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白鳥になりたい雀。でも、本当は…。

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空を私は飛んでいた。


私は雀。


どこへでも自由に飛んでいける小さな鳥。


でも、私は白鳥のような綺麗な鳥になりたかった。


仲間たちはそれを変と言う。


私は冬にしか現れない白い翼の白鳥がとても素敵に見える。


友は言う。


「お前は雀だ。

ほかの何でもない。」


他の仲間が言う。


「お前は何万キロも旅はできない。」


でも、なりたかった。

でも、なれない。

私の一生は雀としてしか生きれない。


そんなある日、私はなんともマヌケに死んだ。

獲物に夢中になり、人間の車に轢かれた。


「あーぁ」という声がたくさん聞こえてきた。


でも、私は嬉しかった。


もしかしたら、白鳥に生まれ変われるかもしれない。

そう思うと、私は嬉しくなっていた。


そして、その日はやってきた。


さぁ、私を白鳥に!


私は目をさました。

自分の姿は綺麗な白鳥になっているはず。


目を開けても目がまだみえなかった。

少しずつ時間が過ぎ、目が見えるようになってきた。

自分の姿は見えない。

ただ、手らしきものが見える。


手…?


なぜ翼じゃないの?


そう。私は人間に生まれ変わったのだ。


白鳥ではなかった。

なぜ。

なぜ。


私は嘆いた。

しかし、嘆いても白鳥にはなれなかった。


どんどん時は過ぎ、私は人間として20年暮らしてきた。


色んな世界を見てきた。

特に気になったのは、鳥の生体だった。


私は鳥だった頃の記憶がある。


人間にとって、鳥はどうでもよい存在のようだ。

カラスなんかはゴミを荒らすため、嫌がられるようだが…。


私の一生を鳥の生体のために尽くした。


そして、それから70年経った。


私は夫と共に暮らし、子供にも恵まれた。


私はもう永くない。

癌という病になった。

気づくのが遅く、もう手遅れの状態だった。


あぁ、私はこれで白鳥になれるのだろうか…。


そっと私の手を夫が握る。

私は夫を見る。

「蜜。君は鳥のように自由だった。

そして、鳥のために一生を捧げたね。

でも、私はそんな君が好きだったよ。」


「なんで、私なんかに…。」


私は鳥にしか頭になかったのに、夫はそんな私を好きだと言う。


「だって、こんなに真面目で一生懸命な人はいない。

そして、子供たちを立派に育ててくれた。

君と私の宝物だ。」


子供たちも夫の隣で私を見守ってくれていた。


「お母さん、私、鳥にしか興味のないお母さんが嫌だった。

でも、お父さんの言う通り、私たちはお母さんが一生懸命育ててくれたから今いるの。

だから、ありがとう。

ここまで育ててくれて。

私のお腹にはまた新しい命が宿っているけど、私はお母さんのようにしっかり育てるわ。」


「私はそんな立派な母親ではない。」


「そんなことないよ。母さん。

俺、母さんが鳥が好きだから、俺も好きで、今母さんと同じく鳥を研究してる。

母さんの研究は俺が続ける。

だから

だから、安心してよ。」


「飛鳥。翼。ありがとう。

でも、私がやってきたことは…あなたたちを困らせただけ。」


「蜜。君はいつも頑なにそう言うね。

結婚を申し込んだときもそうだった。

なんて言ったか覚えているかい?」



私は…。

『鳥以外に興味がない私となぜ結婚したいの?

私はあなたに迷惑をかけるだけ。』

と言ったわ。


「懐かしいね。

迷惑はしっかりと受けたよ!

もちろんね。

でも、それ以上にもらったものも多かったんだ。」


私の意識が遠のくのを感じた。


そして、私の目からは涙が零れていた。


最後に最後に、伝えたい。


「あぁ、ありがとう。

いいじん…せ…い」


そう言って私は人間の器から去った。

本当にいい人生だった。

雀の頃とは大違いだ。

ありがとう。遊助さん。

ありがとう。飛鳥。翼。


私は白鳥になれなかったことを悲しみ、人であることを疎かにした。

でも、違っていたようだ。

私は人として生きていくことができた。


もう一度遊助さんの妻になれるなら

もう一度飛鳥と翼の母親になれるなら

人間に生まれ変わりたい。


でも、今はただ、ただ、眠い。

疲れたのではなく、一生懸命生きたその重みが心地よかった。


ありがとう。

ありがとう。

そして、おやすみなさい。

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