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蟲(こ)が動く
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それから俺たちは竜宮で待機することになった。
俺は早いとこあの大ムカデをやっつけてやりたかったんだけど、奴が動き出さないことにはどうしようもない。
保久はかなり怯えていた。小声で俺にささやいたんだ。
「藤太さん、いくらあんたでもあれは無理ですよ。蟲の巨大さも脅威だけど、背後に居る術者の霊力がハンパじゃない。ヤバすぎますよ」
これが勇者のパーティーだとすると、保久はなんと頼りない魔法使いなんだろうな。
もともと戦力としては、まったくあてにしてはいなかったんだが、情けないやつだ。
戦力といえば竜王ももはや戦える体ではない。
結局はこの俺がひとりで片をつけるしかないわけだ。
「保久、術者は霊力とともに体力も消耗するって言ってたろ。つまり持久戦に持ち込めば有利かもしれないな」
「ああなるほど、それはいえてるかも。しかしこちらも大ムカデの攻撃をそう長い時間はしのげないでしょう?」
ここで竜王が口を開いた。
「いままでの戦いのパターンだと、だいたい3~4分といったところですな。そこまで持ちこたえれば奴は三上山に戻ります」
「三上山に戻られたらまた振り出しになる。かといって奴を琵琶湖に沈めるわけにもいかない。それじゃ琵琶湖が奴の毒で汚染されて元も子もないからな。序盤でダメージを与えておいて、なんとか陸地側に引き付けてから倒してやる」
この俺の言葉を聞いた保久は、はじめて心底感心したように言ってたな。
「藤太さん、あんたには怖いものはないんですか?蟲の姿を見たのにぜんぜんビビってませんね。なんだかあんたなら本当に大ムカデをを殺せそうな気がしてきましたよ」
当たり前だ保久。お前は俺を見くびっていたんだよ。
俺は史上最強の武将にして、史上最強の妖魔ハンターだ。
この俺に怖いものなど何も無いんだ。
それから小一時間も経過したころだったろうか。
保久がガタガタと身震いをはじめたんだ。
「わわわ・・なんだこれ嘘だろ?・・藤太さん、とんでもない霊力が発動しましたよ。想像以上の強さだ・・陰陽寮の上役にもこんな強い霊力の持ち主はいません。これは最悪の霊力です」
ドラゴンボールで強敵のすごい気を感じて「最悪だよ・・おとうさん」と言ってる孫悟飯みたいだったな。
そして保久は俺の顔を見つめてこう言った。
「来ます・・蟲が動き始めた!」
俺はすぐに竜王の霊剣を腰に差し、日本一の強弓を手に持ち、矢筒を背負って外に出た。
そして瀬田の唐橋に向かって走った。あとに保久と竜王がつづく。
まだ日の落ちる時刻ではなかったのだが、空は真っ黒だった。
一面の黒雲で、ときおり稲光がひらめいていたんだ。
三上山の方角を眺めると、無数のたいまつが二筋連なってこちらに向かって来るように見えた。
まるで夜の戦で、敵軍がたいまつを持って迫ってくるような光景だった。
しかしよく見るとそれは大ムカデの無数の脚だった。
足の先っぽが燃え盛るたいまつみたいに光っているんだ。
その先頭には気味の悪いムカデの顔があり、両目がやはり赤く燃えている。
俺は矢筒から矢を一本取り出して、弓をキリキリと引き絞った。
俺は早いとこあの大ムカデをやっつけてやりたかったんだけど、奴が動き出さないことにはどうしようもない。
保久はかなり怯えていた。小声で俺にささやいたんだ。
「藤太さん、いくらあんたでもあれは無理ですよ。蟲の巨大さも脅威だけど、背後に居る術者の霊力がハンパじゃない。ヤバすぎますよ」
これが勇者のパーティーだとすると、保久はなんと頼りない魔法使いなんだろうな。
もともと戦力としては、まったくあてにしてはいなかったんだが、情けないやつだ。
戦力といえば竜王ももはや戦える体ではない。
結局はこの俺がひとりで片をつけるしかないわけだ。
「保久、術者は霊力とともに体力も消耗するって言ってたろ。つまり持久戦に持ち込めば有利かもしれないな」
「ああなるほど、それはいえてるかも。しかしこちらも大ムカデの攻撃をそう長い時間はしのげないでしょう?」
ここで竜王が口を開いた。
「いままでの戦いのパターンだと、だいたい3~4分といったところですな。そこまで持ちこたえれば奴は三上山に戻ります」
「三上山に戻られたらまた振り出しになる。かといって奴を琵琶湖に沈めるわけにもいかない。それじゃ琵琶湖が奴の毒で汚染されて元も子もないからな。序盤でダメージを与えておいて、なんとか陸地側に引き付けてから倒してやる」
この俺の言葉を聞いた保久は、はじめて心底感心したように言ってたな。
「藤太さん、あんたには怖いものはないんですか?蟲の姿を見たのにぜんぜんビビってませんね。なんだかあんたなら本当に大ムカデをを殺せそうな気がしてきましたよ」
当たり前だ保久。お前は俺を見くびっていたんだよ。
俺は史上最強の武将にして、史上最強の妖魔ハンターだ。
この俺に怖いものなど何も無いんだ。
それから小一時間も経過したころだったろうか。
保久がガタガタと身震いをはじめたんだ。
「わわわ・・なんだこれ嘘だろ?・・藤太さん、とんでもない霊力が発動しましたよ。想像以上の強さだ・・陰陽寮の上役にもこんな強い霊力の持ち主はいません。これは最悪の霊力です」
ドラゴンボールで強敵のすごい気を感じて「最悪だよ・・おとうさん」と言ってる孫悟飯みたいだったな。
そして保久は俺の顔を見つめてこう言った。
「来ます・・蟲が動き始めた!」
俺はすぐに竜王の霊剣を腰に差し、日本一の強弓を手に持ち、矢筒を背負って外に出た。
そして瀬田の唐橋に向かって走った。あとに保久と竜王がつづく。
まだ日の落ちる時刻ではなかったのだが、空は真っ黒だった。
一面の黒雲で、ときおり稲光がひらめいていたんだ。
三上山の方角を眺めると、無数のたいまつが二筋連なってこちらに向かって来るように見えた。
まるで夜の戦で、敵軍がたいまつを持って迫ってくるような光景だった。
しかしよく見るとそれは大ムカデの無数の脚だった。
足の先っぽが燃え盛るたいまつみたいに光っているんだ。
その先頭には気味の悪いムカデの顔があり、両目がやはり赤く燃えている。
俺は矢筒から矢を一本取り出して、弓をキリキリと引き絞った。
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