空手バックパッカー放浪記

冨井春義

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破壊王ベビス登場!

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店の奥から人影が現れます。

歩いてくる男の、第一印象は「箱」。四角いのです。

身長は私よりやや低い173cmくらいか?

しかし肩幅が広い。胸板も厚い。そして太い腕。

軍人らしく短く刈り込んだ髪、顔にはぜい肉が無く眼光が鋭い。

一見して只者ではありません。

その男がこちらのテーブルに向かって歩いてきます。

その歩き方にはノッシノッシという擬音が似合いそう。

私の脇の下から、いや~な汗がタラリと流れました。

この男が破壊王ベビス!

対戦相手をことごとく破壊する呪われた拳の持ち主。

血に飢えた拳の渇きを癒すため、戦場に赴いたソルジャー!

やってきたベビスは黙って親父、いや弟の横に立って私の顔をじっと見つめます。

私は思わず目を逸らしました。

逸らした先にはボブたち3人が居ますが、こいつら何も感じないのか?

平気な顔してコーラ飲んでます。

「兄貴は5人相手に戦えるぜ。日本人、お前は何人相手にできる?」

弟が私に問いかけました。ベビスは黙っています。

ええと・・・何か言わなきゃ・・・必殺「口車」が通じるだろうか?

でも何を言えばいい?必死で考えました。

ふと、映画のワンシーンが頭に浮かびました。

「ベストキッド」のミヤギ先生のセリフです。

思い出しながら必死で口に出します。

「カ・・カラテ・イズ・ディフェンス・オンリー」

劇中で『空手に先手なし』を英訳したものです。

「カラテ・イズ・ノット・フォー・ファイト」

さらにアドリブでしゃべり続けます。すると。

「君の言うとおりだ」

なんとベビスがそう返したのです。

「空手は守るためのものであって、むやみに人を傷つけるためのものではない」

そう言うと相好を崩して私の手を握ります。

握手のつもりなのでしょうが、すごい握力を感じます。

「私はベビスだ。君は?」

「お・・押忍・・トミーといいます」

ベビスはさらに笑顔を見せると

「やはり君がトミーか。話には聞いてる」

・・・話には聞いてる?いつのまにかそんなに有名になっていたのか?

「私を訪ねてくる空手家や格闘家はやたら好戦的なのが多くてね。これまでわざわざ私を訪ねてきて、君のようなことを言った人は居なかったんだ。先ほどは無礼な態度をして悪かった」

・・・いや、別にわざわざ訪ねたわけじゃないんだけど。まあいいか。

これはわりと簡単にピンチを免れたようです。

ベビスは噂に聞いていたほど、血に飢えた獣ではないようだ。

むしろ紳士的な物腰です。

「君のように正しい空手道を心得ている人に会えてうれしいよ」

「押忍、恐縮です」

ああ、ほっとしました・・・

「じゃあ早速、そこの空き地で立ち合おうか」

・・・え?!
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