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第4話 俺は魔王の右腕······側にある頭部の角
しおりを挟む「いやー疲れた疲れた!」
「お疲れ、師門。やっぱり普通の高校生だった俺らより、毎日命懸けで戦ってた兵士さんたちの方が強いよな」
「ま、そこんとこは気合だろ」
夕日を背に2人の男──加賀谷誠司と鬼道師門は地べたに座り込んだ。
日が昇ってから落ちるまで、勇者として呼ばれた者達は訓練を受けている。
勇者が召喚された目的、それは魔王及び魔王軍、魔族を殲滅することである。
しかし、それはあくまで目標だ。
魔王の住む魔王城へ行くまでには苛酷な道のりが待ち受けている。
地形や天候による天災、強大な魔物を乗り切るための訓練だ。
「なぁガヤ、魔族と人族の違いってなんだっけ?」
「······お前、一昨日の座学聞いてなかったのかよ」
「バカバカ、俺くらいになると座学なんて聞かなくてもいいんだよ。······えーっと、あれだろ? 魔族は爪が黒いんだっけ?」
「それは亜人族な。魔族はもれなく瞳が緋色なんだよ」
「あー、そうそうそれ。つーか緋色って、何色?」
「簡単に言ったら赤色だな」
どんな種族でも見た目に大差はない。
しかし、区別を付けるとしたら亜人族は爪が黒い。
そもそも亜人族というのは遺伝子の突然変異で生まれた種族だ。
人族よりも高い身体能力に、何かしら動物の耳を持っている。
魔族は身体的特徴は変わらないが、瞳が緋色である。
身体能力は高くないが、こちらは長寿であり平均1000年以上は生きる。
数が少ないために寿命が伸びたと言われている。
「あ、そうだ」
師門はそう言いながら懐をまさぐった。
取り出したのは1枚のカードだ。
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名前:シモン・キドウ
性別:男
年齢:17
レベル:3
種族:人族
スキル:
特殊:身体硬化
称号:勇者
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「ちっ、こんだけやったってのに、スキルが増えてねぇ」
ステータスカードというのは文字通り、自分のステータスを示してくれるものである。
この世界に存在する生き物には《魔力》というものを保有している。
主に魔法を使用する際にこの《魔力》を用いるのだが、様々な用途で使用することができる。
このステータスカードも、魔力を流し込めば自動的に現在のステータスを更新してくれる。
「そっちはどうなんだよ。増えてんのか?」
「い、いや? 俺の方は全然だ」
「お前、なんか······」
「──お疲れ様、2人とも! はい、これどうぞ」
挙動がおかしい誠司に、師門が問いかけようとした時、九重美香がやってきた。
2人に差し出したのは水の入った革袋だった。
「さんきゅーな、美香。ちょうど喉カラカラだったんだよ」
「······はぁ、まあいいや。あんがとよ」
革袋をグイッと傾けて喉を潤すと、誠司は美香に視線を向けた。
「美香はどうだ? なんかステータス増えてたか?」
「うん、増えてたよ。ほら」
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名前:ミカ・ココノエ
性別:女
年齢:16
レベル:2
種族:人族
スキル:〈白魔法Lv1〉
特殊:天光の聖域
称号:勇者
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「その〈白魔法〉ってなんだ?」
「んーとね、試してみたら回復魔法だったよ。擦り傷とかすぐに治ったの」
「へぇ、そりゃいいな。今度怪我したら治してくれよ」
「うん! 任せて!」
誠司と美香のそんなやりとりを隣で聞いていた師門は、口いっぱいに砂糖を詰め込まれた気分になり「オェー」と唸った。
「そんじゃ、俺は城に帰ってるわ」
そう言って、師門は手をひらひらさせながら城へと戻っていく。
現在、勇者達はウェクラノク王城にて寝泊まりしている。
部屋もかなりの数があり、約600人を収容するには最適であった。
誠司と美香の密会は、日が完全に落ち切るまで続いた。
王城内部にある大浴場。
この時間帯は女子生徒達が使う番である。
しかし、現在は夜中であり、大浴場には1人の生徒しかいない。
「はふぅ~」
頭にタオルを乗せ、だらしない声を上げながら肩まで湯船に浸かるのは水野青葉である。
最近の楽しみは、こうして一番最後に湯船に浸かり、ゆったりと過ごすことであった。
訓練の時に作った、打撲傷が湯の温かさによく沁みる。
しかし、それがちょっと気持ちいいというのは誰にも言えない内緒でもある。
「ん?」
ペタペタと大理石を裸足で歩く音が聞こえる。
「こんな時間に誰が?」と思った直後、足音の主がやってきた。
「あれ? 青葉さん?」
姿を現したのは、咲人の妹──美咲であった。
体にタオルを巻いているが、胸の大きさは隠せずにその大きさがハッキリとわかった。
青葉は自分の控えめ・ ・ ・な胸を触り、少し落ち込みかける
「よかった、美咲か。男子かと思ったよ」
「あっ、ゆっくりしてるところごめんなさい! 時間ずらしますね!」
「いや、気にしないでくれ。どうせなら一緒に入らないか?」
美咲は少し迷ったような表情を浮かべたが、「それではお邪魔します!」と言って、体を洗い出した。
やがて、洗い終えると青葉の隣に腰を下ろす。
「あふぅ~、癒されますねぇ。どうして疲れた時の湯船ってこんなに気持ちいいんでしょうね」
「なんでだろうなぁ。はふぅ~」
2人はしばらく「はふぅ~」と「あふぅ~」の応酬を交わしていた。
「······咲人はどこにいるんだろうな」
口を開いたのは青葉であった。
一週間前、冬緒高校の生徒達が召喚された日から咲人の姿を見ていない。
いつもの4人は、咲人がいないということに慌てふためいた。
現在はみんな落ち着いているが、当時はとても酷かった。
誠司は焦って何も手がつかなくなり、それをなだめていた美香。
泣き出してしまう青葉に、日本に返せと神へ殴り掛かる師門とまさに阿鼻叫喚だった。
「お兄だけが日本に取り残されてりしたら、結構面白いですよね」
「ふふふ、それは笑えるな」
美咲も咲人がいなくなり、ショックを受けたうちの一人だ。
そのショックを乗り越えて、今ではこうして笑い話にできるほどに回復した。
「お兄は、ああ見えて寂しがり屋です。みなさんに会えなくて寂しがっていると思いますよ」
「なら、早く魔王を倒して日本に帰らねばな」
神から言われた「魔王を倒せば元の世界に返します」という言葉を信じて、勇者として召喚された者達は今日も、明日も頑張り続ける。
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雷が降り注ぐ城。
ここに来てからは、晴れているところを見たことがない。
断崖絶壁の場所に作られた城は、まわりに海で囲まれているため、攻め込むところが1箇所しかない。
これぞ、背水の陣を体現した建物だろう。
それが現在、俺の住んでいる魔王城である。
「ほーら、アルステイ。お食べー」
赤髪ツインテールのロリっ子は屈みながら、俺の前にエサ(わけわからん虫)をプラプラさせている。
見えっ、見えそうっ! あー、もう少しなんだけどなー。
あとちょっっっと屈んでくれれば、ロリッ子の小ぶりなお胸にあるTKBにご挨拶出来るのになぁ。
チラッ
あ、どうも勇者として召喚された花守咲人ハナモリサキト改め、『アルステイ』と名付けられましたヤドカリですぅ!
よかった。早口だったけど挨拶できたみたい。
こんな早口になったのは、流れ星見た時以来だ。
「うーん、これも食べないのかぁ。好き嫌いはダメだぞ? 大きくなれないんだぞ?」
それはお前だ。
どこをとは言わんが、もっと大きくしろスカーレットよ。
というか、そんなわけわからん虫なんて食うわけないでしょうが。
ここに来てから、みんなが俺の世話をしてくれる。
かっこいい甲羅を磨いてくれたり、一緒に寝てくれたり。
エサなんかは女性の部屋に連れてかれる時に、お菓子を食べて凌いできました。
とても幸せな日々です。勇者やめてよかったー。
「ただいまー。アルステイ、いい子にしてたか?」
お、俺のご主人様である魔王──ロストのご帰宅だ。
魔王はちょくちょく城を後にし、自分の持つ領地へ顔を出している。
おもに何かを不便なことや困ってることは無いかとか、人族がやってきて意地悪なことをしにきてないかとかを聞きに行っているらしい。
おちゃらけている風に見えて、やることはちゃんとやっているようだ。
「おお、魔王よ。お帰りなさい」
「あんがとなスカーレット。アルステイはエサ食べたか?」
「いいや、食べる素振りすら見せん」
「そっかぁ。スレイン大陸にある虫は、これで全滅だな」
スレイン大陸というのは魔族が住んでいる大陸のことだ。他の大陸は知らん。
「んじゃ、レイル大陸にアルステイも連れていくか。ついでに用事もあるしな」
「もしかして······あれか?」
「そうそう。ほんっと、嫌になるよな」
魔王は自嘲気味に笑った。
何の話だろう。
こんな魔王の顔を見るのは初めてだ。
「すぐに行くのか?」
「まあな。早くしないと可哀想だ。アルステイだって、お腹空いてるだろうし」
「しょうがない、私もついて行ってやる」
「いや、いいよ。お前弱いし」
「なっ!? 魔王に比べたら弱いに決まってるだろ!」
「なっはっはー! バーカザーコ!」
「このー! 待て魔王! 今日こそとっちめてやる!」
鬼ごっこしながら2人は部屋を去っていった。
俺、忘れられているんですが······。
と、思っていたら魔王が戻ってきた。
「悪ぃ悪ぃ、さて行こうぜ、アルステイ」
真っ黒な入り口──これは〈ゲート〉と呼ばれている。
それを魔王が作り出し、スカーレットと共に入っていく。
中を潜ると一本道しかない草原に飛び出た。
「それじゃ、しゅっぱーつ!」
「待て待て! 認識阻害のローブを忘れておるぞ! ほれ!」
「さっすがスカーレット! よっ、できる女!」
今の言葉のどこで琴線に触れたのか知らないが、スカーレットはポッと頬を赤らめた。
にしても認識阻害のローブか。
文字通りならば誰かわからなくなるって感じかな。
でも、ローブを羽織った2人は普通に認識できてるけど。
あ、でもスカーレットの気配?
みたいなのが薄れた気がする。
しばらく道を歩いていると(俺は頭に乗ってるだけ)、背後から馬車がやってきた。
人の良さそうな御者のおじさんが馬を止めて、こちらに話しかけてきた。
「おや、こんなところでなにしてんだい?」
「アーセルレイ公国に向かってんだ」
「おー、そうかい。良かったら乗ってくか? 俺も今からアーセルレイに帰るところなんだよ」
「んじゃ、お言葉に甘えて乗せてもらうとするか」
「そうしよう。ここからアーセルレイまでかなり距離があるしな」
魔王とスカーレットは馬車の中に入った。
中は案外綺麗なもので、布団を敷けば寝れちゃうくらいだ。
御者は2人が着席したのを確認すると、馬車を出発させた。
「2人は旅人かい? それとも冒険者かい?」
「旅人だ。兄妹でずっと国を回ってた」
どうやら兄妹という設定でいくらしい。
まあ、ローブのおかげで認識されないので、顔が似てないとかの齟齬が発生しないからそういう設定の方が楽だよね。
「へぇ、若いのに苦労してんだなぁ」
ふむ、ローブを羽織っていても"若い"ということは分かるらしい。
スカーレットと御者のおじさんは他愛のない話を続けている。
一方、魔王はというと、俺を頭から外して遊んでしまっている。
このおじさん、乗せてる2人が魔王と幹部って知ったら驚くんだろうなぁ。
と、そんなことを思っていると急に馬車が止まった。
「ま、まずいっ!」
焦燥感を孕んだおじさんの声が聞こえた。
前を見ると、これまた悪そうな奴らが道を塞いでいる。
全員がボロ布に近い衣服を身に纏い、短剣をペロペロと舐めていらっしゃる。
なにそれブームなの? と思うくらいにペロペロしてる。
「誰だあいつら? おっさんの知り合い?」
「ち、違う! この辺で最近噂されてる盗賊だ······!!」
御者のおじさんはダラダラと汗を流しながら青い顔をしている。
あれが盗賊なんだ。
もっと、モヒカンにトゲトゲ肩パットみたいなのを想像してた。
「俺達忙しいんだけど。あれ倒したら先に進める?」
「そりゃ進めるが······でも、アンタらただの旅人だろ!?」
「誰がた・だ・の・って言ったよ。ま、俺達に任せとけ」
「そういうことだ。御仁はそこで座っていてくれ」
そう言うなり、魔王とスカーレットは馬車から降りた。
盗賊達は肩で風を切り、ペロペロしながら近付いてくる。
「金目のもん寄越せや、あぁん?」
「ほら、出せって。俺のナイフちゃんで切っちまうぞ?」
ああ、やばい。
何がやばいってコイツらだよ。
だって、魔王とその幹部に喧嘩売っちゃってるんだよ。
「なぁ、退いてはくれないか? 私達は急いでるんだ」
「うっせーよガキ! お前らはここで死ぬんだ──よっ!」
盗賊は短剣を逆手に持ち、スカーレットの頭に振り下ろす。
スカーレットは剣の軌道からスッと外れると、盗賊に手を向けた。
直後、その手から黒い炎が生み出された。
「黒魔法第四位階黒炎の刻宴」
黒い炎は盗賊を優しく包み込み、激しく燃やす。
叫び声を上げながら、地面を転がり出した盗賊に仲間が水の魔法を浴びせる。
が、
「私の炎だ。そんな魔法で消せると思うなよ」
やっべぇ、初めてちゃんとした魔法見た!
スカーレットさん、めちゃくちゃかっこいいです!
おっ〇い小さくて可愛いとか思ってごめんなさい!
ふははっ、闇の炎に抱かれて消えろ!
「や、やべぇ逃げろ! コイツらただもんじゃねぇ!」
「うわぁー!!」
1人を除いて、盗賊達は尻尾を巻いて逃げていった。
その残った者は顔中に傷跡があり、屈強な体付きをした男だった。
おそらく盗賊団の幹部か親玉だろう。
強く強く握りしめる短剣を腰元に据え、魔王へ突進してきた。
「死ねぇぇぇぇえ!!」
「嫌だよ!?」
魔王がツッコミのように振るった裏拳は「パンッ!」空気を叩く音がした。
瞬間、男の首から先が弾け飛んだ。
鮮血と肉片が地面に飛び散り、地面に染みを残す。
《スキル:短剣術Lv1を獲得しました》
オエーッ。
マジでスプラッター映画の比にならねぇ。
グロすぎるからモザイクさん仕事して!
というか、まただ。
また、あの声が聞こえた。
このパソコンの自動音声みたいな声って何なの?
「やりすぎではないか?」
「だって、いきなりこっち来るからビビったんだもん」
「だもんじゃないわ。見ろ、アルステイなんか泡吹いてるぞ?」
「うおっ! アルステーーーイ!!」
いえ、この泡は意図せず勝手に吹いちゃうんです。
確かに気持ち悪かったけど、魔王とスカーレットの強さの一端が垣間見えた気がする。
戦いモドキを見ていた御者のおじさんは、お口をあんぐりとさせていた。
「あ、アンタら本当に何もんだ?」
「俺達はまお──んぐっ」
「こ、こちらがマオお兄様で私がカーレというんだ。旅人をしながら、傭兵もやってる」
あっぶねー。
なに普通に魔王とか名乗ろうとしてんだ。
「そうかいそうかい。それにしても助かったよ。さ、アーセルレイ公国に行こう」
この世界の住人は、あの惨劇を見てもなんとも思わないようだ。
驚いてたのは、2人の強さにだけ。
まあ、相手が悪人ということもあるだろうが。
再度、馬車に乗り込んだ俺達はアーセルレイ公国前に到着した。
応援ありがとうございます!
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