快傑!紅烏(ベニカラス) 蘇る大江戸ヒーロー伝

冨井春義

文字の大きさ
上 下
8 / 29
序章 紅烏登場

世直し

しおりを挟む
夜半過ぎ。
源三郎は松岡幸助の自宅にようやく到着した。
扉を数回叩く。

「おい!幸助は帰ってるか?」

扉を開けて蝋燭台を手に持った静音が顔を覗かせる。
源三郎の姿を見て少し驚いた様子だ。

「源三郎さん、こんな時間に何なの?そのおかしな恰好は?」

「ああこれか?最近、軽業の仕事を始めたんだよ。それより幸助はどうしている?」

静音は少し憂鬱な表情を浮かべた。

「それがお兄様の様子が変なの。汚い着物を着て帰って来るなり『疲れたから休む』って部屋に入ったんだけど、青白い顔をして病気みたい。心配で部屋に入ろうとしたら怒るのよ」

「そうか、わかった。俺が様子を見るからお静ちゃんは心配するな。邪魔するぜ」

ずかずかと家に上がり込む。

「幸助、俺だ」

「ああ、源三郎。ご苦労だったな、入ってくれ」

奥の間に入ると、幸助は柱にもたれて足を延ばして座っていた。
上半身は着物をはだけている。
畳の上には何やら薬瓶が数種類置かれていた。

「怪我の様子はどうだ?」

「今、傷口を焼酎で洗ったところだ。お前が血止めをしてくれて助かったよ。血止めがもう少し遅ければ危なかった」

「あれだけ出血してそれで済むなんて、おめえはバケモンだよ。その薬はなんだ?」

「これは知人の蘭方医から貰った薬だよ。化膿止めと血を増やす薬だ。とてもよく効く。すまんが包帯を巻いてくれ。静音に傷を見られたくないのでな」

源三郎は幸助の腕に包帯を巻きながら言った。

「この長ったらしい羽織、見た目より軽くて動きやすい。いったい何の生地で出来ているんだ?絹では無いな」

「ふふふ・・・初の紅烏の仕事は上手くいったかえ?その羽織は普通は刀で切れない防刃羽織だったんだがね、お前は簡単に斬っちまうからこのザマだよ」

包帯を巻き終わると源三郎は紅烏の羽織を脱ぎ、両手で拡げて眺めた。

「防刃羽織?こんな妙なもん、どこで手に入れた?」

「本来は秘密なんだが、ここまで知られちゃ黙っていても意味ないな。お前を見込んで話すが、内密だぞ・・静音にもな」

「むろんだ。話せ」

「その羽織を作ったのは平賀源内先生だ」

「平賀源内だと!?」

その名は源三郎も聞き及んでいた。
不思議なからくりや、稲妻を起こす箱を作ったという奇人の学者である。

「あの源内が紅烏の道具をこさえているってのか?おめえは平賀源内と組んで一体何やらかそうとしてるんだ?」

「ふふふ・・もちろん世直しだよ。ここまで知られたからにゃ、お前にも手伝ってもらうぞ、源三郎」

その言葉を聞いた源三郎は羽織を畳に放り出して言った。

「俺は世直しなんて柄じゃねえし、そんな善人でもねえ。俺は黒河豚一家にはした金で腕を売った外道だぜ」

「訳ありだと言ってたな?お前のことだ、誰か人助けのためなんだろう?」

長年の親友である幸助には源三郎の心根が手に取るようにわかる。

「源三郎、俺たちと組め。腐った外道どもを江戸の町から一掃してやろうぜ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

蘭癖高家

八島唯
歴史・時代
 一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。  遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。  時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。  大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを―― ※挿絵はAI作成です。

拾われ子だって、姫なのです!

田古みゆう
歴史・時代
南蛮人、南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ! お江戸の町で与力をしている井上正道と、部下の高山小十郎は、二人の赤子をそれぞれ引き取り、千代と太郎と名付け育てることに。 月日は流れ、二人の赤子はすくすくと成長した。見目麗しい姿と珍しい青眼を持つため、周囲からは奇異の眼で見られる。こそこそと噂をされるたび、千代は自分は一体何者なのだろうかと、自身の出自について悩んでいた。唯一同じ青眼を持つ太郎と悩みを分かち合おうにも、何かを知っていそうな太郎はあまり多くを語らない。それがまた千代を悶々とさせていた。 そんな千代を周囲の者は遠巻きに見ながらも、その麗しさに心奪われる者は多く、やがて年頃の千代にも縁談話が持ち上がる。 しかし、当の千代はそんなことには興味がなく。寄ってくる男を、口八丁手八丁で退けてばかり。 果たして勝気な姫様の心を射止める者が、このお江戸にいるのかっ!? 痛快求婚譚、これよりはじまりはじまり〜♪

腐れ外道の城

詠野ごりら
歴史・時代
戦国時代初期、険しい山脈に囲まれた国。樋野(ひの)でも狭い土地をめぐって争いがはじまっていた。 黒田三郎兵衛は反乱者、井藤十兵衛の鎮圧に向かっていた。

江戸の夕映え

大麦 ふみ
歴史・時代
江戸時代にはたくさんの随筆が書かれました。 「のどやかな気分が漲っていて、読んでいると、己れもその時代に生きているような気持ちになる」(森 銑三) そういったものを選んで、小説としてお届けしたく思います。 同じ江戸時代を生きていても、その暮らしぶり、境遇、ライフコース、そして考え方には、たいへんな幅、違いがあったことでしょう。 しかし、夕焼けがみなにひとしく差し込んでくるような、そんな目線であの時代の人々を描ければと存じます。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

竜頭

神光寺かをり
歴史・時代
幕末の信州上田藩。 藤井松平家の下級藩士・芦田家に、柔太郎と清次郎の兄弟が居た。 兄・柔太郎は儒学を学ぶため昌平黌《しょうへいこう》へ、弟・清次郎は数学を学ぶため瑪得瑪弟加塾《まてまてかじゅく》へ、それぞれ江戸遊学をした。 嘉永6年(1853年)、兄弟は十日の休暇をとって、浦賀まで「黒船の大きさを測定する」ための旅に向かう。 品川宿で待ち合わせをした兄弟であったが、弟・清次郎は約束の時間までにはやってこなかった。 時は経ち――。 兄・柔太郎は学問を終えて帰郷し、藩校で教鞭を執るようになった。 遅れて一時帰郷した清次郎だったが、藩命による出仕を拒み、遊学の延長を望んでいた。 ---------- 神童、数学者、翻訳家、兵学者、政治思想家、そして『人斬り半次郎』の犠牲者、赤松小三郎。 彼の懐にはある物が残されていた。 幕末期の兵学者・赤松小三郎先生と、その実兄で儒者の芦田柔太郎のお話。 ※この作品は史実を元にしたフィクションです。 ※時系列・人物の性格などは、史実と違う部分があります。 【ゆっくりのんびり更新中】

処理中です...