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噂の真相

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「トミー、まだコーラが残ってるぜ、一休みしたらどう?」
ボブが言います。

文字で書くとすごく長い時間が経過したみたいですが、立ち会ったのはほんの2分程度。
ベビスの講義が10分程度なので、まだコーラは飲めるでしょう。

「じゃあ私もコーラをもらおう。トミー座って話そうよ」
ということで、ベビスを交えてテーブルに着きます。

「トミー、ツイてたな。破壊王に会えて」ボブが言います。
誰が会いたいって言った?おかげで怖い目にあったぞ!
・・・もっとも今は会えてよかったと思っていますので、その言葉は飲みこみました。

ボブの言葉を聞いたベビスが苦笑いを浮かべて言います。
「ふふ・・破壊王か・・・その噂が大きくなってるので、私は少々迷惑してるんだよね」

「僕もキャンディであなたの噂を聞きましたよ。なのであなたはもっと狂暴な方かと思っていました。紳士的な武道家なので驚いています」
私が言うと・・・

「だからトミー、立ち合おうって言ったらかなり躊躇していたんだね。ああ、そういえば」
ベビスがコーラを飲みながら私に質問しました。

「さっきの立ち合いだけどね、トミー、最後に何かやろうとしてたんじゃないか?すごい殺気を感じたんで、あそこで止めたんだよ。つづけたら怪我無しですまなくなりそうでさ」
・・・さすがです。気づかれていたか!

「いや実は、僕はあなたが噂通りに僕を五体満足では帰さないと思ってたので、一か八かで喉笛に噛みつこうと思ってたんです」

「ええっ?喉笛に噛みつくって、おいおい。私を殺すつもりだったのか?あそこでとめてよかったよ」
ベビスはかなり驚いた顔です。
もっとも仮に噛みつきに行ったとしても、勝算はわずかだったでしょうから、命拾いしたのはこちらです。

「そういうことになるからなあ。噂には迷惑してるんだよなあ」

「ええ、実際のところ、あの噂はどうなんですか?」

「噂にはかなり尾ひれが付いてる。まず私は父親も軍人だったし、児童労働しなきゃならないほど家は貧しくなかった」
・・・たしかに教育を受けていない人には見えません。

「イギリスでボクシングをやってプロで5連勝したのは本当だ。たしかにスリランカ人としては初の快挙だったと思うよ。でも5勝のうちKO勝ちは2つだけ。あとは判定勝ちだ」

「そうなんですか・・・しかしKOされた相手は再起不能とか脳挫傷とかいうのは?」

「ないない。みんなすぐに復帰しているよ」

「じゃあ、なんでボクシングをやめたんですか?」

ベビスはまたも苦笑しながら言います。

「うん、単に私にはボクシングは向いてないと思ったんだよ。ただ相手を打ちのめすだけのスポーツというのはどうもね」

「では空手大会での噂はどうなんです?」

「決勝戦で直接打の反則を取られたのは事実だ。まだ未熟だったんだよ。でも相手は前歯がちょっと欠けた程度だよ。粉砕骨折は大げさだ」

「でも、あなたは表舞台から消えた」

「まあ一度出たらトーナメントはもういいかなと思って。私はカッサバ先生の精神性に惹かれて入門したから、トロフィーとかはどうでもよかったんだ」

「ええと、血を求めて軍隊へ・・とかいうのは?」

「父が軍人だったし、私も愛国心から軍人になった。しかし、私は平和を望んでいる。スリランカに早く平和が訪れることを・・」

そういって、ベビスは目を瞑ります。
平和を愛するベビスはしかし、戦地でいろいろ悲惨なものを見てきたのでしょう。

「挑戦者をことごとく病院送りにしたとか、そんなことしてないよ」
目を開けてベビスが言います。

「オランダ人のキックボクサーを再起不能にしたってのは?」

「ああ、あいつはたしかにかなりひどい目に合わせたな。キックボクサーじゃないよ。頭のおかしいチンピラさ。キックの腕は大したことないけど、街中でナイフで襲ってきたんだ」

「ええっ!ナイフでですか?」

「だから腕の一本もへし折ったかもしれないけど、再起不能てことはないだろう」

「そうなんですか・・・・」

「そんな調子でね、噂ってのは尾ひれが付いて広まるのさ。私は今では血に狂った破壊王だよ」

かなり後年ですが、私自身が私の噂をバンコク、カオサンのゲストハウスで聞いて驚いたことがあります。

曰く、スリランカで道場破りをして回っただの、カンボジアで銃を持ったポルポト兵を素手で倒しただの・・・

いや、もっとひどかったのは、私が毒ガステロを起こした宗教団体の幹部だという噂や、集団で女性を殺害した犯行グループの一員というのもありました。

まあしかし噂なんて多くはそんなものなのでしょう。

・・・・・

私は楽しかったヌワラエリヤの思い出と、ベビスの教えを胸にコロンボへの帰途につきました。

・・・僕が居ない間、デワはちゃんとやっているのだろうか?

という不安も胸に。
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