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私の話(2)
しおりを挟む人というのは不思議なもので、レイチェルの傷を引き受け、醜い顔となった私は聖女ではなく「魔女」と呼ばれるようになりました。これまで美しい外見をしていたので、他人の傷を引き受け微笑む健気な少女は「聖女」だったのですが、治療をして吐血し、血塗れになっても引き攣った笑顔を浮かべるような醜い女は「魔女」なのだそうです。
それでも、私は「これも私の償い」と、よくわからない使命感、いっそ自虐的ともいえる程に、なぜだか受け入れて、せっせせっせと、体が腐って来ても他人の治療を行いました。聖女でも魔女でも、どちらでも、私が行うことは変わらないのですから。
レイチェルは親友、でした。
ドマ家の恐ろしい運命から逃れたくて、けれどどうすればいいかわからず泣くばかりだった私に、公爵令嬢であるレイチェルは優しくしてくれました。
ドマ家の娘だからと、お茶会に参加しても遠巻きにされる私に声をかけ、友達になってくれました。
銀色の髪に緑の瞳の、絵本に出てくるお姫様のように美しいレイチェルを好きにならない者などいません。私は彼女に嫌われたくなくて、いつもレイチェルが何を望んでいるのだろうかと、考えることばかりしていました。
レイチェルがアルフレッド様を好きになって、どうしたら幼い頃からの婚約者との婚約を解消させ、自分がそこへ収まれるのだろう、そんなこと無理に決まってるのに、どうしても諦められない、と、毎日大泣きするのを見て、私もすっかり困ってしまいました。
『ねぇ、アザリア。あの女が病になったとしても、絶対に治さないでちょうだい。お願いよ、ねぇ、絶対よ』
と、ある時言われました。
いつも自信たっぷりのレイチェルが必死に懇願してくるのが、私はとても気の毒に思えました。公爵家の御令嬢。いつだって堂々と、女王様のように振る舞う彼女のすっかり気落ちした様子。
けれど、私はそれを承諾することはできませんでした。レイチェルのことは大好きでしたが、病で苦しむ人を助けるのが、私の償いなのです。それはそれ、これはこれと、そのくらいの分別は愚かな私にもありました。
ある時、アルフレッド様のご婚約者の御令嬢が熱病に苦しみました。当然、聖女の私が呼ばれます。未来の王妃様になる女性、国はどんなことをしてでも彼女を救いたいのです。
私は彼女を治療しました。
病を引き受けました。
レイチェルは怒るだろうな。私の事を嫌いになってしまうだろうな。悲しむだろうな、と、そんなことを考えながら、奇跡をおこなったからでしょうか。
婚約者の御令嬢の顔には、大きなあばたがいくつも残りました。
それを理由に、御令嬢は婚約を解消され、代わりにレイチェルが、婚約者におさまりました。
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