森の熊さん

知美

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森の熊さん

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私は好きな童謡がある。 


『森のくまさん』だ。


知っている人も多いと思うが、くまが女の子の貝のイヤリングの落し物を女の子に渡そうとするが、女の子が逃げてしまう童謡だ。


私は追いかけてくるくまのことを思うと、なんだか暖かい気持ちになり、つい曲を口ずさんでしまう。


今も電車に乗りながら、森のくまさんが頭の中で流れている。


もしかしたら、頭だけでなく、口から漏れてもいたかもしれない。


「次は、『岩井』『岩井』お降りになるお客様は右手のよりお降りください。」


電車のアナンスが鳴る。


私はこの岩井で降りる。


右のドアの前で、電車が止まるのを待つ。


すると、後ろから肩を叩かれた。


「はい?」

と後ろを向くと、強面の男の人がいた。


私に声をかけたのかな?

それにしても怖い顔してる…。


「嬢ちゃん。

ちょっとそこまで来い。」


命令形でとても怖かった。

もしかして、堂々としたカツアゲ?

どうしよう。

今車内には私たちしかいない。


ピロリロリン


「『岩井』『岩井』」


と、やっと駅に着き、ドアが開いた。


と同時に私は恐怖で走って逃げてしまった。


「お、おい!」

と、男の人が私を追いかけてくる。


森のくまさんの女の子はこんな怖い気持ちだったんだろうな。


と呑気に考えているうちに男の人が私の腕を掴む。


「ひー。」

つい小声で言ってしまった。


すると、男の人はわたしの耳元まで顔を寄せる。


ひーっ!


今度は声にならなかった。


「嬢ちゃん。

Tシャツ後ろ前逆だ。」


と、男の人が言う。


Tシャツ…?


えーーーーーー!


なんと、本当にTシャツが後ろ前逆になっていた。


なんで気が付かなかったんだろう。

なんで誰も声かけてくれなか…

いや、かけてくれた…この人が!


「ありがとうございます。

すぐに着替えてきますので、少しここにいてくれませんか?」


「ぉお。」


私はトイレに行き、着替えた。


戻ると、本当にさっきまでいた場所から動いてない。


「すみません。

ありがとうございました。

あと、逃げてしまってすみませんでした。」


「いや、いつものことだから。」


いつもなのか…。

ちょっと不憫になる。


「お礼にどこかでお茶なんていかがですか?

近くに美味しいパンケーキ屋さんがあるんです。甘いもの食べれますか?」


すると、男の人は


「甘いものは好きだ。」


と、少し顔を赤くして男の人は言う。


かわいい…。


なんて思ってしまう男の人の仕草だった。


「さっきの…」


と、男の人がなにか言い始めた。


「森のくまさんになった気分だ。」


「あは。」


つい、笑ってしまった。


だって、同じことを考えているのだから。


「そうですね。

私も思いました。」


と、言うと2人で笑ってしまった。



私は森のくまさんで気になる部分がある。

くまと女の子はその後どうなったのか。


それが今日分かった気がした。


きっとこれからも仲良くしていける…

これからの私たちのように。


「行こうか。」


「はい。」


2人で並んで歩き出す。


「そういえば、名前聞いてなかったですね。」


「熊野龍彦だ。」


「私は岬優香です。」


「なんて呼べばいい?」


「優香でいいですよ。
私は…そうだ。
熊さんって呼んでもいいですか?」

「あぁ、いいよ。」


これからきっと私たちは仲良くなれる。

そんな気がした。


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