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究極のメニューを食す
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佛跳牆(ファッチューチョン)!!
数ある中華料理の中でも最高級に属するという、この料理に関する私の知識は、あのグルメ漫画の草分け「美味しんぼ」によるものでした。
この漫画は新聞社に勤めるグータラ社員・山岡と新入女子社員・栗田のコンビが「究極のメニュー」を作るということでスタートしました。
しかし、主人公の山岡はさすがグータラというだけあって、いつまでたっても「究極のメニュー」を作りません。
そんな山岡が連載開始から数年もたった、あるエピソードでついに!
「これぞ究極のメニューのひとつ!」
と初めて高らかに宣言した料理なのです。
名前の由来は「煩悩を絶つべく修行中の僧でも、この匂いを嗅げば塀を飛び越えてやってくる」
という意味だそうです。
佛跳牆は烏骨鶏のスープなどをベースに、干しアワビ、干しナマコ、フカヒレ、高麗人参といった目玉の飛び出そうな高級素材を十数種類。
磁器の椀などに詰めて蒸し器で10時間以上蒸しあげたスープです。
このスープを東京の高級店などで注文すれば、一椀で軽く4万円以上は取られるという超高級料理です。
物価の安いバンコクとはいえ、そもそもの材料が高価ですから決して安くはないでしょう。
そんな高級料理を中田さんは、弱っている私のためにご馳走してくれるというのです。
中田さんはレストランを予約するため電話をかけています。
電話が終わると中田さんは私に言いました。
「トミーさん、ではすぐに出かけましょう」
宿の玄関を出てすぐにタクシーを止めて市内に繰り出します。
目的のレストランの場所はチャイナタウンではなく、高級ホテルの立ち並ぶチャオプラヤー川付近でした。
中華料理店特有のケバケバしさがまったくない、いかにも高級なレストランのテーブルに着きます。
メインの佛跳牆の前に出てきた料理は、タイ特産の手長エビをソテーしたものにXOソースをかけたものです。
これをナイフとフォークを使って食べるのです。
プリプリと引き締まったエビと、少しピリ辛ですが旨味の凝縮されたソース。
これは、美味すぎます!
スリランカではゴールの中華料理に感激していた私ですが、ここの料理はもう次元が違います。
やがて運ばれてきたメインの佛跳牆。
蓋を取ると見えるのは、琥珀色のスープの中にゴロゴロした多くの高級食材の具です。
ここまでの高級料理となると、その味を表現する語彙が私にはありません。
とにかく今までに食べたことのない味としか言いようがないのです。
美味しい食事をいただきながら、私はスリランカでの出来事を話しました。
この「空手バックパッカー放浪記」の、初めての聞き手は他ならぬ中田さんだったのです。
(まさか後に自分も登場人物になるとは思ってなかったでしょうが)
私はもちろん、サトミからの電話の取次ぎをお願いすることを忘れませんでした。
中田さんは笑いながら言います。
「スリランカで日本人の彼女を作って帰ってくるなんてやるなあ。スリランカ行きの前日のゲストハウスでもそうだったけど、トミーさんて、意外に女性に手が早いですよねえ」
・・・いや、そんなことは全然ないんだけど、たまたまそうなっただけで。。
「中田さん、あのゲストハウスの女の子とのことは、くれぐれもサトミには内緒でお願いします」
中田さんは、ははは・・と今度は声を出して笑いました。
「僕は鬼じゃないですよ~トミーさん。もちろん内緒にしておきます。こういうことはお互い様です」
数ある中華料理の中でも最高級に属するという、この料理に関する私の知識は、あのグルメ漫画の草分け「美味しんぼ」によるものでした。
この漫画は新聞社に勤めるグータラ社員・山岡と新入女子社員・栗田のコンビが「究極のメニュー」を作るということでスタートしました。
しかし、主人公の山岡はさすがグータラというだけあって、いつまでたっても「究極のメニュー」を作りません。
そんな山岡が連載開始から数年もたった、あるエピソードでついに!
「これぞ究極のメニューのひとつ!」
と初めて高らかに宣言した料理なのです。
名前の由来は「煩悩を絶つべく修行中の僧でも、この匂いを嗅げば塀を飛び越えてやってくる」
という意味だそうです。
佛跳牆は烏骨鶏のスープなどをベースに、干しアワビ、干しナマコ、フカヒレ、高麗人参といった目玉の飛び出そうな高級素材を十数種類。
磁器の椀などに詰めて蒸し器で10時間以上蒸しあげたスープです。
このスープを東京の高級店などで注文すれば、一椀で軽く4万円以上は取られるという超高級料理です。
物価の安いバンコクとはいえ、そもそもの材料が高価ですから決して安くはないでしょう。
そんな高級料理を中田さんは、弱っている私のためにご馳走してくれるというのです。
中田さんはレストランを予約するため電話をかけています。
電話が終わると中田さんは私に言いました。
「トミーさん、ではすぐに出かけましょう」
宿の玄関を出てすぐにタクシーを止めて市内に繰り出します。
目的のレストランの場所はチャイナタウンではなく、高級ホテルの立ち並ぶチャオプラヤー川付近でした。
中華料理店特有のケバケバしさがまったくない、いかにも高級なレストランのテーブルに着きます。
メインの佛跳牆の前に出てきた料理は、タイ特産の手長エビをソテーしたものにXOソースをかけたものです。
これをナイフとフォークを使って食べるのです。
プリプリと引き締まったエビと、少しピリ辛ですが旨味の凝縮されたソース。
これは、美味すぎます!
スリランカではゴールの中華料理に感激していた私ですが、ここの料理はもう次元が違います。
やがて運ばれてきたメインの佛跳牆。
蓋を取ると見えるのは、琥珀色のスープの中にゴロゴロした多くの高級食材の具です。
ここまでの高級料理となると、その味を表現する語彙が私にはありません。
とにかく今までに食べたことのない味としか言いようがないのです。
美味しい食事をいただきながら、私はスリランカでの出来事を話しました。
この「空手バックパッカー放浪記」の、初めての聞き手は他ならぬ中田さんだったのです。
(まさか後に自分も登場人物になるとは思ってなかったでしょうが)
私はもちろん、サトミからの電話の取次ぎをお願いすることを忘れませんでした。
中田さんは笑いながら言います。
「スリランカで日本人の彼女を作って帰ってくるなんてやるなあ。スリランカ行きの前日のゲストハウスでもそうだったけど、トミーさんて、意外に女性に手が早いですよねえ」
・・・いや、そんなことは全然ないんだけど、たまたまそうなっただけで。。
「中田さん、あのゲストハウスの女の子とのことは、くれぐれもサトミには内緒でお願いします」
中田さんは、ははは・・と今度は声を出して笑いました。
「僕は鬼じゃないですよ~トミーさん。もちろん内緒にしておきます。こういうことはお互い様です」
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