捨てられ皇女の「死神公爵」暗殺計画

枝豆ずんだ

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そうして

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「申し訳ございませんが、しばらくお暇を頂きたくご存じます。いえ、もちろん辞めるではないのです。ただちょっと1日ほどお屋敷をあけけさせていただきたいのですが」

 と、そのように申し出たのはミュンゼ夫人だった。 

 もう何十年もギュンター家に仕える古参中の古参。先の大蛇の騒動の後も「奥様と旦那様のお子を抱き上げるまでこの屋敷を去る気はありませんよ」と、踏みとどまった。そもそも実家がとうに無いというのもあるが。
 滅多に長い休暇を取らない夫人の個人的なの休暇の申し出を、イドラ・ギュンターはもちろん受け入れた。どこへ行くのかと事務的に質問し、夫人が折角温泉街に越してきたので山一つ向こうの療養地に行って、終日ゆっくり羽を伸ばすつもりだと言う。ギュンターは夫人のこれまでの功績を振り返り、十分な休暇を楽しめるようにわかりやすくボーナスという形で示した。

 しかし、話はそれで終わらない。
 その後メイドが一人、二人。 下男が二人、三人、と続いていくとさすがにこれは妙だとルーナが首を傾げた。

 このままでは、屋敷の全員がいなくなってしまうのではないか?みんな1日だけの休みは欲しいというけれど、なぜ示し合わせたように同じ日なのか? 

 だが、この疑問を特に口にはしなかった。
 
 そもそも許可を出しているのはイドラだ。ルーナが信じる最も賢い男性だ。その彼が何も言わずに、彼らの希望する日程を変えさせることなく休暇の許可を出している。

 であれば、それは問題にはならない。
 何一つ不思議なことはないのだと、ルーナはそのように納得した。



 そして一方、イドラの方はルーナより先に使用人たちの奇行に対して思うことがあったのだが、しかし彼はその時も、そして今後も、特に何も言うつもりがなかった。

 もちろんイドラとて、使用人たちが示し合わせて同じ日に休んでることはもちろんわかっている。
 これは屋敷の運営に問題があるのではないかと、他の使用人の日程をずらすべきかと思いもした。だが、ここで彼は彼にとって最優先するもの。最も重要な存在、すなわちルーナが何も言わなかったので「女主人である妻がそのように判断しているのなら」と、通常、屋敷の決定権は女主人にあるものだという貴族の概念の通り、ルーナの意思を尊重することにした。

 女主人たるルーナが微笑んで使用人たちの休みを喜び、家族へ会いに行く者がいればあれこれと土産を持たす。

 一日といわずもっとゆっくりしていってもいいのよ、などと笑顔で送り出すものだから、それがとても嬉しそうだから、楽しそうな彼女の様子を見ているイドラは「妻がそれを望んでいるのだ」と、その後自分たちが多少の不自由を感じることを受け入れた。

 この2人決定的に話し合いが足りていない。 

 もちろん、この辺り使用人たちも計画通りである。

 この2人に絶対的に足りないコミュニケーション能力。

 その結果彼らがどうなるかというのが使用人たちの狙いだった。

 彼らは自分たちのこの企みがどう成功するのか見届けたい気持ちがあった。

 なので屋敷にたった1人残った使用人。 

 それはメイドでも執事でもない。そうしたポジションだと役に立ってしまう。そこで抜擢されたのは庭師である。

 庭師。

 長く仕えている老人。庭の手入れくらいで、他に何かできるわけではない。

 古株と言えば古株だ。老人は使用人たちに「万事わしが見届けてやろう」という、神妙な頷きを信じた。

 


 そうしてやって、なんやかんやとやってきたたXデー。
 
 使用人たちの間では「ドキドキ!密室!初夜をしないと出られない屋敷!!」などと言われているこのイベントが始まった。 



 
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