとしない彼に拒否され、二人の時だけは敬語も敬称もなしのくだけた態度になる。
それなりにこの男の性格も知っていたし数々のいたずらも共にやってきた仲だから、ちょっとやそっとのあほな発言には慣れていたと思っていたのだが。
「そんなもの手に入れてどうするつもりだ?」
「決まってるだろ」
ニヤリと笑むアイヴィー。
まあ、惚れ薬が欲しいという事は使いたい相手がいるのだろうとは容易に想像出来る。
近隣諸国ばかりか遥か遠くの国にまで、若く聡明な賢帝、おまけに見る者全てを虜にする程の美丈夫と噂され、毎日毎日山のように妃候補があげられている。
誰も彼もがその目に映りたいと願っている。
かくいうオレも、身の程知らずに惚れてしまった一人なのだが。
そんな彼が、惚れ薬。
(全く、眼中にないってことか)
オレに命令するという事は、そう言外に言われているようで。
わかってはいたけれど、ショックはショックだ。
一緒にいる時間だけ想いが募り、今でも膨らみ続けているのに。
(一体誰に?)
よりどりみどりなアイヴィーが薬を使ってまでも、どうしても手に入れたいと望む存在。
誰だろうと一瞬考えを巡らせる。
「……!」
はた、と一人の少年が頭に浮かんだ。
あの子だ。
どこかからやってきたという少年、キウ。
報告では異世界から落ちてきたらしい。
家族とも友人とも突然離ればなれにされたというのに、それをおくびにも出さず耐え、常に明るいキウ。
蜂蜜色の髪はふわふわで柔らかく、くりっと大きな目に幼さの残る顔はとても可愛らしい。
いつもいつも声をかけてもらっているのにつれない態度で翻弄して、王を振り返ろうともしない。
「……っ」
チリ、と胸が痛んだ。
「で、どうだ?手に入りそうか?」
「……」
「どうした?」
「……いや、なんでもない。王が手に入れたいのなら全力を尽くすさ」
諦めにも似た笑み。
どんなに焦がれても手にいれる事が出来ない存在。
せめて期待には答えようと、あるかないかもわからない薬を探そうと決めた。
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