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第1章 貴族は平民を貶めたいようです

第7話 平民は雑魚に違いない

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「貴様……覚えてろよ!」

 授業終了直後、ハルク達の前に現れたシャルアがそう言い放った。

「覚えてろって何をかな?」

 ハルクがわざとらしくレイシアにそう問う。

「明日までに土下座しなかったら……どうなるか、分かってるよな?」

 こめかみに青筋をたてたシャルアはそう言い放つと、ドカドカと足音を立てながらその場を去った。
 「こいつ豚なのか?」と思える煩さだった。

 それからしばらくして、ハルク達も教室を後にした。

「ハルクくん、この後って暇?」

 クラスの教室に向かっている途中、レイシアがそう口にした。

「暇だけど」
「付き合ってほしいことがあるんだけど……」

 うつむきながらそう口にしたレイシアに、シルフィが慌て始めた。

「そ、それって、こくっ、告白するの!?」

 最近、ハルクとレイシアが一緒にいる時間が増えていたので、シルフィは二人が良い感じになっていると考えていた。

「どう考えても違うだろ」
「そうだよ、シルフィ。少し落ち着いて?」
「え、じゃあ……」

 変な勘違いをしてしまったシルフィが恥ずかしさで顔を赤く染めてそう漏らす。

「魔術と剣術の鍛練よ」
「それなら、私の方が適任よね?」
「シルフィは手加減してくるから……」
「だって……レイシアに怪我させたら悪いから……」
「シルフィ、見に来るか? 俺がレイシアを動けなくなるまでボコボコにするとこ」

 ハルクが何やら不穏なことを口にする。

「心配だから行くわよ……」

 シルフィは親友達の考えに頭を抱えていた。
 レイシアはと言うと……

「ハルクくん、よろしくね!」

 これからボコボコにされる者とは思えない笑顔だった。

   * * *

「俺のクラスが勝つに金貨50枚だ!」
「なら、私のクラスが勝つに金貨50枚だ!」

 よく喧嘩する事で学院に名高い一組と二組の担任講師がそんな賭けをしようとしていた。
 金貨50枚はハストル学院の講師の給料二ヶ月分だ。

 そんな大金を賭けるのには訳がある。

 一組の担任講師は、魔術の研究資金が足りないから。
 二組の担任講師は、生徒と喧嘩したときに壊した学院の壁の弁償のお陰で首が回らなくなったからだ。

「私のクラスの方が成績優秀者が多いのに、随分と余裕だな?」
「せいぜい、寝首を掻かれないように頑張ってください。僕、応援してますよ」(負けるのを)

 ちなみに、成績一位から三位までは二組が独占している。

「結果が楽しみだな?」
「そうですね、ハー……先輩」
「いい加減に名前を覚えろ! 私はハークス・フラクニッヒだ!」
「あ、そうですか。ハーゲス先輩」
「貴様……間違えるにしても酷すぎるだろ! 喧嘩売ってるのか!?」

 ハークスがこめかみに青筋を立てていく。
 そして、それを完全に無視して二組の担任講師はその場を後にした。

 ……。

「お前達も知ってるように、剣術競技祭まであと二週間だ。今日からの練習期間、全員優勝目指して特訓するように! しなかったものは単位落とす」

 担任講師が声を大にしてそう告げた。

「一組の奴うざいから、この機会に何も言えなくしてやろうぜ!」
「そうですわね。あの高飛車な人達は潰……コホン、一度現実を教えて差し上げませんとね」

 担任の理不尽な脅しがあったのにも関わらず、二組は異様な熱気に包まれていた。

 それから程なくして……

「ここは俺達一組の場所だ! 雑魚の二組はとっとと退け!」

 中庭に赤い髪の少年の声が響く。

「じゃあ、僕と君が今から戦って、君が勝ったら僕達はここをどくよ」
「あぁ、いいぞ。平民のお前と高貴な公爵家の俺が戦ったらどうなるか、火を見るより明らかだよなぁ? 雑魚の平民のお前が負けだ」

 シャルアが剣をハルクに向ける。

「だ か ら、お前達は今すぐどけ!」

 シャルアがとんでもない事を口にした。

「そうだそうだ!」
「雑魚共は引っ込んでろ!」

 一組の生徒達が捲し立てる。
 その時、シルフィがシャルアの前に出た。

「一度だけ、私と剣を交えていただけませんか?」
「ちっ……さっきの約束を反故ほごにするのか?」
「もしかして、貴方は女の私に剣で勝てないのですか?」

 ちなみに、シルフィは現時点で剣術の成績が学年で二位だ。
 シルフィに勝てる者はこの学年に一人しかいない。

「ちっ……ここは俺達の場所だ! 早く出て行け!」
「あれだけ偉そうに言っておいて私に勝てないのね?」
「よかったら、城に来ない?」

 レイシアがそんな事を口にした。

「私達なんかがいいのですか?」
「だって、練習場所が無いからね。中庭の独占は校則違反なのにね……貴方達、この意味が分かるよね?」

 レイシアが可愛らしい笑顔を浮かべながらそんな事を口にした。
 その瞬間、一組の生徒達(主にシャルア)は背筋が凍るような錯覚に襲われた。

「「申し訳ありませんでした!」」
「どうぞお使いください!」
「半分だけ空けてくれればいいからね?」

 結果、北半分を二組が使うことになった。

(シルフィ・クリネアル……俺に恥をかかせたこと、覚えてろよ……)

 シャルアがシルフィに殺意を覚えたが、それを知る者はいない。
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