上 下
15 / 35

松村宗棍との初対戦

しおりを挟む
「松村宗棍、あんた何しにここに来た?」
 チル-が厳しい顔で問いかけた。

「いやあ、たまたま近くを通りかかったら、君が嫁取りの掛け試しをやってると聞いたから、ちょっと観にきたのですよ。ついでに先日の非礼を詫びようと思ってお声掛けしたんです」

「ついでですって?あんた、私がようやくたどり着いた仇を打とうとしているのを邪魔しといて、ついでの詫びで済むと思ってるわけ?」

 チル-のとても不機嫌な様子に松村宗棍は、申し訳なさそうに頭を下げた。

「理由も尋ねずに邪魔したのは本当に悪かったです。しかしどうしても目の前で人が傷つけられているのを黙って見過ごせない性分なもので、ごめんなさい」

「あたしは今日もふたりほど人を傷つけたよ。それは黙って見ていたでしょ」

「今日のは武士どうしの試合ですからね。こないだとは違います」

 松村宗棍の言い分は理に適っている。しかしそれがチルーの癪に触るのだ。

「まったくもう。口の達者な男って大嫌い」

 その言葉を聞いた松村宗棍は、少し悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「あの、じやあ参考までに大嫌いじゃない男って、好きな男ってどういう男かな?」

(・・え?)

 今の今までチルーは考えたこともなかった問いである。

「えっと、それは・・・いいえ、男なんてみんな大嫌い!」

「それはどうして?」

「それは、琉球には本物の男が居ないからよ!力で女や弱い者を従わせようとするクズしか居やしない」

「でも君も力で男をねじ伏せているよ。それじゃやってることは君の嫌いな男と一緒じゃないかな」

 本当にいちいち癪に触る男だ。チルーは我慢の限界だった。

「あんたペラペラとよく喋るね。武士なら拳で語りなさい」

 そういうと同時にチルーは素早いテージグン(正拳)を松村の顔面に突き込んだ。
 松村はその突きを難なく掛け手で受ける。

(八加ニ帰八はさせない!)

 チルーは逆に松村の腕を掴んで動きを制し、右足の爪先を松村の脇腹目掛けて蹴り込んだ。しかし松村は軽く膝を上げて、この蹴りも難なく防いでしまう。

 まだ残っていた見物人たちが騒ぎ出した。

・・・なんだあの若造は?

・・・与那嶺チルーと互角に戦っているぞ。

(互角なんかじゃない・・!)

 チルーにはわかる。松村宗棍はまったく本気を出してはいない。

「あんた本当に大嫌い!そういうナメたことやってるなら、こっちは殺し技でいくからね」

 怒ったチルーは両拳をコーサ-(一本拳)に握り直し、左拳の甲を下に左脇に引き、その上に右拳の甲を上にして重ねた。
 大島クルウより伝授された極秘伝の必殺技、虎の手の構えである。しかしそのとき。

「ああ、ダメだ。チルー止めなさい。そちらのあなたも拳を収めて」

 チルーの父親がふたりの間に割って入った。

「お父様、邪魔しないでください」  

 チルーが叫ぶ。

「邪魔ではない、これは嫁取りのウガンジュだぞ。戦うなら作法を踏んでもらわねばならん。そちらのお方」

「あ、はい、私ですか?」

 突然、話を振られた松村が慌てて返事した。

「チルーと戦うなら身上書を添えて正式に求婚してください。ただし私どもは地頭代を任されている家柄ゆえ、親雲上以上の身分の方に限らせていただいております」

「はあ、まあ私、いちおう松村親雲上宗棍ともうしますが」

「ああでは問題ありません。私どもまで身上書を届けてください。掛け試しは後日改めてということで」

 父の言葉を聞いて、今度はチルーか慌てた、

「ちょっと父上、その男はそういうんじゃないんです」

「黙りなさい、ここは神域だぞ。作法に外れる争いは許されん。松村様、あなたもそれでよろしいですかな」

「ああ、はい。では明日にでも身上書を持って参上いたします」

 チル-は唖然とした。

「ちょっと・・松村宗棍。あんた、何言ってるかわかってるの?それ、あたしに求婚するってことだよ」

 松村宗棍は軽く頭を掻きながら応えた。

「うん。駄目かな、私が求婚したら」

「な、なんで・・」

 チル-はなぜか顔が熱くなるのを感じた。もし赤くなっているなら見られたくないので、そっぽを向いた。

「ではこれで私は失礼いたします」

 松村は深々とお辞儀をすると、背中を向けて去って行く。チルーはしばらくその背中を呆けたように眺めていた。

・・・やれやれ、今日はここまでみたいだな、

・・・しかし、与那嶺チルーとあの松村とかいう若造の掛け試しは見物だぞ。

・・・松村がチルーをものにするか?チルーが松村を倒すか?賭けるか。

 口々に勝手なことを言い合いながら、見物人たちも去っていった。

-----------------------------
 次回予告
-----------------------------
 なぜかチルーへの求婚者に名を連ねる事になった松村宗棍。

 しかしチルーと戦う気はないという。

 真意を問い詰めるチルーに、松村宗棍は彼の生み出した独自の拳法「カラテ」について語る。

 琉球におけるカラテの誕生にまつわる秘話となる

 次回「カラテの始まり」ご期待ください!

★面白かったらお気に入り登録で応援お願いいたします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ようこそ、悲劇のヒロインへ

一宮 沙耶
大衆娯楽
女性にとっては普通の毎日のことでも、男性にとっては知らないことばかりかも。 そんな世界を覗いてみてください。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

処理中です...