快傑!紅烏(ベニカラス) 蘇る大江戸ヒーロー伝

冨井春義

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第二章 桜吹雪の男

夜討ち朝駆け

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「鼬一家の奴らは、そんな汚ねえ手を使ってやがるのか?黒河豚以下の鬼畜だな」

松岡幸助宅に立ち寄った源三郎は、今日静音の身に起きた出来事を聞くと吐き捨てるように言った。

「静音に手を出そうとは、奴ら生かしては置けん」

日ごろ冷静沈着な幸助も今回ばかりは怒りに震えんばかりであるのだが、当の静音は案外と落ち着いていた。

「お兄様、物騒なことは言わないでください。静音は遠山様のおかげで無事だったのですから」

「うむ、そうだったな。遠山殿には改めて礼をせねばなるまい・・・」

幸助宅まで静音を送り届けてくれた遠山金四郎だったのだが、幸助は礼もそこそこに追い返してしまっていた。
静音の身に起きた出来事に幸助が動揺したのもあるが、いかにもやくざで二枚目の遊び人風の金四郎と妹の静音が、仲良く笑い合いながら帰って来たのが密かに腹立たしかったのだ。

「幸助、金さんは的矢の常連だ。俺からも礼を言っておくよ。お静ちゃん、無事でよかったな」

「ええ本当に・・・そうか、遠山様は浅草の的矢の常連なのね。。」

遠い目をしながらそう答えた静音を見て、源三郎は可笑しそうに言った。

「お静ちゃん、今夜はちょいと変だな」

「え、どこが?」

「お静ちゃんと呼ばないで・・って言わない」

「そ、それは・・・」静音は少し顔を赤らめた。

その静音の様子を見た幸助は、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。

「まあいいや。幸助、奥の間で少し飲まねえか?お静ちゃんは構わなくていいから休んでくれ」

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「さて幸助、どうするね?」

奥の間で幸助と二人きりになった源三郎は、早速話を切り出した。

「うむ、静音はたまたま遠山殿が通りかからねば奴らの毒牙にかかっていた。鼬一家がこのような悪どい手で罪も無い娘子たちを陥れているのなら、これは見逃すわけにはいかん」

博打場の借金のかたに娘を連れて行く黒河豚一家から踏襲した手口よりも、さらに強引な手口である。
なんの落ち度も無くとも、狙われた娘は逃れようがないのだ。

「一日見逃せば、それで何人かの娘たちが泣きを見ることになるからな」

「その通りだ源三郎。今回は源内先生の帰りを待つ余裕はない。一刻も早く鼬一家を根絶やしにする。清次郎だけは生かしてはおけない」

悪党いえども殺さないのが紅烏の掟なのだが、静音のことがあるので幸助の怒りは抑えきれないだろう。

「孫氏曰く、兵は拙速を聞く・・だな。しかし田村はどうするね?」

鼬一家は所詮は町奉行、田村兵庫の走狗そうくに過ぎない。
いぬならぬいたちをいくら退治したところで、後釜はいくらでも居ることだろう。
しかし今は火急の事態である。

「それは源内先生が帰ってからじっくり策を練ってもらおう。まずは足元の火を消すことだ」

幸助の言葉を聞いた源三郎は刀の柄を叩いて言った。

「よしわかった。夜討ち朝駆けで行こう。明朝、日の明けねえうちに鼬一家に斬りこむ。おめえは空から、俺は路上からだ」

幸助も刀を手に取り、柄を叩いた。

「源内先生には怒られるかもしれんが、久々に腕が鳴るな。冨井流の刀の冴えを鼬の清次郎の冥途への土産にくれてやろうぞ」
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