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第1章 平和な日常

夢の貴女と嗤う貴方

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 もう、痛みなんてなくなった。
 何度も何度も切られても、何度も何度も殴られても平気だった。

 だが、まだ体に巻かれる鎖を解く手段はないし、アイツらを殺すために生きる希望が湧いたと言っても体が急に強くなった訳じゃない。

 どうするか、と自分で自分に問う。

 その時だった。
 鈍器で頭を殴られるような痛みが頭を支配する。
 またこの感覚か。拷問の最中、何度かこと痛みが来たことがあった。
 この痛みは過去にも変な夢を見たあとになったものと同じだ。

 歯を食いしばしその凶暴な痛みに耐える。
 ······痛みは随分薄れて疼く程度にとどまり、潮が引くように消えていった。

『──かわいそうに』

 夢の中で聞く声と同じ、甘く澄み透った声が頭に響く。

『──体も心もボロボロ』

 その声を通じて俺の心まで悲しみの底に連れ込まれそうになる不思議な感覚。
 今にも泣きそうな声で言った。

『──私が力をあげる』

 黒い霧のような物が俺の体から這うように出てくる。

『──さぁ、私の名前を呼んで』

 黒い霧は人のような形を形成する。
 足ができ、腕が出てくる。
 最後に頭、髪、顔が姿を現す。
 着ている漆黒のドレスは、よく見ると霧が流動しているように見える。

 スラリと伸びた白い手足はまるで傷一つない陶器のようで、こちらを見詰める瞳は淡い影のような柔らかな灰色。
 処女雪のような穢れなき白い髪。
 ただただ、白いと表現することしか出来ない、人間離れしたような綺麗な女性。


「お前の、名前は?」
『私の名前は────』



ーーーーーーーーーーー



「おい、お前の廃棄が決まったぞ? 喜べよ、死にたかったんだろ?」

 マドラは俺を閉じ込めている部屋に入り、開口一番そう言った。

「今日は2人でイジメにきたんだぜ? よかったな、これで寂しくねーぞ? 最後の最後まで産まれて来たことを後悔しろ」

 だが、マドラが脅すようにそう言っても俯いたままだった。
 髪は垂れ下がり、表情は伺えない。
 グラは前髪を無造作に掴みあげて、顔を自分たちに向けさせる。

「聞いている···の······か······?」
「お、お前······!」

 顔を見た途端、震え出すマドラ。グラも同様に顔面を真っ青に変えていた。

 ━━嗤っていた・ ・ ・ ・ ・。それはもう楽しそうに。
 その表情はまるで、底の見えない谷の闇を除くように恐ろしかった。

「ギャーギャー騒ぐなよ、小物」
「なっ!? ガキが、どっちが立場が上かわかってんのか! そのまま惨めに死ね!!」

 マドラは懐から短剣を取り出した。
 柄を逆手に持ち、俺の頭部目掛けて突き刺そうとする。

「来い、──色欲の霧ラストミスト」

 その名・を呼んだ瞬間、俺の体は黒い霧に包まれた。

 マドラの短剣を持った手は、全力で振ったことにより止まらない。
 短剣は腕ごと俺をを包み込んでいる霧に触れる。

 霧に触れた先から、短剣は音も無く消え去っていく。
 その短剣を握っていた腕すらもなだらかな断面を晒し、綺麗に無くなっていた。

 ─────ブシュッッッ!!

 思い出したかのように、遅れて腕の断面から血が噴き出す。

「んぎゃああぁぁあ!!?」
「マドラ!?」

 腕を抑えながら倒れ込むマドラを受け止めるグラ。

 霧から頭を出す。
 俺の顔はもう嗤ってはいなかった。
 使われなくなった人形のような、無表情。

 体に纏った黒い霧は、そのままフードのついたローブの形になった。
 サラサラと漂うような漆黒のローブを着た、俺の体は際ほどとは打って変わって、白いとしか形容できなかった。




-----------------------------





『私の名前は──魔剣 色欲の霧ラストミスト』
「魔剣? 意志を持った魔剣か?」
『私達を知っていらしたのですね。そうです、私は七魔剣の1つです』
「その魔剣が、なんで俺の所に?」

 1番気になっていたことを聞いた。
 ただの村人ごときにこうも接触してきたのか分からない。
 コイツが本物かどうかは知らないが、一応、本物の色欲の霧ラストミストという体で話を進める。

『······最初は綺麗で歪だと思ったです。男の子なのに可愛らしい女の子ような容姿、見た目は子供なのに魂は青年。綺麗で歪、それが貴方を気に入った理由でございます』
「そんなちっぽけな理由だったのか。魔剣なんて仰々しい名前の割に、案外、誰の手にでも渡る尻軽なんだろ」
『ち、違うもん! 私が選んだのは、あなたが初めてだもん! ······あっ』

 少しびっくりした。
 てっきりいつも、丁寧な喋り方してるのかと思ってた。

「······それが素なのか?」
『·········。はぁ、もういいわ。威厳とかそういうのを見せるために口調を変えてたけど、あの喋り方って疲れるしね』
「そっちの方がいいな。付き合いやすいし好きだ」
『っ! そ、そう? なら別にこのままにしてあげなくもないけど?』

 なんなんだ、コイツ。
 見た目と違って口調がまったく一致していない。

『とりあえず話を戻すわね。······今、3人組の内の2人がここへ向かって来てる。このままじゃ、貴方は何も成せずに殺されるのが目に見えてる』

 そうだろうな。
 この鎖に繋がれたまま、嬲り殺される。

「そこで俺に、お前を受け入れろと?」
『そう。私を受け入れれば貴方に力をあげる。もう、敵を敵と見ない、圧倒的な力を』

 どこかで聞いたことある言葉だな。
 ……思い出した、魔術の儀式の時か。

 悪くないどころか気に入った。ここでその言葉を出すか。

「わかった、お前を受け入れる」
『え? ここはよく考える所じゃないの? デメリットの事とか考えないの?』
「いや、お前が気に入った。ましてや、今の俺に出来ることなんて無いからな······ていうかデメリットあるのか?」
『ええ、1つだけあるわ』
「どんなデメリットだ?」

 魔剣のデメリットとはどんなものなのだろう。
 すると、白い女は伏し目がちに、

『それは······ねぇ待って。聞いても······嫌いにならない?』
「早く言えよ。アイツら、もう向かってんだろ?」
『う、うん。デメリットは、ね······私と同化するから髪や色素が薄くなって真っ白になるの。私と同じように』
「は? それだけ?」
『それだけって何よ! 嫌じゃないの!? こんな真っ白な髪よ!? 私はこの髪色嫌い!』

 綺麗な色なのに勿体ないな。
「綺麗な色なのに勿体ないな」
『え?』

 口に出ていたか。まあいい。
 実際にとても綺麗だ。俺に似合うか分からないが、こんな色を嫌うのは我侭ってものだろう。

「そんな綺麗な色だったら甘んじて受け入れよう」
『ふふふっ、そっか。わかったわ。じゃあ、私を受け入れてくれるのね?』
「ああ、受け入れる。どうすればいい?」
『簡単よ、私の名前を呼んでくれれはいいだけ』
「わかった。そういやメリットは?」
『魔剣わたしの所有権が手に入る。まぁ、私と言っても通常は実態の無い剣。だけど、名前を呼べば貴方の手にすぐ現れ、離せば霧散する。それが一つ目のメリット』

 魔剣は通常、形は無いけど呼べば形になって現れる。
 離せば霧散するという訳か。かさ張らなくていい。

 簡単に言えば口笛を吹けば走ってくる犬か。忠犬、こんな言葉が浮かんだ。

『そして二つ目ね。私が今、纏ってるこのドレス。これはね、自分の許可しない相手や物体が触れようとすると、触れたその先から霧になって消えるの。ちなみに形は任意よ。だけど、服の形にしかならないけどね』

 それはいいな。
 ドレスは嫌だからローブとかかな。
 さすがにこの顔でドレスは似合わなくはないだろうけど、俺の精神衛生上よくない。

『そして、最後のメリット』
「まだあるのか?」
『ええ、これが魔剣たる所以ね。1つ目で言ったけど通常、実態はないわ。だけど、呼び出した時は剣の形をとってるんだけど、形を変えることができるの』
「形を変える? 剣の種類が変わるのか?」
『いいえ、貴方が思い描く武器になら何でもなる。だけど銃とか構造が細かいものは無理ね』
「それはいいな。······ん? なんで銃を知ってる?」
『あ、あ~、え~っと······?』
「お前、俺の中にいながら俺の記憶を見たのか?」
『ギクリッ!! い、いいじゃない! 減るもんじゃないし!』

 こいつ逆ギレしやがった。
 ってかギクリとか言うやつ初めて見たな。
 まあ、見られても恥ずかしい事は······無いとは言いきれない。

「······とりあえず、剣以外にも形を変えられるんだな。槍とか斧とかにも?」
『え、ええ、そうよ。頭でイメージするだけでその形になるわ』
「わかった。そういえばアイツらはあとどのくらいで着く?」
『あっ、忘れてた! って、もうドアの前にいるじゃないの! ······ま、私の声は貴方にしか聞こえないんだけどね』

 ふっ、忘れてたってなんだよ。
 かわいそうだから力をくれるって言ったのはお前のくせにな。
 本当に最後の最後まで面白いやつだ。

『え、えーっと、もしかして笑ってる?』
「なんでもねーよ」

 下を向きながら、俺は笑う。




 腕が無くなり血が滝のように吹き出しているマドラに一瞥もくれず、自分の視界に入る垂れた前髪を見ている。

 あの女と全く同じ色だな。後でちゃんと見てみるか。

 体がすっぽりと入る大きさに調整した黒い霧のローブを見る。
 服としての機能はちゃんと果たしているようだ。これも後でいろいろ試してみたい気持ちに駆られるが。

「な、何をした! それになんなんだその格好! 髪の色も急に変わりやがった······何をしたか言え!」

 と、グラがいつも寡黙さとは違い、焦った様子で叫んでいた。
 こんな奴らに言っても理解なんてできないだろうし、得もない。ましてや教える義理すらない。
 だから俺は、馬鹿にするように顔を歪め、

「お前の足りない頭でよ~く考えろ」

 誰にでもわかるような嘲笑を浮かべる。
 まぁ、考えたとしても到底わかるわけないんだけどな。
 そんなことよりまずは邪魔なものから消そう。
 確かあの女は自分の許可しないものをこの霧が消すって言ってたな。
 とりあえず俺以外は何も許可しない。

 すると、俺を縛り付けている椅子や鎖が霧散して消えた。
 調整はまだ難しいが、これはいいな。
 何ヶ月か振りに自分の足で立った。
 無駄な肉は消費され、筋肉も衰えている。
 満足に身動きすら取れず食事の量や栄養さえも足りないのだ。無理も無いだろう。

 後は手が無いのが不便すぎる。
 ふと、あることを思いついたので試してみる。

 肘から先がない腕を前に伸ばし、そこから先をローブに這わせる。長袖に腕を通すイメージをした。

 ······よし、成功だ。
 肘から手首があった場所まで黒い霧に覆われた。
 次は少し屁理屈かもしれないがやってみるだけの価値はある。

 イメージを開始すると、どんどんと黒い霧が手の形を作り始める。
 指の形まで精密に作られた黒い霧を見ながら黒い霧で作られた箇所を動かす。

 イメージしたのは手袋だ。
 手袋は衣服の類に入るのか、と疑問だったが成功したようだ。
 拳を握ったり開いたり動かすが、なにも支障はない。
 だが、問題を先送りにしただけだ。

 ここから抜け出して街へ行ったとしても、流石にこの格好は悪目立ちする。
 もし、このローブの存在を知っている奴がいたらめんどくさいったらないしな。

 指や腕を動かしていると、少し落ち着いたのか血を流しすぎて顔色が悪いマドラを見る。
 隣には顔をトマトのように真っ赤にさせて憤慨するグラを見やる。

 ふむ、コイツは要らないな。

 グラの左胸に目掛けて手を伸ばす。
 咄嗟に動いた俺に反応できないでいたグラは、そのまま伸ばした貫手で左胸を貫き、引き抜く。

 唖然とするグラはシャバシャバと音を立てる自身の左胸を見た。
 そこにはあるはずの無い穴があった。
 その何も無いその穴を深々と見てしまった。

「は······?」

 呆けた声を出し、意味がわからないと言った表情で静止した。
 そして、ゆっくりと後ろに倒れた。
 グラは最後の最後まで意味がわからず死んでいったように思えた。惨めだ。

 うむ、人を殺しても何も感じない。
 わかっていたことだが、なんとなく確認してみた。
 さて、確認は終了した。次はコイツの価値をこれから決めよう。

「なあ、俺の腕はどこだ?」

 一応ダメ元で聞いてみる。
 もし無いと言ったらコイツも用済みだ。後のことは後で考えよう。

「あ、ある! だから殺さないでくれ!!」

 細い目を必死に開けながら懇願してくる。
 聞いたのは俺だが……どうして俺の腕がまだあるのか、そんなことを疑問に思った。

 まあ、少し考えればわかることだ。
 どうせ拷問か何かに使うはずだったんだろう。
 しかし、腕が残ってるのは僥倖だった。

「さっさと案内しろ」
「わ、わかった」
「もし、これから少しでも変な動きしてみろよ? お前の家族、友人、恋人、全て無残に殺してやる」

 耳元で囁くように脅すと、青い顔をさらに真っ青にし首がちぎれんばかりに縦に振る。

 ドアを開けて出ると案の定地下だった。
 ここは何のための場所なのかある程度は想像ができた。
 コイツらのことを考えればこうゆう場所は必要だろう。

 腐臭が漂って鼻が曲がりそうな薄暗い通路を抜け、階段を上がる。

 外に出ると、そこは裏路地だった。
 ゴミなどがあちらこちらに捨てられており、"スラム街"という言葉が頭に浮かんだ。

 ここは······ドルドの街か?
 家から1番近いのはドルドの街だし、おそらく合ってるだろう。ま、表通りに行ったらすぐにわかる。
 マドラに先導させ、その後ろをついて歩く。

「よぉうマドラ~! 元気かぁ~?」
「あ、あぁ」

 知り合いと思われる男が話し掛けてきた。
 マドラはこちらの顔色をチラチラと伺いながら返事をしている。
 男はちらりとこちらを見て、投げキッスをしてきた。
 話が終わったのか、男はスキップしながら帰って行った。

 その後、何人かの知り合いがマドラへ話し掛けてきた。
 話し掛けた者達はもれなく俺にちょっかいを出すのだ。

 1人は肩を組んできたが、ローブの効果は常に俺以外は許可していないので、左肩から先を失った。

 別の1人は、俺を女だと勘違いしたのか胸を触ろうとしてきた。
 もちろん俺に胸など無い。男は両手首から先を無くした。

 その他もろもろ投げキッスをしてきた男以外、体のどこかを欠損させ、大量に血を流し、のたうち回った。
 もちろん自業自得なので、そのまま放置してきた。

 やはり、あの女の言った通りだったな。
 許可しないものはすべて消滅させる。

 十数分ほど歩くと、また地下への階段を下りた。
 同じような薄暗い通路を進むと、俺が拷問されていた場所によく似たようなところについた。
 マドラは迷いの無い手付きでドアを開け進む。

 中は隠れ家のような場所になっていた。
 4人がけのソファがあり、その奥の机が目に入る。
 机に散らばるのは腐りかけのような指や腕の骨。
 マドラは部屋の角に置いてあった包みを俺に渡してきた。

「こ、これだ。本当に済まなかった」
「開けろ」

 震える手で包を開く。
 中から、氷漬けにされた腕が出てきた。
 腐ってもいないし指が取れていたりもしない。
 断面は肉と骨が見える。

 氷漬けにされた俺の右手を黒い霧で作った義手で受け取る。
 火魔術を使い常温まで温め、しっかりと肉感が戻ったところで右腕のローブを解除し、肘の断面を出した。

 不自然に肉が盛り上がっている部分の肉を噛み、引きちぎる。

「───っ!」

 グチャグチャ、という音が鳴り響き、マドラは声にならない情けない悲鳴をあげる。

 机の物を全てどかして右手を乗せ、ちぎった肘の断面と右腕の断面を合わせて左腕で治癒魔術をゆっくりと掛ける。
 細胞を他の体の場所から持っていき、右肘と右腕の断面を細胞でくっつけるイメージ。

 逆再生するようにどんどんと治っていき傷が無くなり、完璧に元に戻った。
 手を開いたり閉じたりを繰り返す。動作に問題はない。
 もう反対の左腕も同じように治す。

 両腕が完全に治ったのを見計らって、マドラが震える声を抑えてながら口を開いた。

「へへへっ、よ、よかったな治って。そ、それじゃあもういいか?」

 手をすりながら俺に媚び諂せつらう様子で、帰って欲しそうに愛想笑いを浮かべた。

 ······コイツは十分やった。
 俺の両手を凍らせてくれていたしな。
 そのおかげで俺の腕はこうして治ったんだ。

「色欲の霧ラストミスト」
「━━うぐっ! あ、ああああぁ!」

 だからといって許すわけがない。 
 マドラに突き刺したまま、呼び出しに応じた紫紺の剣を観察する。 
 魔剣と呼ばれるわりに、思っていたよりも普通の剣。
 だが、刃に解読不明の文字がズラズラと書かれていた。

「ぐあぁぁっ!! ぬ、抜いて、くれぇ……!」

 えっと確か、イメージするだけで形が変わるんだっけか。

 早速やってみよう。
 まずは刃幅の広い大剣。
 すると、イメージした途端、一瞬で姿を変えた。

「ああああああああぁぁぁ!!」 

 ふむ、形を変えるときも魔力は使わないのか。
 じゃあ次。刃の大きさを変えられるのか、だ。
 刃だけ……刃だけだ……。

「ぎゃぁぁああああっ! し、死ぃ━━━」

 おお、見事に刃だけかなり広がった。
 む? ああ、そういえばサラムに突き刺したままだった。

 サラムの体は、上半身と下半身に別れてしまった。
 色欲の霧を剣の状態へ戻し、

「じゃあな」

 動かなくなったサラムの頭に突き刺した。

 俺は来た道を戻り、裏路地を抜け、人混みでごった返す表通りへと出てきた。

 久しぶりの太陽の光が気持ちいい。
 裏路地には一切光が入ってこないので、これが拷問部屋を出てから初めての陽の光だった。
 まるで湿っていた心が乾いてくような感覚を覚えた。

 っと、休むのは後にしなければ。
 今はまだやることがある。霧のローブを解き、薄汚い格好で周りを見渡す。

 ふむ、やはりここはドルドの街だ。色々と見覚えがあるものがちらほらと見える。

 人ごみを避けながら、街を家とは逆方向の森へ出る。
 森を少し進むと、近くにあった大きな木があった。
 それによじ登り、街全体を見渡す。

 そして一気に魔力を練り上げる。
 あの時と同じイメージをする。
 ドーブル共を、森を破壊したときの、あの魔術を。

 巨大な炎の玉を凝縮し、裏路地へ向けて発射。

 さっきまでいたマドラの隠れ家があった地下の入口に着弾する。
 あの時と同じように凄まじい音を響かせ、離れたここまで爆風が靡いていく。 

 裏路地は壊滅、全員即死と思われる。
 裏路地に面した表通りの場所も少なくない悲劇を受けている。

 人々は阿鼻叫喚し地獄絵図と化していた。
 もし、運良くサラムがこれで生きていたのなら泳がしておく事にした。いつかの計画のために。

 木を降り、グッ、と背伸びをする。
 さて、別の街へ向かうことにしよう。

 まずは力だ。圧倒的な、力が欲しい。
 ただ殺すだけではダメだ。
 それじゃあ、ニアはうかばれない。

「さて、この後はどうするかなー」

 ドルドの街の阿鼻叫喚が心地よく、太陽を見てにこやかに笑った。
 ──狂気に落ちれば落ちるほど、景色はより一層鮮やかに映る。


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