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傷心、そして傷身
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「じゃあトミーさん、いってきます」
サトミが明るい声で言います。
「いってらっしゃい」
私も努めて平静を装ってそう言います。
そしてビーチ沿いの道を、バックパックを背負って遠ざかっていくサトミの姿を、いつまでも見送っていました。
部屋に戻った私は予想以上の喪失感に襲われていました。
ベッドに倒れこみます。
・・・まだサトミの温もりが残っている
いやこれは窓から差し込む陽光のせいです。
しばらく魂の抜け殻のように横たわっていた私は、しかし意を決して起き上がりました。
・・・情けないぞ。バンコクまで、たった1月弱の辛抱じゃないか。
ベッドから立ち上がろうとした私は、足の側面、空手でいうところの足刀部にカーッと熱を帯びた痛みを感じました。
驚いた私はベッドに座り、自分の足を確認します。
例の海岸で切った傷がまるで腐ったトマトのようにジュクジュクした状態になっています。
カーゴパンツを脱いでトランクス一枚になると、脚全体に数十か所に渡り、化膿した吹き出物のようなものがあります。
・・・なんだこれは?
とりあえず私はそれらにサトミに貰った傷薬を塗ってから、カーゴパンツを履きました。
そしてしばらく部屋の中を歩き回りましたが、それほど傷が痛むというわけではありませんので、気にしないことにしました。
サトミが出て行ってからも、インドゥルワの宿には3日ほど滞在しました。
ビーチを見ても、部屋に帰っても、そこにサトミの姿を探す私が居ました。
そして4日目の朝、私はコロンボに帰ることを決めました。
サトミの居ないビーチで、サトミの影を探すようなことをしている自分が嫌になったのです。
・・・コロンボに帰って、仕事の最後の仕上げをしよう。
・・・・
「センパーイ!おかえりなさい。あれ、センパイなんだかすごく痩せてませんか?」
**ホテルのロビーに出迎えてくれたデワが言います。
「ん?そうかな?まあいいや、道場の様子はどうよ?」
「センパイ、さっそく今日の稽古を見てください。きっと驚きますよ」
「ふーん、勿体つけるね。わかった今日の稽古見に行くよ」
ひさびさの**ホテルの部屋で稽古時間までしばし休息を取ります。
コロンボに帰っても、虚脱感はまったく無くなりません。
・・・僕はこんなに女々しい男だったのかなあ。
ひと眠りして目を覚ましました。
なんだか頭がフラフラします。しかしそろそろ稽古時間です。
重い体を起こして、道場に向かいます。
あれ、道場がなんだか騒がしいな・・・
道場には空手着を着た少年少女、青年たちが入りきれないほど居ます。
「何これデワ?今日は何かイベントでもあるのか?」
デワがニヤニヤ笑いながら言います。
「何言ってるんですかセンパイ。みんなウチの道場生ですよ」
・・・ええっ?なんで急にこんなに生徒が増えてるの??
「センパイとにかく道場生に挨拶させますよ。みんなこっちに注目!われらの指導員、トミーセンパイが帰ってきましたよ」
ワーッという歓声とともに一斉にこちらを向いた生徒たち。
「オース!」と全員で礼をしてくれました。
「ああ、新入門生のみなさんは初めましてトミーです。どうぞ稽古を始めてください」
私はデワの方を向き直って言いました。
「何これ?いったいどうなってるんだ?」
「ふふふ・・何もこれも全部センパイのおかげですよ。あっニコラさんが来た」
道場前の廊下を稽古着を着たニコラが歩いて来ます。
「ああっトミー!やっと帰ってきたか」私を発見したニコラが言います。
「オッス、ニコラ。ひさしぶり」
「あれ、お前なんだかひどく痩せてないか?」
「そうかな?さっきデワにも言われたんだけど」
道場ではほとんどすし詰め状態の道場生たちが準備運動を始めています。
見るとボウイが前に立って号令をかけています。
・・・緑の帯を締めている。ボウイ昇級したんだな。
「ところで何でこんな急に生徒が増えたのさ」
もう一度デワに尋ねます。
「センパイ、破壊王とやりあったんでしょ?先輩が破壊王と互角に渡り合ったって評判で入門生が集まったんです」
「ええっ?なんでこんな短期間でそんな評判が広がったわけ?」
「それは破壊王本人がふれ回ったからですよ。中空会のトミーは大した空手家だって」
・・・ベビスがそんなことを・・僕の宣伝活動に協力してくれているのかな。
自分の名声に傷が付くかもしれないのに・・・ベビスは本当にいい男なんだな。
そこにニコラが口を挟みます。
「トミー、本当に腹立つぜ。その評判は本当なら俺のものだったんだぞ。それをお前が卑怯な手を使って持っていきやがって!」
まだニコラは悔しいみたいです。
しかし、それは放置してデワに言い放ちます。
「まあでもこれで僕は心残りなく帰れるな。デワ、大至急道場生リストを用意して。中川先生にFAXするから」
デワは驚いた顔で言います。
「なんで?せっかっくセンパイの評判で生徒が増えたのに、そのセンパイが帰ってどうするのさ」
「馬鹿野郎デワ、考えてみろ。僕が破壊王と互角に渡り合ったなんて評判になっているのなら、すぐに来るぞ。ニコラみたいな好戦的な奴らが」
「ああ、そういえばそうですね」
「だから僕は一刻も早くスリランカから逃げる。そんな連中相手にしてたら身が持たないよ」
「でもセンパイ!センパイが居なくなってから、そういう連中が来たらどうするんですか?」
「そのときはニコラに相手してもらえよ。なあ、ニコラもそういうの相手にするのは得意だろ?」
ニコラがニヤリと笑って言います。
「まかしとけよ。片っ端から返り討ちにして、俺がトミーに代わって伝説になるさ」
「それを聞いて安心した。ああなんだか疲れたな・・」
また頭がフラつきました。
「おい、トミーその足どうした?うわ!」ニコラが叫びます。
「センパイ、なんかおかしいよ、それ!」デワもつづきます。
ん?足??
見ると私の足の傷の部分が真っ黒になっている。
もっとよく観ると、そこには無数のハエがたかっているのでした。
サトミが明るい声で言います。
「いってらっしゃい」
私も努めて平静を装ってそう言います。
そしてビーチ沿いの道を、バックパックを背負って遠ざかっていくサトミの姿を、いつまでも見送っていました。
部屋に戻った私は予想以上の喪失感に襲われていました。
ベッドに倒れこみます。
・・・まだサトミの温もりが残っている
いやこれは窓から差し込む陽光のせいです。
しばらく魂の抜け殻のように横たわっていた私は、しかし意を決して起き上がりました。
・・・情けないぞ。バンコクまで、たった1月弱の辛抱じゃないか。
ベッドから立ち上がろうとした私は、足の側面、空手でいうところの足刀部にカーッと熱を帯びた痛みを感じました。
驚いた私はベッドに座り、自分の足を確認します。
例の海岸で切った傷がまるで腐ったトマトのようにジュクジュクした状態になっています。
カーゴパンツを脱いでトランクス一枚になると、脚全体に数十か所に渡り、化膿した吹き出物のようなものがあります。
・・・なんだこれは?
とりあえず私はそれらにサトミに貰った傷薬を塗ってから、カーゴパンツを履きました。
そしてしばらく部屋の中を歩き回りましたが、それほど傷が痛むというわけではありませんので、気にしないことにしました。
サトミが出て行ってからも、インドゥルワの宿には3日ほど滞在しました。
ビーチを見ても、部屋に帰っても、そこにサトミの姿を探す私が居ました。
そして4日目の朝、私はコロンボに帰ることを決めました。
サトミの居ないビーチで、サトミの影を探すようなことをしている自分が嫌になったのです。
・・・コロンボに帰って、仕事の最後の仕上げをしよう。
・・・・
「センパーイ!おかえりなさい。あれ、センパイなんだかすごく痩せてませんか?」
**ホテルのロビーに出迎えてくれたデワが言います。
「ん?そうかな?まあいいや、道場の様子はどうよ?」
「センパイ、さっそく今日の稽古を見てください。きっと驚きますよ」
「ふーん、勿体つけるね。わかった今日の稽古見に行くよ」
ひさびさの**ホテルの部屋で稽古時間までしばし休息を取ります。
コロンボに帰っても、虚脱感はまったく無くなりません。
・・・僕はこんなに女々しい男だったのかなあ。
ひと眠りして目を覚ましました。
なんだか頭がフラフラします。しかしそろそろ稽古時間です。
重い体を起こして、道場に向かいます。
あれ、道場がなんだか騒がしいな・・・
道場には空手着を着た少年少女、青年たちが入りきれないほど居ます。
「何これデワ?今日は何かイベントでもあるのか?」
デワがニヤニヤ笑いながら言います。
「何言ってるんですかセンパイ。みんなウチの道場生ですよ」
・・・ええっ?なんで急にこんなに生徒が増えてるの??
「センパイとにかく道場生に挨拶させますよ。みんなこっちに注目!われらの指導員、トミーセンパイが帰ってきましたよ」
ワーッという歓声とともに一斉にこちらを向いた生徒たち。
「オース!」と全員で礼をしてくれました。
「ああ、新入門生のみなさんは初めましてトミーです。どうぞ稽古を始めてください」
私はデワの方を向き直って言いました。
「何これ?いったいどうなってるんだ?」
「ふふふ・・何もこれも全部センパイのおかげですよ。あっニコラさんが来た」
道場前の廊下を稽古着を着たニコラが歩いて来ます。
「ああっトミー!やっと帰ってきたか」私を発見したニコラが言います。
「オッス、ニコラ。ひさしぶり」
「あれ、お前なんだかひどく痩せてないか?」
「そうかな?さっきデワにも言われたんだけど」
道場ではほとんどすし詰め状態の道場生たちが準備運動を始めています。
見るとボウイが前に立って号令をかけています。
・・・緑の帯を締めている。ボウイ昇級したんだな。
「ところで何でこんな急に生徒が増えたのさ」
もう一度デワに尋ねます。
「センパイ、破壊王とやりあったんでしょ?先輩が破壊王と互角に渡り合ったって評判で入門生が集まったんです」
「ええっ?なんでこんな短期間でそんな評判が広がったわけ?」
「それは破壊王本人がふれ回ったからですよ。中空会のトミーは大した空手家だって」
・・・ベビスがそんなことを・・僕の宣伝活動に協力してくれているのかな。
自分の名声に傷が付くかもしれないのに・・・ベビスは本当にいい男なんだな。
そこにニコラが口を挟みます。
「トミー、本当に腹立つぜ。その評判は本当なら俺のものだったんだぞ。それをお前が卑怯な手を使って持っていきやがって!」
まだニコラは悔しいみたいです。
しかし、それは放置してデワに言い放ちます。
「まあでもこれで僕は心残りなく帰れるな。デワ、大至急道場生リストを用意して。中川先生にFAXするから」
デワは驚いた顔で言います。
「なんで?せっかっくセンパイの評判で生徒が増えたのに、そのセンパイが帰ってどうするのさ」
「馬鹿野郎デワ、考えてみろ。僕が破壊王と互角に渡り合ったなんて評判になっているのなら、すぐに来るぞ。ニコラみたいな好戦的な奴らが」
「ああ、そういえばそうですね」
「だから僕は一刻も早くスリランカから逃げる。そんな連中相手にしてたら身が持たないよ」
「でもセンパイ!センパイが居なくなってから、そういう連中が来たらどうするんですか?」
「そのときはニコラに相手してもらえよ。なあ、ニコラもそういうの相手にするのは得意だろ?」
ニコラがニヤリと笑って言います。
「まかしとけよ。片っ端から返り討ちにして、俺がトミーに代わって伝説になるさ」
「それを聞いて安心した。ああなんだか疲れたな・・」
また頭がフラつきました。
「おい、トミーその足どうした?うわ!」ニコラが叫びます。
「センパイ、なんかおかしいよ、それ!」デワもつづきます。
ん?足??
見ると私の足の傷の部分が真っ黒になっている。
もっとよく観ると、そこには無数のハエがたかっているのでした。
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