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悪の華!

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「お前もついに、ドマ家の自覚が出来たのだな!!愛する娘よ!!」
「まぁ、お父さま」
「だから言っただろう、父さん。アザリーは誰よりもドマの血が濃いってね」

 豪華で乗り心地のよい馬車に運ばれて、久しぶりに、数年ぶりに、私の実感としては十年ぶりに、もどってきたドマ本家。

 百年以上続く名家。伯爵家であるけれど、王族や公爵家から嫁いできた人間も多い。

 私の帰宅を玄関で待ち構えていたのは、いかにも物語の悪役、黒幕、最後の敵、の挿絵になっていそうな、黒い髪に黒い髭、ギラリとカミソリのように鋭い目つきのお父様。名前はグェス・ドマ伯爵。と、そのお父様を若くした姿のようなギースお兄さま。

 私は二人を見て、不覚にも泣きそうになった。

「アザリー!?」
「む、娘よ……どうしたというのだ……!!」

 じわりと、目じりに僅かに涙が浮かんだだけで、二人はこの世の終わりのように狼狽える。

 回帰前の人生で、私が疫病をばら撒いた魔女だとされた時、ドマ家のこの家族たちは『だからなんだ』『それがどうした』と、動じなかった。

『ドマ家の娘が疫病をばら撒いた程度で一々騒ぐな』
『それより金儲けの事を考えるべきだ。いくらでいくらの人が救えるか、値踏みするべきだ』と、動じなかった。
 私の身柄の要求さえした。

『ドマ家の娘が魔女だから、今更なんだというのか』

 国に吠えて、国民たちに唾吐いて、討伐の対象となり、軍を向けられ、抵抗して半分を道ずれにした、悪の一家。私が疫病を引き受けて守った命の倍以上を道づれにした家族。

 あまりにクズすぎる。

 だけれど、一度目の人生で、私のために死んでくれたのは、父と兄、家族だけだった。





「さて、娘よそろそろ聞かせてくれてもいいのではないかね」

 食堂には温かいスープや珍しい焼き菓子、何種類もの紅茶が用意されていた。私の好みがわからなくて、とりあえずよさそうな物を全て揃えて見たというお父様。

 私が「それじゃあ、そのハーブティーを」とお願いすると、お二人も同じ物を口にされて「こういう味が好きなのか」と頷いていた。

 少しして、私が落ち着いたと判断したのか、お父さまが話を切り出す。

「お前がこれまで聖女のふりをして、あの馬鹿どもに付き合っていたのは、全てこのためなのだろう?いやはや、全く、大したものだ」

 感心するお父様。
 うんうん、とお兄さまも頷いている。

 ……何の話でしょう。

「そのことですが、お父さま」
「あ、いや。待ってくれ、私もこれでも、悪の一族の当主だ。いかにお前が優れた策士であろうと、まずお前の企みをどの程度、私が察しているのか、私の有能さをまずはお前にちゃんと理解してもらうべきだろう。それならお前は安心して、私に協力させるだろうからな」
「これまで可愛いお前の信頼を得られず、父さんや私がどれだけ悔しかったか……」

 ……何の話でしょう?(二度目)

 私は聖女時代の忍耐力を発揮し、表面的にはにこにことした微笑みを浮かべたままお茶を楽しむ姿勢を保った。それが二人にはますます「なんて堂々とした振る舞いなんだ」と、なぜか褒められる。

「つまり、お前はあの鼻持ちならないロークリフォト家を破滅させるために長年あのどうしようもない娘の元にいたのだろう?ふふ、お父さまはすっかりわかっているのだよ。お前がドマ家と、一見縁を切ったように見せかけたのは、あの連中を信用させるためだね?お前は自分が国の馬鹿どもに呪われていることを自ら暴き、利用されていると見せかけて……あの馬鹿どもを破滅させることに成功したわけだ!」
「公爵家がハヴェル商会を利用したのも、お前の入れ知恵なんだろう?公爵家の借金を一本化させて、あとはハヴェル商会のエロじじぃをレイチェルに夢中にさせればいいだけだ」
「並の悪女ならば自分の体を使うところを、お前はなんと悪賢い娘だろう!!さすがは私の娘だ!」

 …………。

 うん。
 いや、まぁ、確かに。

 確かに……うん。はい。えぇ……結果的に、現在……えぇ、まぁ………結果的には、今、そんな感じ、ではありますね???

 王家と公爵家の企み。
 肥え過ぎた商人から正しく財産を没収する為、傾いた由緒正しい公爵家を立て直すため、商会の人脈、ノウハウ、従業員の何もかも、ごっそりそのまま、頂ける。素敵な企み。

 それらは、私がレイチェルを「治療」することで、彼らにとっては「完璧な成功」ルートに入れる。

 しかし現在、王家と公爵家は最も望む結末、を迎えられないでいる。

 公爵家はレイチェルを王子に嫁がせることが出来ない。借金はチャラになるが。
 王家は商会の財産を没収出来ても、公爵家を取り込むことが出来ない。

 私はレイチェルを治さないから。

 あと、一年後に確実にやってくる「疫病の予言」に対して、言うことを聞く従順な聖女、私がいなくなってしまった。

「このタイミングでお前がドマ家に戻ってきた、その目的もお父様にはしっかりわかっているのだよ、愛する娘よ」

 私が訂正の発言をしないので「自分の予想通りだ」「娘の思惑を理解できている」と満足気に頷くお父様。

 私は穏やかな日差し差し込む、優しい空間で……悪の一族に「さすがは天才!」「悪の華!」と、褒められ続けながら、ため息をついた。
 


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