94 / 115
プノンペンでの仕事
しおりを挟む
私は一人で見知らぬ国に行ったりするし、ガタイもでかいし、空手をやってたとかのイメージから度胸のある男だと思われることが多いのですが、実は(謙遜ではなく)かなりのチキンなのです。
暴力や喧嘩、血を見ることなど大嫌いですし、怖い顔でにらまれたら目をそらします。
今回からのお話はその辺をふまえた上でよんでいただきたいのです。
でないと、つまらないケンカ自慢みたいな話になってしまいますので。
・・・・
バンコクから飛行機で1時間余り・・・あっというまにカンボジアです。
私にとって意外だったのは、カンボジアに行くツーリストは以外に多く、日本人もちらほら混じっていたことです。
スリランカですら日本人の個人旅行者などほとんど見かけず(サトミ一人にしか会わなかった)やはり内戦の影響かと思っていたのに、もっとヤバイはずのカンボジアに旅行に行くというのはどういう神経なんだろうと思いました。
乗合タクシーでプノンペン市内へ・・高層建築がほとんどなく意外にきれいな街並に見えました。
中心部に位置する安ホテルに宿をとりましたが値段のわりには清潔で従業員の態度もよく気に入りました。
ホテルの一階にあるオープンレストランで食事をとります。
メニューがびっくりするほど多く、しかも安くてウマい!
・・・なんだ。プノンペンけっこういいとこじゃん。
こういう風にすぐ油断するのが私の悪い癖です。
さて、このレストランの壁に何か日本語の印刷物が貼ってあります。
なんだろうと思い読んでみると日本大使館から旅行者への注意事項でした。
内容はこんなかんじ。
『プノンペン市内では旅行者を狙った強盗事件が多発しております。夜間の外出は控えてください。犯行には実際の銃器が使用されていますので被害にあっても決して抵抗しないでください』
私はこの注意事項をしっかり胸に刻んでおこうと思いました。
バンコクでサトミと再会する前に命を落としでもしたら、シャレになりません。
「プノンペンて女性が多いとおもいませんか?」と中田さん。
・・言われてみると女性が多い・・というより男性がすくないような。
「多分、ポルポト派が男をたくさん殺しちゃったから男女の比率が狂ってしまってるんですよ」
・・・そうなのか。
しかしそのような事は中田さんに言われなければおそらく私はまったく気がつかなかったでしょう。
ホテルの従業員は男性だし、ホテル周辺にたむろするバイクタクシーの運転手も男性です。しかし市内を見回すとたしかに女性が多いのです。
・・・その点にいちはやく気づく中田さん・・・ただものではない。
さきほどまで私は物売りのおばさんの笑顔や、意外ににぎやかで活気のある街に目を奪われていましたが、中田さんの話を聞いてあらためて見てみるとここにはかつてこの街を襲った・・そして今も続いている恐ろしい暴力の爪痕がいたるところにしるされていました。
「ま、それはともかく仕事しましょう」気をとりなおしてプノンペン中央市場へ。
ここでの私のおもな仕事は中田さんが買い付けをはじめると群がってくる物乞いを追い払うこと。
私はスリランカで物乞いには慣れきっていました(スリランカの物乞いは、あのインドをくぐってきたベテラン旅行者ですらひるむしつこさです)
・・が、ここの物乞いは手足のない人・・軍服を着た傷痍軍人・・などが多く胸が痛みます。しかし感傷的になってばかりはいられません。仕事は仕事。
中田さんは商品をきびしくチェックしてめぼしいものがあると徹底した値切り交渉をはじめます。
これが長い!店のひとが「帰れ!」と怒り出しても自分の言い値をなかなか譲らない。
だからこそ中央市場ただ一個所の買い付けに5日間もの日程を組んだわけです。
バイヤーという職業は、一見すると普通のバックパッカーと見分けがつかない人が多いのですが、実はその懐には常に大金を忍ばせているわけです。
したがってバイヤーであることが知られると狙われる危険があります。
中田さんが私をボディガードに雇ったのはそういう事情からなのです。
同業者のあいだでも「中田が通ったあとには草一本残らない」と恐れられる中田さんの仕事は、着実に成果をあげています。
私たちは毎日ホテルのレストランで朝食後、中央市場へ行き夕方まで仕事して、日が暮れないうちにホテルに戻り夕食を食べたりビールを飲んだりして1日を終えるというスケジュールでした。
三日目の夜ホテルのレストランで夕食を食べながらのミーティング。
「今回はわりと早く仕事が片付きました。トミーさんのおかげです。明日はどこか遊びにいきましょう」
「本当ですか。でもプノンペンて何があるんですかね。そこらにいる日本人の旅行者にでも聞いてみましょうか?」
暴力や喧嘩、血を見ることなど大嫌いですし、怖い顔でにらまれたら目をそらします。
今回からのお話はその辺をふまえた上でよんでいただきたいのです。
でないと、つまらないケンカ自慢みたいな話になってしまいますので。
・・・・
バンコクから飛行機で1時間余り・・・あっというまにカンボジアです。
私にとって意外だったのは、カンボジアに行くツーリストは以外に多く、日本人もちらほら混じっていたことです。
スリランカですら日本人の個人旅行者などほとんど見かけず(サトミ一人にしか会わなかった)やはり内戦の影響かと思っていたのに、もっとヤバイはずのカンボジアに旅行に行くというのはどういう神経なんだろうと思いました。
乗合タクシーでプノンペン市内へ・・高層建築がほとんどなく意外にきれいな街並に見えました。
中心部に位置する安ホテルに宿をとりましたが値段のわりには清潔で従業員の態度もよく気に入りました。
ホテルの一階にあるオープンレストランで食事をとります。
メニューがびっくりするほど多く、しかも安くてウマい!
・・・なんだ。プノンペンけっこういいとこじゃん。
こういう風にすぐ油断するのが私の悪い癖です。
さて、このレストランの壁に何か日本語の印刷物が貼ってあります。
なんだろうと思い読んでみると日本大使館から旅行者への注意事項でした。
内容はこんなかんじ。
『プノンペン市内では旅行者を狙った強盗事件が多発しております。夜間の外出は控えてください。犯行には実際の銃器が使用されていますので被害にあっても決して抵抗しないでください』
私はこの注意事項をしっかり胸に刻んでおこうと思いました。
バンコクでサトミと再会する前に命を落としでもしたら、シャレになりません。
「プノンペンて女性が多いとおもいませんか?」と中田さん。
・・言われてみると女性が多い・・というより男性がすくないような。
「多分、ポルポト派が男をたくさん殺しちゃったから男女の比率が狂ってしまってるんですよ」
・・・そうなのか。
しかしそのような事は中田さんに言われなければおそらく私はまったく気がつかなかったでしょう。
ホテルの従業員は男性だし、ホテル周辺にたむろするバイクタクシーの運転手も男性です。しかし市内を見回すとたしかに女性が多いのです。
・・・その点にいちはやく気づく中田さん・・・ただものではない。
さきほどまで私は物売りのおばさんの笑顔や、意外ににぎやかで活気のある街に目を奪われていましたが、中田さんの話を聞いてあらためて見てみるとここにはかつてこの街を襲った・・そして今も続いている恐ろしい暴力の爪痕がいたるところにしるされていました。
「ま、それはともかく仕事しましょう」気をとりなおしてプノンペン中央市場へ。
ここでの私のおもな仕事は中田さんが買い付けをはじめると群がってくる物乞いを追い払うこと。
私はスリランカで物乞いには慣れきっていました(スリランカの物乞いは、あのインドをくぐってきたベテラン旅行者ですらひるむしつこさです)
・・が、ここの物乞いは手足のない人・・軍服を着た傷痍軍人・・などが多く胸が痛みます。しかし感傷的になってばかりはいられません。仕事は仕事。
中田さんは商品をきびしくチェックしてめぼしいものがあると徹底した値切り交渉をはじめます。
これが長い!店のひとが「帰れ!」と怒り出しても自分の言い値をなかなか譲らない。
だからこそ中央市場ただ一個所の買い付けに5日間もの日程を組んだわけです。
バイヤーという職業は、一見すると普通のバックパッカーと見分けがつかない人が多いのですが、実はその懐には常に大金を忍ばせているわけです。
したがってバイヤーであることが知られると狙われる危険があります。
中田さんが私をボディガードに雇ったのはそういう事情からなのです。
同業者のあいだでも「中田が通ったあとには草一本残らない」と恐れられる中田さんの仕事は、着実に成果をあげています。
私たちは毎日ホテルのレストランで朝食後、中央市場へ行き夕方まで仕事して、日が暮れないうちにホテルに戻り夕食を食べたりビールを飲んだりして1日を終えるというスケジュールでした。
三日目の夜ホテルのレストランで夕食を食べながらのミーティング。
「今回はわりと早く仕事が片付きました。トミーさんのおかげです。明日はどこか遊びにいきましょう」
「本当ですか。でもプノンペンて何があるんですかね。そこらにいる日本人の旅行者にでも聞いてみましょうか?」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫は私を愛してくれない
はくまいキャベツ
恋愛
「今までお世話になりました」
「…ああ。ご苦労様」
彼はまるで長年勤めて退職する部下を労うかのように、妻である私にそう言った。いや、妻で“あった”私に。
二十数年間すれ違い続けた夫婦が別れを決めて、もう一度向き合う話。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる